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距離感

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「えーー!」
「しっーーっ!バカ!声でかい!」
その日、バイトを抜け出した俺は、クビ覚悟で戻ると、店長は心配そうな顔で
「お父さん、倒れたんだってな」
と言って来た。
「?」
と思って居ると、友也が遠くからピースサインしていた。
どうやら、親父が倒れて慌てて飛び出したという事にしといてくれたらしい。
持つべきものは友だな……と、俺は休憩時間が一緒になったので、友也に缶ジュースを奢った。
「で?何がどうしたの?」
と聞かれ、まぁ……詳細は話さなかったが、創さんがピンチで、助けたら付き合う事になったと話したら冒頭の叫びをされた。
「創さんって……あの、高杉創さんだよね?」
小声で聞かれて頷くと
「意外!だってあの人、3つ先の駅近にある高杉総合病院の御曹司でしょう?」
と言われた。
「あ……、だから高杉!」
俺が呟くと、友也は溜め息を吐いて
「熊さん、大丈夫?まぁ、こっちの高杉様の悪い噂は聞かないけど、兄貴2人は評判悪いよ~」
と友也が呟いた。
あの日に会った2人を思い出し、だろうな……と頷ける。
高慢で、プライドばかりが高い感じがした。
あんな奴等に囲まれて育って来た創さんが、なんだか切ない。
あの人はきっと「可哀想」とか憐れまれるのは嫌いだろうし、必死に生きて来た人に対してそれは失礼だと思う。
だからせめて、俺といる時は笑っていて欲しいと願う。
とはいえ、普段からあまり笑うタイプでは無いのだけど……。
「でも、幸せなら良かった」
微笑んだ友也に、俺は鼻の頭をかいた。
「幸せか?」と聞かれてたら、きっと幸せなんだろう。
今まで、誰かを好きになる事が無かった。
こんなに愛おしいとか、大切にしたいとか思える相手に出会える事は、奇跡に近いんじゃないかと思う。
しかもその相手から思いを返してもらえるなんて、宝くじが当選するより確率は低い気がする。
俺で良いのか?とか、俺で護れるのか?とか。
今はそういうのを抜きにして、傍に居られる事に感謝しなくちゃいけないと思っている。
「じゃあさ!今度ハルちゃんのお店に、俺らと熊さん。高杉様で行こうよ!」
と言い出した。
「え?何で?」
「何で?って……、心配してたからさ」
そう言われて、あの人が素直に行くとは思えないけどなぁ~と考える。
「創さんの気持ちを聞いてからでも良いか?」
と言うと、友也は
「勿論」
そう言ってからニヤニヤして
「大事にしてるねぇ~」
って呟いた。
俺は真っ赤になりながら、友也の頭を拳でグリグリすると
「痛い!痛い!ギブ、ギブ」
俺の手を叩き友也が叫ぶ。
俺はずっと友達というものを作らずに来たので、今、初めて友達って良いなぁ~と噛み締めていた。
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