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記憶と思い出~レイモンド⑥~

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 そしてその頃、ルイスに怯えられていると思っているフレイアが、『ルイス様好感度アップ大作戦』なるものを始めた。
ルイスの場合、怯えているというよりも、戸惑っていると言うのが正解だろう。
自分を蔑んでいたフレイアが、突然、フレイアの5歳の誕生日から「好き」攻撃が始まったのだから……。
隙あらばルイスに抱き着くので、最近ではフレイアの気配を察知して先に止められるようになってしまった程だ。
フレイアはいつの間にか、屋敷の使用人達とも仲良くなっており、特に料理人のマークの所に入り浸るようになった。
そして、ことある事にルイスへ手作りお菓子のプレゼントを作っては手渡していた。
当初は毒でも入っているのでは?と心配したものだが、今やフレイアの愛情しか入っていない重いプレゼントだと知っている。
それでもルイスは、いつも嬉しそうに大切に抱えて持ち帰っていた。
しかし、その姿は決してフレイアには見せようとはしないのが不思議だった。
一度ルイスに聞くと
「フレイアは、アティカス王子の婚約者だからね。余計な期待はしないようにしているんだ」
そう答えた。
「お前が一言、フレイアに『好きだ』って言えば、あいつは何がなんでも婚約破棄するぞ」
と呟いた僕に、ルイスは小さく笑って
「今はそうかもね。でもその後に、必ずその選択を後悔する日が来るよ」
まるで全てを諦めた瞳で、ルイスはそう呟いた。
ルイスは何故、そんなに自分を卑下しているのか分からなかった。
そんな日が続いたある日、父上が書斎に僕を呼び出し
「フレイアは何故、あんなにルイスルイスと騒いでいるのだ?」
そう聞いて来た。
「僕と一緒に過ごして来たので、兄のように慕っているのではないでしょうか?」
「兄ねぇ……」
僕の回答に考え込んだ父上は、その数日後に『アレク』と名前を変えさせてアティカス王子を連れて来た。
そしてその日に
「明日からは、お前がセヴァレンス家に行って家庭教師の授業を受けろ」
と告げると
「それからもう一つ、お前に調べて欲しい事がある」
そう言われた。
「調べて欲しいこと?」
「そうだ。ルイスの事だが……、セヴァレンス公爵夫人に虐待を受けていると言う話を耳にした」
「えっ……!ルイスが?」
驚く僕に、父上は神妙な顔で頷くと
「慎重に調査して欲しい、頼めるな」
肩に手を置かれ、僕は頷いた。
誰に対しても……、いや、人だけでなく生きとし生けるものを愛しているようなルイスを、何故、セヴァレンス公爵夫人が虐待するのか意味が分からなかった。
そして又、何故、ルイスが何も僕に話してくれなかったのか?
それもショックだった。
自分は信頼されていないのではないか?
そう考えてしまい、モヤモヤする日々を過ごしていた。
セヴァランス家に行くようになって1ヶ月が過ぎた頃、ルイスが熱を出して寝込んでいると連絡が来た。
だから家庭教師の勉強も、今日は休みだという内容だった。
しかし僕は、気付かなかったフリをしてセヴァランス家に押し掛けると
「なんであんたはそうなの!」
金切り声を上げるセヴァランス公爵夫人の声と、ムチで叩く音が響いていた。
「ごめんなさい。お母様、ごめんなさい」
窓を覗いて中を覗くと、ルイスが馬用のムチでセヴァランス公爵夫人に叩かれていた。
飛び出そうとした瞬間、誰かに腕を掴まれた。
振り向くと、セヴァランス家次男のライアンだった。
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