水鏡~千年の時を越えて、今、再び動き出す悲恋~

古紫汐桜

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第四章

攫われた翡翠

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 その日、初は翡翠が安定期に入った事もあり、一時帰宅することになった。
どうやら、出産を鬼ヶ村の翡翠の実家でさせようという考えのようだった。
二人が初を見送り、一息着いた時だった。

「本当に……気持ち悪い程に似ているな」
二人の背後から、背筋が凍るように冷たい声が聞こえた。
ゆっくりと振り向くと、あの日の怪我人──友頼の兄 頼政が立っていた。
翡翠はゾワリと寒気がして、思わず隣の友頼にしがみついた。
「ふぅん……お前、気に入らないな」
突然刀を抜き、友頼の喉元に切っ先を向けた。
「その顔は……俺だけのものだ!」
そう言うと
「お前か……。俺から母上を奪った愚弟は」
冷酷な視線が友頼を捉えている。
翡翠が慌てて友頼の背中を掴まみ後ろへと引くと、友頼の前に立ち塞がった。
「おやめください!」
真っ直ぐに刀を向ける人物に叫ぶと、彼は小さく笑い
「やっぱり、天女様は居たんだ。あの宮司、天女なんかいないって言うんだよね」
そう言って刀を下げると、翡翠の腕を掴み引き寄せた。
「───っ!」
驚く翡翠に
「なんだ……天女様、傷ものなの? ねぇ、腹の子供を引き裂いて出しても良い?」
腕の中に抱き寄せられ、翡翠の耳元で友頼に似た顔が残虐に笑う。
「あぁ……でもそうしたら、天女様も死んじゃうね。ねぇ、天女様。出産は許してあげるよ。だからさ、次は俺の子供……産んでよ」
そう囁かれ、顎を掴まれて頬をべロリと舐められた。

人間じゃない……悪鬼だ……

恐怖に顔を歪め、先程から何の抵抗もしない友頼を不思議に思い視線を巡らせると、数人の武装した男たちに取り押さえられていた。
「若様───!」
叫んだ翡翠に、必死に抵抗している友頼が視線を向けた。
「翡翠! 翡翠!」
必死にもがく友頼を、武装した男たちが地面へと押し付ける。
そんな友頼を見下ろし
「うるさいな……」
と言いながら、男は友頼の頭を踏み付けた。
「黙っててくれないかな? 俺と天女様の再会が、お前の汚い声で台無しだよ」
ギリギリと踏み付ける男に
「止めて! どうして? どうしてこんな酷いことを……」
涙を流す翡翠に、男は冷たい視線を友頼に向けながら
「どうして? 母上を俺から奪い、天女様までこいつのモノなんて……許せないよね?」
まるで血が通っていないような、冷酷無慈悲な瞳が友頼を見下ろしている。
「あぁ……でも、感謝はしてるよ。
怪我した俺を、治療してくれたんだよね?
しかも、天女様に出会わせてくれた」
男はそう呟くと
「だから、お前の役目は終了。分かるよね?」
と続けた。
「兄上……何故?」
絞り出した声に、男はカッと目を見開くと友頼の身体を蹴飛ばし
「兄上なんて呼ぶな! 汚らわしい!」
そう叫んだ。
翡翠は、目の前がグラリと歪んで行く。

今更……初が止めた意味を、最後の日に豪鬼が言った言葉の意味を、ようやく理解した。
けれど、その理解は──あまりにも遅すぎた。
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