水鏡~千年の時を越えて、今、再び動き出す悲恋~

古紫汐桜

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第四章

始まり

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時は──長保二年。
平安の世も、すでに栄華の陰に翳りを見せ始めた頃。
この地を治めていたのは、藤原頼通の遠縁にあたる藤原一族。
その血塗られた記憶が、今も山々に残っている。

藤原の頼敦は、都の権威を笠に着る傲慢な男であった。
ある年、彼はこの村で「人ならぬほど美しい」と評判だった娘を見初め、
強引に屋敷へと連れ帰り、側室とした。
──その娘こそ、のちに“清澄の宮”と呼ばれる女性である。

やがて彼女は双子の男の子を身ごもり、月満ちて出産した。
だが、その誕生は祝福ではなく、呪いとされた。

この頃の世では、“双子は災いを招く”と忌み嫌われていたのだ。
「双子の片割れを討て」
頼敦の命により、家臣たちは赤子を殺そうとした。

清澄の宮はその事実を知り、血の気を失う。
片方の赤子──小さな命を腕に抱きしめたまま、
彼女は夜の闇に紛れて逃げ出した。

行くあてもなく彷徨う中、彼女を拾ったのは“鬼ヶ村”の村長だった。
その男は若くして村を束ねる者で、
都から追われた清澄の宮を憐れみ、山深くの庵に匿った。

ただ一つ、村長は彼女に約束をさせた。

──決して、鬼ヶ村には入らぬように。

美しく聡明な彼女は、その約束を固く守ることを誓い、
母と子は、人里離れた山奥でひっそりと暮らすこととなった。

母は息子に“友頼”と名を与え、
「人を思いやる、優しい子になりなさい」
と語り続けた。
その言葉のように、友頼は母から学んだ笛を嗜む、心優しい子として育っていった。

 ──同じ頃、鬼ヶ村には“奇跡”が訪れていた。

鬼ヶ村に住む鬼たちは、人間に迫害され、
山奥の小さな集落でひっそりと生きながらえていた。
鬼としての力はすでに弱く、代々受け継いだ薬学を頼りに命を繋いでいた。
血が濃くなりすぎぬよう、人に紛れて生きることさえあった。

そんな彼らのもとに、鬼神の証を持つ赤子が生まれた。
金の髪、翠の瞳、そして鬼神の象徴たる牙。
その子に“翡翠”と名が与えられた。

人に知られれば、力を得る前に殺されてしまう──。
鬼ヶ村は翡翠を守るため、社に家族と共に住まわせた。
それは、虐げられた鬼の一族にとっての希望。
翡翠は“鬼ヶ村の宝”として育てられた。

 鬼の一族は、生まれた時に性を持たぬ。

男でもあり、女でもあり。
男でもなく、女でもない。

性別が定まるのは、齢十になった時。
それは、血を絶やさぬために授けられた唯一の力。
女児ばかりでも、男児ばかりでも、一族は滅びる。

ゆえにこの仕組みは、鬼たちにとって救いであり、呪いでもあった。
──そしてその力こそが、後に悲劇を呼ぶ引き金となる。
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