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記憶と思い出~レイモンド⑦~

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「何で止めるんですか!」
そう叫んだ僕の口を塞ぐと
「今、止めたら、きみが帰った後にもっと酷い体罰をされてしまうんだ」
ライアンの言葉に、僕は声を失った。
「お前のせいで、私に女の子が授からなかったんだよ!この悪魔!」
セヴァランス公爵夫人はそう叫び、気が済むまでルイスをムチで叩くと
「魔族のくせに、人間のフリをして気持ち悪い!お前が大好きなレイモンドは、お前を殺すために傍にいるんだよ。さっさと本性を現して、バルフレア家の聖剣で切られれば良いのに」
身体を小さく丸め震えるルイスにそう吐き捨てると、セヴァランス公爵夫人は立ち去って行った。
ライアンに連れられ裏手口から中に入ってルイスに近付くと、熱があるのだろう。
かなり身体が熱い。
「大丈夫か?」
そっと肩を担ぐと、ルイスは朦朧とした顔で俺を見上げた。
「レイ?……何で此処に?」
「話は後だ。取り敢えず、部屋に行こう」
ライアンと二人でルイスを部屋に運ぶと、ライアンは回復魔法を使ってルイスのムチの跡を治療していた。
「いつから?」
そう聞くと
「ずっとだよ……。うちに来てからずっと、ルイスは母上にあのように虐待を受けている。父上も兄上も、王宮にバレたらマズイと見て見ぬふりだ」
と呟いた。
「そんな……」
「元々、母上は女の子が欲しくてね。絶対に自分が妖精王から女の子を授かると、そう信じていたんだ。しかし、実際はバルフレア家が選ばれた。認めたくなかったんだろうね。発見された時にルイスがフレイアを抱き締めていたとは言え、それがフレイアの出生に関係しているかどうかなんて、今では誰も分からないのに……」
悲しそうに呟くと、ライアンは
「それなのに、小さなルイスをずっと虐待している母上を許せなかった。僕も何度か庇ったんだけどね。逆に虐待が酷くなったんだ」
そう続けて口を噤んだ。
「だから、父様に救いを求めたの?」
「……情けないけど、今、ルイスを救えるのはバルフレア家だけだからね」
悲しそうに話すライアンは
「僕はね、こんな家なんて要らない。だから、継承権は放棄するつもりなんだ。いくらルイスの髪の毛と瞳の色が魔族と一緒だからと、差別するのは違うと思うんだ」
瞳に悲しみと怒りを混ぜ合わせた瞳でそう言うと、口を閉ざしてしまう。
「どうするのかは父上と相談してからになるけど、本当に良いの?問題になるかもしれないですよ」
ライアンは僕の問いに小さく頷くと
「こんな家、無くなれば良いんだ」
とだけ呟いた。

 僕は帰宅して、父上に見たことを包み隠さずに話をした。
父上は深い溜め息を吐くと
「やはりな……。実はな、元々はルイスをうちで預かる筈だったのだよ。それを、無理矢理セヴァランス公爵がルイスを引き取ったんだ。ルイスを預かると、王家から莫大な資金援助が受けられるからな……」
目頭を親指と人差し指で挟んで押さえた。
「レイモンド、今から話す話は他言無用だ。実はセヴァランス家の後継者は、今のセヴァランス公爵では無いのだよ。彼は次男でな、大した能力も魔力も無い。全て兄のフィンリーが受け継いでしまったからな。フィンリーは、私から見ても素晴らしい人物だった。知識、教養から立ち居振る舞いまで。彼に魅了される者は、多かった。しかし、フィンリーは破滅の魔女と恋に堕ちてしまってね。人間界を捨てて、破滅の魔女と魔界へ行ってしまったんだよ」
そう呟くと
「おそらく、ルイスはフィンリーと破滅の魔女との子供だ」
と、ゆっくりと僕を見て呟いた。
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