39 / 56
最後のファーストダンスと、闇からの手
しおりを挟む
「ソフィア?」
過去の記憶に意識が沈んでいた私に、ユリエル様がそっと声をかけた。
その手が頬に触れた瞬間、じんわりと温かさが広がる。
「大丈夫か?」
「はい……。こんな豪華なパーティー、初めてなので……少し緊張してしまって」
小さく笑ってみせると、ユリエル様はさらに優しく囁いた。
「それなら、俺だけを見ていればいい」
甘い声色に──続けざま、頬へ軽いキスを落とされる。
「ちょ、ちょっと! 人前ですってば!」
慌てる私を見て、ユリエル様は肩を震わせて笑っていた。
「でも、緊張は解けただろう?」
返す言葉に詰まった、その瞬間。
弦の音が高らかに響き渡った。
ユリエル様は私に向かって優雅に一礼すると、
「ソフィア嬢。あなたとファーストダンスを踊る栄誉を、どうか私に」
「……光栄ですわ、ユリエル様」
差し出された手に触れた瞬間、音楽に合わせて身体が自然と動き出す。
会場から、小さな感嘆の声が漏れた。
軽やかに舞うようなユリエル様のステップ。
その姿に、次こそは自分を誘ってほしいと、令嬢たちが息を呑んでいるのが分かる。
「ユリエル様って、本当に何でもお出来になるのですね」
私の言葉に、彼は静かに首を振った。
「そんなことはない。できないことも……たくさんある」
その言葉に、ふと“呪い”の話を思い出してしまい、
「あ……そうですよね」
そう呟くと、ユリエル様がふっと目を細めた。
「その呪いなら、もう解けたぞ」
「……え?」
「お姫様のキスで、王子様の呪いは解けましたとさ──めでたし、めでたし」
突然の言葉に、思わず吹き出してしまった。
「何ですか、それ……!」
笑う私を引き寄せながら、ユリエル様はさらに低く囁く。
「なんだったら……今夜、確かめてみるか?」
心臓が跳ねる音が、自分でも聞こえそうだった。
「も、もう! すぐからかうんだから!」
頬を膨らませた、その瞬間──
音楽が、ふっと止まった。
待ち構えていた令嬢たちが、一斉にユリエル様へ詰め寄る。
「ユリエル様! 次はぜひ私と――」
しかしユリエル様は、私の腰を抱いたまま、冷ややかに言い放った。
「は? 興味のない相手と踊る理由が、どこにある?」
空気が一瞬で凍りつき、令嬢たちは蜘蛛の子を散らすように散っていく。
私は苦笑しながら飲み物を受け取り、
ユリエル様に連れられてバルコニーへと出た。
冷たい風と澄んだ空気が肺にしみ、少しほっとする。
「お代わりを取ってくる」
軽く微笑んで背を向けたユリエル様が、数歩進んだ――その時。
「……っ!」
背後から伸びた手が、私の口を塞いだ。
息を吸う間もなく、腕が私の身体をがっしりと抱え上げる。
「ソフィア!」
ユリエル様の叫びが響く。
「保護魔法か。……効かないよ」
耳元で笑う声。
見開いた視界の先にいたのは――クリフォード殿下だった。
「知っていたはずだろう? 王家には、どんな魔法も無効にできる秘技がある」
殿下は、愉悦に満ちた瞳で笑っている。
ユリエル様が青ざめて呟いた。
「その術は……王にしか使えないはずだ……」
殿下の笑みがさらに深まり、狂気を帯びた声が夜気を裂いた。
「あぁ、そうさ。僕が王になったんだよ」
「…………何を言っている」
「うるさい国王も、邪魔な王妃も、弟たちも──まとめて殺した。
だから今の王は……僕だ!」
その笑い声が、夜会の喧騒を飲み込んだ。
過去の記憶に意識が沈んでいた私に、ユリエル様がそっと声をかけた。
その手が頬に触れた瞬間、じんわりと温かさが広がる。
「大丈夫か?」
「はい……。こんな豪華なパーティー、初めてなので……少し緊張してしまって」
小さく笑ってみせると、ユリエル様はさらに優しく囁いた。
「それなら、俺だけを見ていればいい」
甘い声色に──続けざま、頬へ軽いキスを落とされる。
「ちょ、ちょっと! 人前ですってば!」
慌てる私を見て、ユリエル様は肩を震わせて笑っていた。
「でも、緊張は解けただろう?」
返す言葉に詰まった、その瞬間。
弦の音が高らかに響き渡った。
ユリエル様は私に向かって優雅に一礼すると、
「ソフィア嬢。あなたとファーストダンスを踊る栄誉を、どうか私に」
「……光栄ですわ、ユリエル様」
差し出された手に触れた瞬間、音楽に合わせて身体が自然と動き出す。
会場から、小さな感嘆の声が漏れた。
軽やかに舞うようなユリエル様のステップ。
その姿に、次こそは自分を誘ってほしいと、令嬢たちが息を呑んでいるのが分かる。
「ユリエル様って、本当に何でもお出来になるのですね」
私の言葉に、彼は静かに首を振った。
「そんなことはない。できないことも……たくさんある」
その言葉に、ふと“呪い”の話を思い出してしまい、
「あ……そうですよね」
そう呟くと、ユリエル様がふっと目を細めた。
「その呪いなら、もう解けたぞ」
「……え?」
「お姫様のキスで、王子様の呪いは解けましたとさ──めでたし、めでたし」
突然の言葉に、思わず吹き出してしまった。
「何ですか、それ……!」
笑う私を引き寄せながら、ユリエル様はさらに低く囁く。
「なんだったら……今夜、確かめてみるか?」
心臓が跳ねる音が、自分でも聞こえそうだった。
「も、もう! すぐからかうんだから!」
頬を膨らませた、その瞬間──
音楽が、ふっと止まった。
待ち構えていた令嬢たちが、一斉にユリエル様へ詰め寄る。
「ユリエル様! 次はぜひ私と――」
しかしユリエル様は、私の腰を抱いたまま、冷ややかに言い放った。
「は? 興味のない相手と踊る理由が、どこにある?」
空気が一瞬で凍りつき、令嬢たちは蜘蛛の子を散らすように散っていく。
私は苦笑しながら飲み物を受け取り、
ユリエル様に連れられてバルコニーへと出た。
冷たい風と澄んだ空気が肺にしみ、少しほっとする。
「お代わりを取ってくる」
軽く微笑んで背を向けたユリエル様が、数歩進んだ――その時。
「……っ!」
背後から伸びた手が、私の口を塞いだ。
息を吸う間もなく、腕が私の身体をがっしりと抱え上げる。
「ソフィア!」
ユリエル様の叫びが響く。
「保護魔法か。……効かないよ」
耳元で笑う声。
見開いた視界の先にいたのは――クリフォード殿下だった。
「知っていたはずだろう? 王家には、どんな魔法も無効にできる秘技がある」
殿下は、愉悦に満ちた瞳で笑っている。
ユリエル様が青ざめて呟いた。
「その術は……王にしか使えないはずだ……」
殿下の笑みがさらに深まり、狂気を帯びた声が夜気を裂いた。
「あぁ、そうさ。僕が王になったんだよ」
「…………何を言っている」
「うるさい国王も、邪魔な王妃も、弟たちも──まとめて殺した。
だから今の王は……僕だ!」
その笑い声が、夜会の喧騒を飲み込んだ。
8
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件
水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
【完結】この胸に抱えたものは
Mimi
恋愛
『この胸が痛むのは』の登場人物達、それぞれの物語。
時系列は前後します
元話の『この胸が痛むのは』を未読の方には、ネタバレになります。
申し訳ありません🙇♀️
どうぞよろしくお願い致します。
【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~
瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)
ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。
3歳年下のティーノ様だ。
本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。
行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。
なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。
もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。
そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。
全7話の短編です 完結確約です。
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います
織り子
恋愛
18歳で処刑された大公家の令嬢、セレノア・グレイス。
目を覚ますと――あの日の6年前に戻っていた。
まだ無邪気な弟ルシアン、笑う両親。
再び訪れる“反逆の運命”を知るのは、彼女だけ。
――大公家に産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていた。だが、本当は他の令嬢達の話を聞くたびにうらやましかった。人生1度きり。もう少し花のある人生を送りたかった。一度でいいから、恋愛をしてみたい。
限られた6年の中で、セレノアは動き出す。
愛する家族を守るため、未来を変えるために。
そして本当の願い(恋愛)を叶えるために。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる