水鏡~千年の時を越えて、今、再び動き出す悲恋~

古紫汐桜

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第三章

ついに……開かれた扉

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 真っ暗な洞窟の中を、幸太が持参したLEDの懐中電灯で照らしながら進む。
「本当に……二人だったらどうするつもりだったんですか!」
「あ? だから、お前を同行させただろうが……」
「え? 僕って、そういう意味での要員?」
「他に何があるんだよ!」
文句を言いながら歩く幸太に、冬夜は我関せずという感じで答える。
洞窟の中は暗くジメジメとしていて、苔類しか生えていない。
砂利と土に囲まれた洞窟をひたすら歩くと、鬱蒼とした草木の匂いがして来た。
洞窟の出口は草木に覆われていて、その先にうっすらと光が見えて来た。
冬夜が出口を塞ぐ蔦に手を伸ばすと
「待って下さい。はい、これ」
と、サバイバルナイフをリュックから取り出す。
「お前のそのリュック……、ドラえもんのポケットか!」
冬夜は突っ込みながら蔦をナイフで切り、出口を切り開く。
洞窟の先は、草木が生い茂る道無き道だった。
冬夜の腰位まで伸びた草を踏み付けて、道を作る。

 幸太と遥は、冬夜の後に続いて山の中へと入って行く。
道無き道を進み続ける事、一時間。
「せんぱ~い、遥先輩。待って下さいよ~」
荷物が重いのか、幸太の歩みが遅れている。
冬夜は溜め息を吐いて、幸太のリュックの紐を掴む。
驚いて幸太が冬夜を見上げると
「貸せ、俺が代わりに持つ」
そう言って幸太からリュックを奪うと、冬夜は背中に背負う。
「どうやざん! ありがどうございまず」
目に涙を浮かべた幸太が、冬夜に縋り付く。
「どんだけだよ!」
驚いて叫ぶと、冬夜は幸太の頭を撫でて
「辛かったら、先に言えよ」
呆れたようにそう言って歩き出す。
「冬夜さん……本当は良い人だったんですね!」
涙目で言いながら、先を歩く冬夜を幸太が着いて歩く。
「本当は……って、お前…」
冬夜が幸太に呆れて呟くと、
「え?普段、こーんな顔してたら、良い人には見えませんよ」
そう言って、幸太は吊り目を作る。
「へぇ~。あ~、荷物が重いなぁ~」
棒読みして冬夜が呟くと、幸太は慌てて遥の後ろに逃げ出す。
「お前、何でも遥の後ろに逃げれば良いと思うなよ!」
冬夜が幸太の耳を引っ張り呟く。
「痛たたた!」
ジタバタと騒ぐ幸太に、遥は溜め息を吐くと
「お前ら、余計な体力をこんな所で使うな!」
そう叫んで、先を歩き始めた。

しばらく歩くと
『パキッ』
っと枝が折れる音にハッとした。
その瞬間、突然視界が開けた。
鬱蒼とした森の奥に、透明度の高い湖が広がる。
「着いた!」
湖を見付けて幸太が叫ぶ。
湖の周りには高い草はまったく生えてはおらず、広い草原が広がっている。
湖に近付いてみると、噂で聞いたような景色は映ってはおらず、湖の周りの景色が映るだけだった。
「ガセだったか...」
冬夜が呟いた時、突然冬夜の動きが止まった。
「……歌?」
冬夜の言葉に、遥と幸太が耳を澄ます。
しかし、二人に聴こえるのは風のせせらぎだけ。
疑問の視線を冬夜に二人が向けると、突然、冬夜の瞳から涙が流れ出す。
「冬夜?」
驚いて遥が冬夜を呼んでも、冬夜から返事が無い。
まるで夢遊病者のように、湖に向かって歩き出したのだ。
「ちょっ……冬夜。お前、どうしたんだよ!」
叫んだ遥の声が聞こえないらしく、ザブザブと水の中へと入って行く。
「呼んでる……」
呟く冬夜の瞳は、まるで他の何かを見つめているように遠い。
「冬夜、それ以上入ったら危ない! 冬夜! 冬夜!」
叫んで冬夜を追いかける遥を、幸太が必死に止める。
「先輩! 遥先輩も危ないです!」
「離せ! 冬夜が……冬夜が……!」
遥が必死に伸ばした手が、やっと冬夜のシャツを掴んだ。
すると水面が波打ち始める。
小さな渦が起こり始め、その渦が大きくなって行く。
遥は離れまいと、自分のベルトを抜き取り冬夜のベルトに通して遥のベルト通しにベルトを止めた。
「遥先輩、遥先輩!」
幸太も必死に遥の腕を掴む。
バシャバシャと音を立て、小さな渦が大きくなって行く。
渦が三人を巻き込み、湖の中へと流して行く。
大きな渦に流される中、幸太は満月を見た。
(満月……?)
幸太はぼんやりと薄れ行く意識の中で、満月と一緒に真っ赤に狂い咲く桜の木を見た──ような気がした。
その時、幸太の耳に──歌が聴こえてきた。
泣いているような、悲しそうな歌声。

『ずっと……ずっと……祈り捧げる
 この身 朽ち果てても……』

懐かしい歌声。
幸太は、誰かが自分を呼んでいるような気がした。

『三郎太……』
懐かしい、大好きだった声。

(誰……だっけ……?)

幸太はぼんやりとした意識の中、記憶を辿る。
遠い遠い懐かしい記憶──。

幸太は懐かしい声の方に手を伸ばす。
その手を、懐かしい手が握り締めた。

『三郎太、お願い。若を……若を助けて……』

ぼんやりとした意識の中、綺麗な女性が幸太の手を引き上げた。

漆黒の瞳。真珠のように白く滑らかな肌。
瞳を縁取る睫毛は長く、目元に影を作る。
息を飲むほどに美しいその女性を見て、幸太の唇が自然に動く。

「奥様……」

頭の記憶というより、魂の記憶が綺麗な女性をそう呼んだ。

心配そうに幸太を見つめる女性が、そっと幸太の頬に触れた。

懐かしい温もりに包まれながら、
幸太の意識は静かに闇の中へと沈んでいった。
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