55 / 65
迷子の涙と、彼のぬくもり
しおりを挟む
しばらくして戻って来た森野さんも、普段は無表情なのにどこか楽しそうだった。
日が暮れるにつれて、運転担当の森野さんと山崎さん以外はアルコールが進み、宴会は最高潮。
私はお酒を飲んでいないので、みなさんの酔いっぷりにただただ圧倒されていた。
店長に至っては運転組の二人にまでお酒を勧めようとして、私と杉野チーフは必死で止めるのに大忙しだった。
夜も深まり、四月とはいえ山の上は底冷えしてきた。
私は上着を着ていたけれど、冷え込みにトイレへ行きたくなり、
「すみません、ちょっとトイレに行ってきますね」
と木月さんにだけこっそり伝えて席を立った。
山の頂上近くにある公園のトイレは思いのほか整備されていて、清潔でほっとした。
用を済ませ、みんなのいる場所へ戻ろうとしたその時——
どこからか、子どもの泣き声が聞こえた。
桜のライトアップの照明の下に、小さな兄妹が立って泣いていた。
人混みをかき分けて近付くと、女の子が泣きじゃくり、男の子は困ったようにその肩に手を置いている。
「どうしたの? 迷子になったの?」
森野さんが子どもに話しかける時と同じように、目線を合わせてしゃがみ込んでみた。
すると男の子が不機嫌そうに、
「ほら! お前が泣くから迷子だと思われただろ!」
と言って、妹のツインテールを引っ張った。
途端に女の子はわんわんと大泣きに逆戻り。
「ダメだよ、髪の毛引っ張ったら! お父さんやお母さんはどこ?」
まわりを見渡しても両親らしき姿はない。
男の子は不安をこらえていたのか、目をうるませながら、
「わかんない……。さっきまで一緒にいたのに、急に消えて……」
とつぶやいた。
(いや、それを迷子って言うんだけど……)
苦笑しながら、
「じゃあ、あそこの本部で——」
と案内所のテントを指した瞬間、泣いていた女の子がさらに顔を歪めて、
「お母さんが……知らない人に着いて行っちゃダメって言った……!」
と泣き出した。
(……素晴らしい教育だけど、今は困る……!)
どうしたものかと焦っていると——
「柊? 戻ってこないから見に来たら……何してんだよ」
背中から聞き慣れた低い声。
振り返ると森野さんが呆れたような顔で立っていた。
「お前……泣かせてるんじゃないだろうな。玩具売り場の店員だろ?」
とため息を吐きながら近付いてきたが、すぐに状況を理解したらしく、男の子の頭に大きな手を乗せた。
「頑張ったな。兄ちゃんだから、妹を守ってたんだよな」
そう言って男の子をひょいっと抱き上げた。
その言葉に男の子の目からぼろぼろと涙が溢れる。
「お兄ちゃんは……妹を守んなきゃダメなんだぞ!」
必死に涙をこらえながら袖で顔を拭う姿に胸が痛む。
「偉いじゃないか。名前は?」
男の子に優しく声を掛け、次に女の子に視線を向けると、
「まい……」
と小さく答えた。
——森野さんの抱き方も、声の掛け方も、全部優しい。
胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
日が暮れるにつれて、運転担当の森野さんと山崎さん以外はアルコールが進み、宴会は最高潮。
私はお酒を飲んでいないので、みなさんの酔いっぷりにただただ圧倒されていた。
店長に至っては運転組の二人にまでお酒を勧めようとして、私と杉野チーフは必死で止めるのに大忙しだった。
夜も深まり、四月とはいえ山の上は底冷えしてきた。
私は上着を着ていたけれど、冷え込みにトイレへ行きたくなり、
「すみません、ちょっとトイレに行ってきますね」
と木月さんにだけこっそり伝えて席を立った。
山の頂上近くにある公園のトイレは思いのほか整備されていて、清潔でほっとした。
用を済ませ、みんなのいる場所へ戻ろうとしたその時——
どこからか、子どもの泣き声が聞こえた。
桜のライトアップの照明の下に、小さな兄妹が立って泣いていた。
人混みをかき分けて近付くと、女の子が泣きじゃくり、男の子は困ったようにその肩に手を置いている。
「どうしたの? 迷子になったの?」
森野さんが子どもに話しかける時と同じように、目線を合わせてしゃがみ込んでみた。
すると男の子が不機嫌そうに、
「ほら! お前が泣くから迷子だと思われただろ!」
と言って、妹のツインテールを引っ張った。
途端に女の子はわんわんと大泣きに逆戻り。
「ダメだよ、髪の毛引っ張ったら! お父さんやお母さんはどこ?」
まわりを見渡しても両親らしき姿はない。
男の子は不安をこらえていたのか、目をうるませながら、
「わかんない……。さっきまで一緒にいたのに、急に消えて……」
とつぶやいた。
(いや、それを迷子って言うんだけど……)
苦笑しながら、
「じゃあ、あそこの本部で——」
と案内所のテントを指した瞬間、泣いていた女の子がさらに顔を歪めて、
「お母さんが……知らない人に着いて行っちゃダメって言った……!」
と泣き出した。
(……素晴らしい教育だけど、今は困る……!)
どうしたものかと焦っていると——
「柊? 戻ってこないから見に来たら……何してんだよ」
背中から聞き慣れた低い声。
振り返ると森野さんが呆れたような顔で立っていた。
「お前……泣かせてるんじゃないだろうな。玩具売り場の店員だろ?」
とため息を吐きながら近付いてきたが、すぐに状況を理解したらしく、男の子の頭に大きな手を乗せた。
「頑張ったな。兄ちゃんだから、妹を守ってたんだよな」
そう言って男の子をひょいっと抱き上げた。
その言葉に男の子の目からぼろぼろと涙が溢れる。
「お兄ちゃんは……妹を守んなきゃダメなんだぞ!」
必死に涙をこらえながら袖で顔を拭う姿に胸が痛む。
「偉いじゃないか。名前は?」
男の子に優しく声を掛け、次に女の子に視線を向けると、
「まい……」
と小さく答えた。
——森野さんの抱き方も、声の掛け方も、全部優しい。
胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同期に恋して
美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務
高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部
同期入社の2人。
千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。
平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。
千夏は同期の関係を壊せるの?
「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる