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記憶と思い出~レイモンド⑧~

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「え?」
驚く僕に、父上は再び深い溜め息を吐くと
「フィンリーとルイスは、髪と瞳の色以外は生き写しなんだよ。元々、セヴァランス公爵夫人は、フィンリーの婚約者だったんだよ。フィンリーに裏切られ、彼女は少しずつ少しずつ変わって行った」
そう話すと、ゆっくりと視線を窓の外に向けると
「私とフィンリー、セヴァランス公爵夫人……アイリスとは幼馴染みでね。彼女がどれ程フィンリーを愛し、彼の妻になる事を夢見ていたのかを知っていた。そんなフィンリーに裏切られたアイリスは、ずっと……ずっと……フィンリーの帰りを待っていたんだ。しかし、フィンリーは帰って来なかった。適齢期を過ぎたアイリスを、セヴァランス家を継いだ今のセヴァランス公爵であるカレアムが、家督を継ぐ代わりとして彼女を娶ったんだよ」
知らなかった真実に、僕は幼いながらにセヴァランス公爵夫人を哀れに思った。
セヴァランス公爵は、愛人が何人も居る人だと聞いた事がある。
そんな父親が嫌で、長男のフェリックスは早々と騎士団に入団し寮で暮らしているらしい。
父上から話を聞くまで、僕はセヴァランス家がそんな状態だったのを知らなかった。
時々、遊びに行くセヴァランス家は、一見、仲の良さそうな家族に見えたから。
「セヴァランス公爵夫人は、何故、そんなに女の子に拘っているのでしょうか?」
ふと聞いた僕の言葉に、父上は悲しそうに笑って
「おそらく……だが、フィンリーを待っているのだろう」
と答えた。
「花から生まれた子供の運命は二つ。聖女になるか破滅の魔女になるか?破滅の魔女になれば、フィンリーは必ず迎えに来るだろう」
「何故、必ずと言い切れるのですか?」
何気なく口にした疑問に父上はしばらく沈黙をすると
「フィンリーは……魔王になったからだ」
そう答えたのだ。
「魔王に?」
「そうだ。フィンリーは優しい奴だった。それ故に、人間の醜さに絶望したのだと言っていた。とはいえ、元々魔族だった訳では無いからな。魔族を統率するには、破滅の魔女の復活が必要だ」
「そんな……」
僕は父上の言葉に俯いた。
確かに、貴族社会で生きていくと、人の陰謀や醜い部分をたくさん目にしてしまうのは分かる。
だからと言って、人間界と対立関係にある魔族に……ましてや、魔王になるなんて……。
父上はそんな僕の肩に手を置くと
「後のことは私に任せなさい」
そう言われ、その数日後。
ルイスはセヴァランス家の屋敷から、王家の離宮へと移された。
本当はルイスを我が家で保護する筈だったのだが、今、フレイアとルイスを近付けるのはよろしくないと父上が判断しての事だった。
セヴァランス家は今回の事でお咎めを受け、次に失態を起こしたらルイスをセヴァランス家の当主にして、セヴァランス公爵と公爵夫人を今、ルイスが住んでいる離宮に移住させ、王家監視の元に生活をさせられると命が下ったらしい。
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