あざとさを捨てた令嬢は、若き公爵に溺愛される

古紫汐桜

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過去の記憶と長い片想い①(ユリエル独白)

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出会いは、入社試験の日だった。

「大丈夫ですか?」

特に第一志望でもなかった会社の入社試験だったせいか、俺は時間ギリギリに会場へ向かっていた。
その途中、横断歩道を渡ろうとしている年配の女性に声をかけている女性の姿が目に入った。

「渡ろうとすると、すぐに赤になっちゃうの」

足が悪いらしいその女性の言葉に、

「少し、待っていてもらえますか?」

そう言うと、彼女は走って反対側にある病院へ向かって行った。
そして次の信号が青になると、病院から借りてきた車椅子にその女性を乗せ、そのまま案内していた。

(今どき、珍しいな……)

その時は、ただそう思っただけで、その光景を深く考えることもなく流してしまった。

そして、会社の入社試験を受け、面接を待っている時のことだ。
俺の前に座っていた男が、緊張のせいか何度もトイレに立っていたせいで、スーツの背中がめくれ上がっていた。

(身だしなみくらい、ちゃんとチェックしとけよ)

そう思って無視していると、

「あ! ちょっと、きみ。待って!」

試験前に見かけた、あの女性が隣を通り過ぎながら声をかけた。

「スーツの後ろ、めくれてるよ。面接、これじゃ落ちちゃうよ」

そう言って、笑顔で彼の背中を軽く叩く。

「そんな些細なことで落ちたくないでしょう? あ、ほら。きみは襟が折れてる」

彼女は他の面接待ちの人たちの身だしなみも、次々と整えていった。
髪のリボンがほどけていた女性には、結び直してあげるほどだった。

すると――

「渡良瀬さん! こんなところで何してるの!」

上司らしき人物の声が飛んだ。

「早く来なさい! あなたは経理の人間なんだから、面接は関係ないでしょう!」

怒られながら会場を後にする彼女は、去り際に振り返り、

「ファイト!」

と、両手で拳を作り、口パクで俺たちを応援してくれた。

そのおかげなのか、さっきまでガチガチに緊張していた他の連中も、次第に落ち着きを取り戻し、面接を無事に終えていった。

俺はその時、
(面白い人がいるな)
それくらいにしか思っていなかった。

就職活動を経て、いくつか内定をもらった中で、
一番給料が高かったという理由だけで、俺はこの会社への入社を決めた。

入社してみると、いつも重い荷物を運んでいる彼女の姿を、よく見かけるようになった。

声をかけようとするたび、

「渡良瀬さん、持つよ」

そう言って、営業部のエースと呼ばれている男が、彼女の荷物を代わりに持っていく。

「ごめんね、いつもありがとう」

並んで歩く二人は、よく似合っていた。
――それを見た瞬間、なぜか胸の奥に、どす黒い感情が渦を巻いた。

この感情が恋だと気付くまで、そう時間はかからなかった。

人が嫌がる仕事を黙々と引き受ける彼女が、ずっと気になっていた。
だが、俺は年下で、しかも研修中の身だ。

自由に使える時間は限られていて、
その距離が、ひどくもどかしかった。
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