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第四章
出会い
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翡翠は両親や一族に愛されて、健やかに育っていった。
その力は強く、ある者は「すでに鬼神ではないのか」と噂するほどに──。
しかし翡翠は、自分だけが他の村人と異なる容姿を持つことに悩んでいた。
どんなに人々が「選ばれし神の姿」と讃えても、翡翠の胸は晴れなかった。
人々は皆、翡翠にひれ伏し、敬った。
だから“友”と呼べる存在は誰一人いなかった。
許嫁の候補として決められたのは、鬼の一族の中でも優秀な者たち。
心の通わぬ相手ばかりだった。
──それでも翡翠は、生まれながらの好奇心を抑えられなかった。
少しでも目を離すと社を抜け出し、木に登り、山々を駆け巡る。
どんなに閉じ込めても、鬼の力で容易に抜け出してしまう。
村人たちは頭を抱えていた。
そんな翡翠が六歳になった年、運命の出会いが訪れる。
鬼ヶ村の村長・豪鬼。
翡翠の次に強い力を持つ男であり、誰もが憧れる存在だった。
だが彼は、なぜか未婚のままであった。
ある夜──。
翡翠は偶然、村人たちが豪鬼に詰め寄るのを耳にしてしまう。
「お前が匿っている親子を殺すか、
それとも村の娘と結婚して家庭を持つか──どちらかにせよ」
豪鬼は沈黙したのち、村人たちの要求を受け入れた。
鬼の掟を破って守ってきた人間の親子を、これ以上危険に晒すわけにはいかなかったのだ。
翡翠にとって、豪鬼は優しい兄のような存在だった。
剣術も薬学も彼から教わった。
時に厳しく、時に笑ってくれる唯一の大人。
その豪鬼が、鬼の一族が忌み嫌う“人間”を庇っている。
しかも、自らの意に反してまで結婚を決めたという。
翡翠はいてもたってもいられなかった。
「どんな人間を守っているのだろう?」
ただの好奇心──それだけのつもりで、豪鬼の後を追った。
豪鬼の向かった先は、鬼ヶ村の結界近く。
湖の畔に佇む小さな家。
そこに、母と子がひっそりと暮らしていた。
近付くと、柔らかい笛の音が聞こえてくる。
その音は温かく、悲しみを溶かすように美しかった。
翡翠が息を止めて聴き入っていると、ふいに音が止んだ。
家の戸口から少年が現れ、豪鬼に気付くと笑顔で駆け寄る。
その手を引いて、嬉しそうに家の中へ促していた。
母親も姿を見せ、豪鬼を迎える。
三人の姿は、まるで本当の家族のようだった。
その時、翡翠は悟った。
──豪鬼が村の誰とも結ばれなかった理由を。
彼が守っているのは、彼にとって“家族”なのだと。
しかし、穏やかな時間は長くは続かなかった。
「嫌だ! 豪鬼は父上になってくれると約束したではないか!」
少年の叫びが、静寂を裂いた。
離れた場所にいた翡翠の耳にも、その声ははっきりと届いた。
涙をこぼし、豪鬼にすがる少年。
その顔立ちは母親によく似ていた。
「友頼、いけません」
母が優しく宥めても、その表情には深い悲しみが滲んでいた。
翡翠は、胸の奥に痛みを感じていた。
初めて見る“家族”という形。
それがどれほど温かく、同時に苦しいものなのかを、その時、翡翠はまだ知らなかった──。
その力は強く、ある者は「すでに鬼神ではないのか」と噂するほどに──。
しかし翡翠は、自分だけが他の村人と異なる容姿を持つことに悩んでいた。
どんなに人々が「選ばれし神の姿」と讃えても、翡翠の胸は晴れなかった。
人々は皆、翡翠にひれ伏し、敬った。
だから“友”と呼べる存在は誰一人いなかった。
許嫁の候補として決められたのは、鬼の一族の中でも優秀な者たち。
心の通わぬ相手ばかりだった。
──それでも翡翠は、生まれながらの好奇心を抑えられなかった。
少しでも目を離すと社を抜け出し、木に登り、山々を駆け巡る。
どんなに閉じ込めても、鬼の力で容易に抜け出してしまう。
村人たちは頭を抱えていた。
そんな翡翠が六歳になった年、運命の出会いが訪れる。
鬼ヶ村の村長・豪鬼。
翡翠の次に強い力を持つ男であり、誰もが憧れる存在だった。
だが彼は、なぜか未婚のままであった。
ある夜──。
翡翠は偶然、村人たちが豪鬼に詰め寄るのを耳にしてしまう。
「お前が匿っている親子を殺すか、
それとも村の娘と結婚して家庭を持つか──どちらかにせよ」
豪鬼は沈黙したのち、村人たちの要求を受け入れた。
鬼の掟を破って守ってきた人間の親子を、これ以上危険に晒すわけにはいかなかったのだ。
翡翠にとって、豪鬼は優しい兄のような存在だった。
剣術も薬学も彼から教わった。
時に厳しく、時に笑ってくれる唯一の大人。
その豪鬼が、鬼の一族が忌み嫌う“人間”を庇っている。
しかも、自らの意に反してまで結婚を決めたという。
翡翠はいてもたってもいられなかった。
「どんな人間を守っているのだろう?」
ただの好奇心──それだけのつもりで、豪鬼の後を追った。
豪鬼の向かった先は、鬼ヶ村の結界近く。
湖の畔に佇む小さな家。
そこに、母と子がひっそりと暮らしていた。
近付くと、柔らかい笛の音が聞こえてくる。
その音は温かく、悲しみを溶かすように美しかった。
翡翠が息を止めて聴き入っていると、ふいに音が止んだ。
家の戸口から少年が現れ、豪鬼に気付くと笑顔で駆け寄る。
その手を引いて、嬉しそうに家の中へ促していた。
母親も姿を見せ、豪鬼を迎える。
三人の姿は、まるで本当の家族のようだった。
その時、翡翠は悟った。
──豪鬼が村の誰とも結ばれなかった理由を。
彼が守っているのは、彼にとって“家族”なのだと。
しかし、穏やかな時間は長くは続かなかった。
「嫌だ! 豪鬼は父上になってくれると約束したではないか!」
少年の叫びが、静寂を裂いた。
離れた場所にいた翡翠の耳にも、その声ははっきりと届いた。
涙をこぼし、豪鬼にすがる少年。
その顔立ちは母親によく似ていた。
「友頼、いけません」
母が優しく宥めても、その表情には深い悲しみが滲んでいた。
翡翠は、胸の奥に痛みを感じていた。
初めて見る“家族”という形。
それがどれほど温かく、同時に苦しいものなのかを、その時、翡翠はまだ知らなかった──。
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