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ピンチがチャンス?

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  あの日から、俺は高杉様がいらっしゃる時間はわざと裏に入るようになった。
会いたいけど、決定打を言われるよりはまだマシだと言い聞かせて逃げ続けていたんだ。
裏の倉庫の棚を整理していると
「あれ?熊谷、珍しいな。お前、厨房に居なくて良いのか?」
と声を掛けられた。
振り返ると、フロア担当の鈴木さんが立っている。
「あ!あの、そろそろ棚の整理もしとかないと……」
そう言って誤魔化すと
「ふ~ん。なぁ……お前、あの客が好きなんじゃねぇの?」
と不意打ちを食らった。
驚いて紙ナプキンの箱を落としてしまう。
「ビンゴか。何?お前、お仲間だったの?」
そう言うと、鈴木さんがゆっくりと近付いて来る。
俺は慌てて箱を拾い、元の位置に戻しながら必死に誤魔化そうとした。
「な……何の話しですか?」
そう言って振り向いた瞬間、鈴木さんの両腕が俺を閉じ込めるように両手を棚に着いて腕の中に閉じ込めた。
「とぼけんなよ。お前があの美人に熱視線送ってんの、気付かないとでも思ってる訳?おめでたいなぁ~」
喉で笑われて、顔が熱くなる。
「大方、相手にバレてここに逃げ込んでるんだろう?」
揶揄うように言われて、視線を下に落とした。
「お前さ……折角良い顔してんだからさ、もっと自信持てば?俺らの溜まり場来れば、お前に抱かれたい奴等がゴロゴロ居るぞ」
そう言われて、俺はギッと鈴木さんを睨み付けた。
「あれ?もしかしてお前、そっちじゃなくて抱かれたいとか?この身体付きで?マジか!」
鈴木さんは驚いた顔をしてから、笑い出した。

分かってた
自分が抱かれたいなんて、そんなのおこがましいって……
でも、分かってても、人に言われると傷付く

悔しくて俯いていると、突然、顎を掴まれて
「抱いて上げても良いぜ。本来なら、小島みたいなタイプが好みだけど……。まぁ、入れちまえば変わらないしな」
下卑た笑いをする鈴木さんを睨むと、鈴木さんは俺の身体を抱き締めて、背中から腰のラインを撫でると
「お前みたいな奴、抱いてくれる奴なんか居ないだろう?俺が可愛がってやるから、せめて喘ぎ声くらいは可愛く鳴いてくれよ」
と耳元で囁かれた。
ゾワリと身の毛がよだち、気付いたら鈴木さんを突き飛ばしていた。
鈴木さんは勢い良く吹っ飛んで、反対側の壁に背中を打ち付けたらしい。
床に蹲った状態で倒れている。
物音を聞き付けて、店長と友也が飛び込んで来た。
「痛てぇ……」
鈴木さんがそう呻くと
「これは……一体どういう事だ?」
戸惑う店長に
「店長!俺は手伝いに来てやったのに、こいつが余計なお世話だって突き飛ばして来たんです!」
と鈴木さんが叫んだ。
でも、突き飛ばしたのは事情。
俺が黙っていると
「本当に?俺、熊さんが何もしない人にそんな事するとは思えない!」
と、友也が俺の前に立ち塞がった。
「鈴木さん。いつも俺が倉庫の棚を整理していると、俺のケツ触りますよね?熊さんにもやったんじゃないんですか?」
怒った顔をする友也に
「はぁ?こんなガタイ良い男のケツなんか、誰が触るかよ!」
吐き捨てるように鈴木さんが叫んだ。
すると
「それは、倉庫の防犯カメラを見たら分かりますよね」
と、ドアの向こうから逆光を浴びた人物が呟いた。
「はぁ?防犯カメラ?」
鈴木さんが鼻で笑って言うと、ゆっくりと歩きながら
「えぇ、私がオーナーに助言しました」
そう言って、まさかの高杉様が中に入って来たのだ。
「え?」
驚いている俺達に、高杉様はスマホを取り出して
「今、ここでオーナーに電話して、証拠を確認してもらっても構わないけど」
表情1つ変えず、高杉様が鈴木さんに詰め寄る。
「僕、ここのオーナーの友達なんですよ。店の備品が毎月、ほんの少しだけど無くなるって相談を受けてね。隠しカメラを設置の助言したんだ。まさか……それがセクハラ確認に役立つとは思わなかったけど」
そう呟いた。
鈴木さんはしばらく高杉さんと睨み合い
「クソ!こんな店、今日限り辞めてやる!」
そう叫んで倉庫を飛び出した。
唖然とする俺と店長に友也。
高杉さんは逃げた鈴木さんの背中を見送りながら
「本当に捨て台詞を吐く人間って、居るんですね……」
と、興味深そうに呟いた。
店長が高杉様の声に我に返り
「すみません!高杉様がオーナーの知り合いだったなんて……。今回はありがとうございます」
そう言って頭を下げると
「え?嘘ですよ」
と呟いた。
「え?」
驚いて固まる俺達3人。
「テレビドラマじゃあるまいし、そんな都合の良い話、ある訳無いじゃないですか」
にっこり微笑まれて言われる。
「え?じゃあ、隠しカメラは?」
「あ!それは本当ですよ。ほら、あそこにカメラあるでしょう?」
って、高杉様がカメラを指差した。

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