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魔法学園入学式⑤

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「そんな事、関係ないです!」
私がふと、ゲームの悪役令嬢フレイアの事を考えていると、ヒロインがそう叫んだ。
「私は平民ですから、貴族の令嬢がどう振る舞うべきとかわかりません。ただ、人として……悲しい時は素直に泣くべきだと思うのです」
真っ直ぐに私を見つめるヒロインの透き通ったピンクの瞳に、全てを見透かされているようだった。
慌てて視線を逸らした時
「フレイア!」
私を呼ぶレイモンド兄様の声が聞こえた。
汗だくの顔をした兄様は、私の顔を見て慌てて上着を脱ぐと、私の頭に被せて
「汗臭いかもしれないけど、我慢してくれ」
そう呟いて私の身体を抱き寄せた。
「僕の力が足らず、結局、フレイアを悲しませる結果になってしまってすまない」
そう呟かれた言葉に、涙が溢れてきた。
「兄様が、兄様がルイス様の為って言ったから頑張って来たのに……」
完全な八つ当たりだと分かっていたけど、そう言いながらレイモンド兄様の逞しい胸を叩くと、レイモンド兄様は私の言葉に「うん」とか「ごめんな」と呟きながら、私の身体を強く抱き締めた。
「誰にも泣き顔を見せたりしないから、思い切り泣きなさい」
優しく頭を撫でられて言われ、私はレイモンド兄様の腕の中で泣き崩れた。

 泣いて泣いて……完全な泣き顔になった私は、入学式には参加せずに保健室でベッドに横になり目を冷やしていた。
(あんなに泣いたのは……ルイス様と引き離された5歳以来ね……)
結局、泣くだけ泣いた私は、レイモンド兄様に抱き抱えられて保健室のベッドに寝かされた。
泣いて腫れ上がった瞼に氷嚢を乗せ、腫れを引かせていると、『ガラッ』と保健室のドアが荒々しく開く音が響くと、走って来たらしい人物の荒い呼吸と、走り寄る音が響いた。
「フレイア!」
声を聞いてアティカス王子だと気付き、慌ててベッドから起きようとすると
「そのままで良い!体調が悪くて倒れたと聞いて、駆け付けたんだ」
私の手を握り、アティカス王子が私の手にキスを落とした。
そして頬に触れると
「泣いたのか?」
と、優しく労る声が聞こえて来る。
「すみません……、アティカス様の新入生代表の挨拶を聞けませんでした。婚約者として、失格ですわね」
「そんなもの、どうでも良い!それより、具合が悪いなら寮に帰ったらどうだ?送って行く」
そう言われて、フワリと身体が浮く感じがしたので、アティカス王子に抱き上げられたのだと気付いた。
「アティカス様、何をなさるのですか?」
慌てて氷嚢を落としてしまい、泣き腫らした顔でアティカス王子を見上げると
「フレイア……何があった?」
心配そうに顔を歪められてしまい、慌てて俯く。
「なんでもありませんわ。こんな情けない顔を見せてしまい、申し訳ございません」
両手で顔を覆い呟くと
「ねぇ、フレイア。僕はもう……きみに守ってもらったあの頃とは違う。せめて僕には……僕にだけは、甘えて欲しいんだ」
そう言われて、私は小さく微笑み
「私は果報者ですね。レイモンド兄様とアティカス様に、こんなに優しくして頂いて」
と答えた。
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