42 / 56
恋心が揺れる夜、聞こえてしまった声
しおりを挟む
「森野さんは……私が倒れたあの日、私の部屋でCDを偶然見て、過去に出会った女の子が私だと気付いたんだと思うんです。
実際、それ以来、森野さんは私を避けるようになりました。
きっと……私を見るだけで思い出してしまうんだと思うんです。過去のことも、いろいろと。
だから……私の気持ちは、やっと“今”を生きようとしている森野さんの足枷になるんじゃないかって……」
必死に絞り出した言葉に、杉野チーフは手元のお湯呑に視線を落とし、
「そっか……。じゃあ、このまま諦めるの?」
と、ぽつりと呟いて私をまっすぐ見た。
「私ね……柊さんが来てからの森野君、結構好きだったんだよ」
その言葉に思わず目を見開く。
「あ、誤解しないで。恋愛対象としてじゃなくてね?
以前の森野君って、いつも無表情で、何を考えてるのか本当に分からない奴だったの。
そのくせ、営業スマイル“だけ”は完璧でしょ?」
ここで一度お茶を口に含み、続ける。
「本当に嫌な奴だと思ってたよ。だって、出会ってからしばらくは真面目に仕事もしない、完全に“使えない人”だったんだから。
それがある日突然、真面目に働き始めて……気付いたら、玩具売り場の要になってた。
何を考えてるのか分からないし、いつも不満そうな顔してるし……」
ひとつひとつ思い返すように言うと、杉野チーフはふっと笑って私を見た。
「でもね、柊さんが来てから、あの人の表情ってすごく豊かになったのよ」
「え? 怒ってばっかりでしたよ?」
思わず慌てて返すと、杉野チーフは首を振る。
「柊さんが来る前は、それすらなかったの。
ムカつくくらいに全てに無関心でね。
だから……木月さんとも『最近の森野君、人間らしくなったよね』って話してたんだから」
楽しそうに笑った後、静かに言う。
「多分だけど……森野君、柊さんに惹かれてるんだと思う」
「そ、そんな……!
だったら、あんなにあからさまに避けたりしません!」
反論すると、杉野チーフはニヤッと笑った。
「避けてるねぇ~」
「……」
「まぁ、悩みなさい。
結局、答えは自分で出すしかないんだから」
優しい声でそう言って微笑む。
なんだか、心にひっかかる言葉を残されてしまい、私はモヤモヤした気持ちで杉野チーフと別れた。
お店まで車で送ってもらい、私はそこで降りることにした。
家まで送ると言ってくれたけど、気持ちを整理したかったので丁寧に断った。
店の前に立つと、すでに店内の電気はすべて消えていた。
三階の自分の売り場を見上げ、真っ暗な窓を確認して歩き出す。
そのとき──
お店の裏側から、誰かの話し声が聞こえた気がして足を止めた。
そっと事務所横の喫煙所を覗くと──
声の主は、店長と森野さんだった。
実際、それ以来、森野さんは私を避けるようになりました。
きっと……私を見るだけで思い出してしまうんだと思うんです。過去のことも、いろいろと。
だから……私の気持ちは、やっと“今”を生きようとしている森野さんの足枷になるんじゃないかって……」
必死に絞り出した言葉に、杉野チーフは手元のお湯呑に視線を落とし、
「そっか……。じゃあ、このまま諦めるの?」
と、ぽつりと呟いて私をまっすぐ見た。
「私ね……柊さんが来てからの森野君、結構好きだったんだよ」
その言葉に思わず目を見開く。
「あ、誤解しないで。恋愛対象としてじゃなくてね?
以前の森野君って、いつも無表情で、何を考えてるのか本当に分からない奴だったの。
そのくせ、営業スマイル“だけ”は完璧でしょ?」
ここで一度お茶を口に含み、続ける。
「本当に嫌な奴だと思ってたよ。だって、出会ってからしばらくは真面目に仕事もしない、完全に“使えない人”だったんだから。
それがある日突然、真面目に働き始めて……気付いたら、玩具売り場の要になってた。
何を考えてるのか分からないし、いつも不満そうな顔してるし……」
ひとつひとつ思い返すように言うと、杉野チーフはふっと笑って私を見た。
「でもね、柊さんが来てから、あの人の表情ってすごく豊かになったのよ」
「え? 怒ってばっかりでしたよ?」
思わず慌てて返すと、杉野チーフは首を振る。
「柊さんが来る前は、それすらなかったの。
ムカつくくらいに全てに無関心でね。
だから……木月さんとも『最近の森野君、人間らしくなったよね』って話してたんだから」
楽しそうに笑った後、静かに言う。
「多分だけど……森野君、柊さんに惹かれてるんだと思う」
「そ、そんな……!
だったら、あんなにあからさまに避けたりしません!」
反論すると、杉野チーフはニヤッと笑った。
「避けてるねぇ~」
「……」
「まぁ、悩みなさい。
結局、答えは自分で出すしかないんだから」
優しい声でそう言って微笑む。
なんだか、心にひっかかる言葉を残されてしまい、私はモヤモヤした気持ちで杉野チーフと別れた。
お店まで車で送ってもらい、私はそこで降りることにした。
家まで送ると言ってくれたけど、気持ちを整理したかったので丁寧に断った。
店の前に立つと、すでに店内の電気はすべて消えていた。
三階の自分の売り場を見上げ、真っ暗な窓を確認して歩き出す。
そのとき──
お店の裏側から、誰かの話し声が聞こえた気がして足を止めた。
そっと事務所横の喫煙所を覗くと──
声の主は、店長と森野さんだった。
0
あなたにおすすめの小説
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
思い出のチョコレートエッグ
ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。
慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。
秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。
主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。
* ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。
* 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。
* 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる