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疑惑

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翌朝、早目に起きて台所に行くと、ハルさんと健人君も起きて来た。
「お弁当作るんだよね?手伝うよ」
そう言われて、お米をといでる俺の後ろで2人が冷蔵庫を開けて何やら相談しながら役割分担を始めた。
どうやら鮭を焼くのはハルさんで、唐揚げを作るのが健人君みたいだ。
健人君は冷蔵庫から鶏肉を取り出しすと、手際良く味付けをして鶏肉を冷蔵庫に戻し、冷蔵庫の婆ちゃんの出汁を取り出してだし巻き玉子を作っていく。
ハルさんはクッキーの生地を作りながら、鮭の焼き具合を確認した後に骨取りをして、おにぎり用に解して行く。
俺は2人を横目に、4人の手土産に入っていたウインナーでタコさんを作っていた。
途中で雑談しながら、瞬く間にお弁当が完成。
ハルさんのクッキーも焼きあがった頃、甘い香りに誘われて子供達と友也、蓮君、創さんが降りて来た。
今日、爺ちゃんと婆ちゃんは、爺ちゃんの狩仲間と温泉に行くらしい。
そんな爺ちゃんと婆ちゃんにも、健人とハルさんはお弁当を詰めてくれていた。
朝食は、ハルさんが子供達にパンケーキとベーコン。サラダを出してくれて、俺達大人には健人君が朝採り野菜でサンドイッチを出してくれた。
俺は2人の手際の良さに圧倒されたまま、作った料理を皿に置いてテーブルに並べただけになってしまう。
子供達はお洒落な喫茶店の軽食風に飾られた朝食に大はしゃぎ。
爺ちゃんと婆ちゃんはサンドイッチを食べてから、迎えに来た車に乗って温泉へ。
俺達は子供達を連れて散策に出かけた。
蓮君と友也、健人が子供達と楽しそうに前を歩いている。
いつも行ってる場所だけど、一緒に行く人で気分も変わるんだろうな。
4人が居てくれた2日間は、子供達も俺達も楽しくてあっという間だった。
楽しかった分、別れは寂しいものになる。
荷物を山の下に置いてある創さんの通勤用高級車まで、山道専用の軽トラで俺と創さんで送って行く。
荷台で楽しそうに話す4人をバックミラーで見ながら、寂しさが込み上げてくる。
山の公道に入る門にある創さんのベンツにみんなが乗り込み、いよいよ別れの時間。
「熊さんに会えて良かったよ!」
友也がハグして来て
「また、遊びに来るよ」
って俺の背中をバンバンと叩いた。
「熊さんが幸せそうで良かったよ」
友也の言葉に涙ぐんで、創さんに視線を移した瞬間だった。
創さんがハルさんに声を掛けて、ハルさんが慌てた顔をして俺の顔を見た。
そして創さんの腕を引っ張って車の物陰に連れて行き、何やらコソコソ話している。
そんな2人が気になって蓮君に視線を送ると、蓮君は健人君とスマホを見て盛り上がっている。
(蓮君!今はスマホを見てる場合じゃない!)
俺がハルさんと創さんが車の物陰で、コソコソ何をしているのかが心配でハラハラしていると
「熊さん?どうしたの?」
って、友也が俺の視線の先を目で追った。
正直、創さんとハルさんが並んでいると、年齢も近いからなのか、しっくりして見える。
その様子にモヤモヤしていると、友也が慌てた顔をして
「熊さん!今度はこっちにも遊びに来てね」
って話しかけて来て、視線を友也に向けた端の方に、ハルさんが何か小さな包みを創さんに手渡した。
すると創さんが嬉しそうに受け取り、創さんがハルさんに手紙らしきものを手渡している。ハルさんは笑顔で受け取り、何やら耳打ちをして創さんと笑っている。
その姿が見えた瞬間、俺の足下が崩れ落ちるような感覚になった。
モヤモヤしたまま創さんが運転する車に、助手席にハルさんが当たり前のように座って車が走り去った。
俺は創さんが戻るまでの20分間、その場に動けなくなってしまっていた。
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