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第三章
巫女の名は……
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「で、そろそろ本題に入ってほしいんだけど……」
空になった弁当箱を片付ける幸太に、遥が話を切り出した。
幸太は頷くと、タブレットを手に口を開いた。
「実は、『千年桜の呪い』を調べていくうちに、巫女と青年の悲恋──という単純な話ではないことが分かってきたんです」
「……というと?」
冬夜が缶コーヒーを開けながら呟く。
「青年が鬼ヶ村に逃げ込んだのは、どうやら政権争いに巻き込まれたからのようです。
正妻の息子──つまり本来の後継者がかなりの独裁者で、それに反発した一派が、側室の息子だった青年を担ぎ上げた。
でも結果的に青年は命を狙われ、瀕死の状態で逃げ出した。
その青年を見つけて看病したのが、巫女だったようです」
「怪我を手当てしているうちに、恋に落ちた……」
遥が静かに呟くと、冬夜が小さくため息をついた。
「陳腐だな。担がれてボロボロにされて、助けてくれた女と関係持って、最後は惨殺? ……良いとこ一つもねぇな」
幸太はタブレットを操作しながら、ぽつりと呟いた。
「巫女の名前が……翡翠で……」
「は?」
冬夜が反応するより早く、幸太が顔を上げた。
「あ! これです、見てください。
──『悪鬼になりし鬼の名は翠』って書かれている」
画面には、千年桜の呪いを記した古文書の引用が映っていた。
「……ってことは、私たちは鬼と戦わなくちゃならないってこと?」
遥が呟くと、冬夜が苦い顔をした。
「え、俺、鬼にキスされたわけ?
しかも鬼って男じゃねぇの?」
「いえ。鬼には性別がありません。男でもあり、女でもある存在です」
幸太は淡々と説明を続けた。
「ちなみに、冬夜さんがされたのは“キス”というより“マーキング”の一種です。
あれで鬼は、冬夜さんの居場所をどこにいても把握できるはずです」
「マーキングって……余計に嫌だな」
冬夜は思わず袖で唇を拭った。
「あ、もう無駄ですよ」
「……は?」
「このあと、あの湖へ向かいますが──鬼が狙っているのは、冬夜さんの生き血だと思います。
最悪の場合、僕らが“向こうの次元”から弾かれる可能性もあります。
ですので、冬夜さんは絶対に勝手な行動を取らないでください」
真剣な表情で見つめられ、冬夜は観念したように頷いた。
「もし、冬夜さんの様子がおかしくなった場合は──」
幸太はリュックから犬のリードを取り出す。
「これを冬夜さんのズボンに引っ掛ければ、僕らも一緒に引きずられていけると思います」
「……お前なぁ……」
呆れた冬夜に、幸太は真顔で言い切った。
「苦肉の策です」
冬夜は深いため息をつき、
「まぁ……とにかく、俺が勝手に動かなきゃいいんだろ?」
と言いながら機材一式を肩に掛けて車を降りた。
「冬夜さん! それが勝手な行動なんですよ!」
幸太と遥も慌てて後を追う。
神社の境内は、人の気配がまるでなかった。
鳥居の先に朽ちかけた社があり、看板の文字は風雨に削られて読めなくなっている。
草が生い茂る参道を抜け、社の裏へ回ると──戸板で塞がれた洞窟があった。
冬夜が戸板を外すと、奥は真っ暗な闇。
足を踏み出そうとした瞬間──
「ちょっと待ってください!」
幸太が叫び、冬夜と遥、そして自分にスプレーを吹きかけた。
「ハッカ油で作った虫除けです! 山道は虫が多いですから!」
「へぇ~、こんなの売ってるんだ」
感心する冬夜に、幸太が即答する。
「何言ってるんですか! 僕が作ったんですよ!
天然のハッカ油をベースに、精製水とアロマオイルで虫の嫌う成分を配合したんです!」
力説する幸太を見て、冬夜は思わず叫んだ。
「やっぱりお前……女子か!」
空になった弁当箱を片付ける幸太に、遥が話を切り出した。
幸太は頷くと、タブレットを手に口を開いた。
「実は、『千年桜の呪い』を調べていくうちに、巫女と青年の悲恋──という単純な話ではないことが分かってきたんです」
「……というと?」
冬夜が缶コーヒーを開けながら呟く。
「青年が鬼ヶ村に逃げ込んだのは、どうやら政権争いに巻き込まれたからのようです。
正妻の息子──つまり本来の後継者がかなりの独裁者で、それに反発した一派が、側室の息子だった青年を担ぎ上げた。
でも結果的に青年は命を狙われ、瀕死の状態で逃げ出した。
その青年を見つけて看病したのが、巫女だったようです」
「怪我を手当てしているうちに、恋に落ちた……」
遥が静かに呟くと、冬夜が小さくため息をついた。
「陳腐だな。担がれてボロボロにされて、助けてくれた女と関係持って、最後は惨殺? ……良いとこ一つもねぇな」
幸太はタブレットを操作しながら、ぽつりと呟いた。
「巫女の名前が……翡翠で……」
「は?」
冬夜が反応するより早く、幸太が顔を上げた。
「あ! これです、見てください。
──『悪鬼になりし鬼の名は翠』って書かれている」
画面には、千年桜の呪いを記した古文書の引用が映っていた。
「……ってことは、私たちは鬼と戦わなくちゃならないってこと?」
遥が呟くと、冬夜が苦い顔をした。
「え、俺、鬼にキスされたわけ?
しかも鬼って男じゃねぇの?」
「いえ。鬼には性別がありません。男でもあり、女でもある存在です」
幸太は淡々と説明を続けた。
「ちなみに、冬夜さんがされたのは“キス”というより“マーキング”の一種です。
あれで鬼は、冬夜さんの居場所をどこにいても把握できるはずです」
「マーキングって……余計に嫌だな」
冬夜は思わず袖で唇を拭った。
「あ、もう無駄ですよ」
「……は?」
「このあと、あの湖へ向かいますが──鬼が狙っているのは、冬夜さんの生き血だと思います。
最悪の場合、僕らが“向こうの次元”から弾かれる可能性もあります。
ですので、冬夜さんは絶対に勝手な行動を取らないでください」
真剣な表情で見つめられ、冬夜は観念したように頷いた。
「もし、冬夜さんの様子がおかしくなった場合は──」
幸太はリュックから犬のリードを取り出す。
「これを冬夜さんのズボンに引っ掛ければ、僕らも一緒に引きずられていけると思います」
「……お前なぁ……」
呆れた冬夜に、幸太は真顔で言い切った。
「苦肉の策です」
冬夜は深いため息をつき、
「まぁ……とにかく、俺が勝手に動かなきゃいいんだろ?」
と言いながら機材一式を肩に掛けて車を降りた。
「冬夜さん! それが勝手な行動なんですよ!」
幸太と遥も慌てて後を追う。
神社の境内は、人の気配がまるでなかった。
鳥居の先に朽ちかけた社があり、看板の文字は風雨に削られて読めなくなっている。
草が生い茂る参道を抜け、社の裏へ回ると──戸板で塞がれた洞窟があった。
冬夜が戸板を外すと、奥は真っ暗な闇。
足を踏み出そうとした瞬間──
「ちょっと待ってください!」
幸太が叫び、冬夜と遥、そして自分にスプレーを吹きかけた。
「ハッカ油で作った虫除けです! 山道は虫が多いですから!」
「へぇ~、こんなの売ってるんだ」
感心する冬夜に、幸太が即答する。
「何言ってるんですか! 僕が作ったんですよ!
天然のハッカ油をベースに、精製水とアロマオイルで虫の嫌う成分を配合したんです!」
力説する幸太を見て、冬夜は思わず叫んだ。
「やっぱりお前……女子か!」
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