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魔法学園入学式④

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驚いて振り向くと、ピンクゴールドの髪の毛に、ピンクダイヤモンドの瞳をしたヒロインが立っていた。
慌てて涙を拭い
「ごめんなさい。先客がいらっしゃるのに、気付きませんでしたわ」
そう言って微笑み、立ち去ろうとすると
「あの!」
と、呼び止められる。
込み上げて来る涙を必死に堪えて振り向くと
「無理して笑わなくて良いんですよ。そんな悲しそうな笑顔、浮かべないで下さい」
そう言って私にハンカチを差し出した。
「何をおっしゃっているのか、わかりませんわ。私、急いでおりますので……」
何処か一人になれる所を探そうと、その場から移動しようと背を向けた瞬間
「此処には今、私しか居ません!泣いても、誰にも言ったりしませんから。悲しい時に思い切り泣かないと、心が死んでしまいますよ!」
そう叫ばれた。
「私は……バルフレア家の人間なのですよ!人前で泣くなんて、そんなハシタナイ事は出来ませんわ!」
と叫んだ。

 まだ、前世の現代日本に生きていた頃、公爵令嬢とかお姫様に憧れていた。
でも、実際に公爵令嬢として生まれ、王族の第一王子の婚約者となってみて、貴族には貴族の辛さを知った。
特に王族の妃となると、国母様と呼ばれる王妃になる可能性がある。
そうなった時に慌てないように、幼い頃から妃教育を受けさせられた。
歩き方から話し方、お茶の飲み方や食事のとり方。笑い方まで徹底的に教育を受けて来た。
10歳になり王宮に通う頃には、妃としての在り方やこの国の成り立ち。
そして、王宮の内政に関する事も学ばされた。
同じ歳の令嬢がまだ無邪気に遊んでいられる頃、私はひたすら妃教育を受けていた。
人前で感情を露わにする事は禁じられ、常に凛とした姿を手本として見せなければならない。
誰よりも気品があり、凛とした姿で居なければならない立場でも頑張って来られたのは、ヒロインとアティカス王子が結ばれた暁には、ルイス様と地方の小さな領地を切り盛りするつもりだったからだ。
 私は妃教育を受けてみて、ゲームの悪役令嬢フレイアへの気持ちに変化が起きた。
こんなに辛いお妃教育を、アティカス王子が大好きで耐えていたとしたなら、いきなり現れた平民出の妃教育も受けていない可愛いだけの女にかっさらわれたら、そりゃ~嫌味の一つや二つ言いたくなるってもんよね。(だからと言って、私は犯罪まがいな意地悪なんてしないけど……)
きっと……、ゲームのフレイアには助けてくれる人が居なかったのだろう。
私には、何故かゲームではヒロインには優しいお兄ちゃんキャラだったけど、フレイアには無関心だったレイモンドが、この世界では「シスコンでフレイア溺愛キャラ」になってしまい、いつでも私の味方で居てくれる。
それに、やはりゲームではフレイアに対して愛情を全く持てなかったアティカス王子も、この世界では何故か弟キャラになってしまっているけど、私の事を姉のように慕ってくれているじゃない?
……それって、物凄く救われる。
だから私は、ゲームの悪役令嬢フレイアみたいにならずに済んでいるのかもしれない。


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