63 / 111
第四章
罠
しおりを挟む
この日から、奥方と乳母として、晶と翡翠は共に居る事が増えた。
晶は身体が癒されても、母乳はほとんど出る事はなかった。
しかし、わずかばかりでも自分の母乳を必死に飲む頼久を見て、晶は我が子のように愛しく思うようになった。
頼政も何かと頼久を抱きに現れ
「父上は本当に愚かだったな。子供とは、こんなに可愛いものなのに……」
そう言って、ぷにぷにの頬をつついては頬を緩ませていた。
この頃には友頼も怪我が完治し、元気になっていた。
晶は頼政の目を盗んでは、友頼に頼久を抱かせに訪れた。
そして晶は、三郎太を頼久のお付として翡翠と友頼の橋渡しをさせた。
ずっと……こんな穏やかな日が続くと思っていた。
頼久はスクスクと育ち、一歳になった。
晶は翡翠を親友のように慕い、ようやくひっそりと友頼と翡翠を引き合せることに成功した。
「翡翠!」
「若様!」
ようやく直接会えた二人は、熱い抱擁を交わしていた。
「この茶室は、私しか使わない。
しばし、二人にお貸ししよう」
晶はそう言い残し、屋敷の奥地にある茶室に二人を残して頼久の元へと戻った。
その間、三郎太が頼久の面倒をみてくれていた。
晶は床をハイハイして近付き、ゆっくりとつかまり立ちしながら晶に両手を伸ばした。
「あ~う~、は~は~」
その言葉に、晶は涙を浮かべて頼久を抱き締めた。
「頼久、今、母と呼んでくれたの?
私を母と……」
「う~……と~と~」
頼久の声に顔を上げると、頼政が涙を浮かべて立っていた。
「と~……と~……」
キャッキャと笑い、頼久が頼政に笑顔を浮かべた。
「晶、聞いたか? 頼久が、俺をトトと呼んだぞ」
頼政は晶ごと頼久を抱き上げた。
「殿! あぶのうございます!」
「馬鹿言え! 私が愛する家族を落とすと思うか?」
頼久が生まれる前までの、冷えきった関係が嘘のように優しく穏やかな毎日。
だから晶は忘れていたのだ。
頼政が、いかに残虐な人間だということを。
頼久と家族三人、幸せな時間を過ごしていると、屋敷に翡翠が戻って来た。
愛する人との逢瀬の時間は、一年以上も引き離されていた二人には短い時間だったのかもしれない。
しかし、翡翠の顔には生気が戻っていた。
「晶様、ありがとうございました」
ひっそりと告げられたお礼に、晶は笑顔を返した。
戻った翡翠の頬は薔薇色に染まり、二人の時間の濃厚さを余韻が伝えていた。
愛される女性は……えもいえぬ色香をはらんでいた。
晶と頼政は、家族としての情で繋がっている。
毎晩、頼久を挟み床寝を共にしているが、頼政が自分に触れる事は無い。
それでも、本来、家族並んで寝るなどありえないしきたりを破ってこうして過ごしてくれることが嬉しかった。
しかしその日の夜、頼久が生まれてから初めて、頼政が寝室に来なかった───。
晶は身体が癒されても、母乳はほとんど出る事はなかった。
しかし、わずかばかりでも自分の母乳を必死に飲む頼久を見て、晶は我が子のように愛しく思うようになった。
頼政も何かと頼久を抱きに現れ
「父上は本当に愚かだったな。子供とは、こんなに可愛いものなのに……」
そう言って、ぷにぷにの頬をつついては頬を緩ませていた。
この頃には友頼も怪我が完治し、元気になっていた。
晶は頼政の目を盗んでは、友頼に頼久を抱かせに訪れた。
そして晶は、三郎太を頼久のお付として翡翠と友頼の橋渡しをさせた。
ずっと……こんな穏やかな日が続くと思っていた。
頼久はスクスクと育ち、一歳になった。
晶は翡翠を親友のように慕い、ようやくひっそりと友頼と翡翠を引き合せることに成功した。
「翡翠!」
「若様!」
ようやく直接会えた二人は、熱い抱擁を交わしていた。
「この茶室は、私しか使わない。
しばし、二人にお貸ししよう」
晶はそう言い残し、屋敷の奥地にある茶室に二人を残して頼久の元へと戻った。
その間、三郎太が頼久の面倒をみてくれていた。
晶は床をハイハイして近付き、ゆっくりとつかまり立ちしながら晶に両手を伸ばした。
「あ~う~、は~は~」
その言葉に、晶は涙を浮かべて頼久を抱き締めた。
「頼久、今、母と呼んでくれたの?
私を母と……」
「う~……と~と~」
頼久の声に顔を上げると、頼政が涙を浮かべて立っていた。
「と~……と~……」
キャッキャと笑い、頼久が頼政に笑顔を浮かべた。
「晶、聞いたか? 頼久が、俺をトトと呼んだぞ」
頼政は晶ごと頼久を抱き上げた。
「殿! あぶのうございます!」
「馬鹿言え! 私が愛する家族を落とすと思うか?」
頼久が生まれる前までの、冷えきった関係が嘘のように優しく穏やかな毎日。
だから晶は忘れていたのだ。
頼政が、いかに残虐な人間だということを。
頼久と家族三人、幸せな時間を過ごしていると、屋敷に翡翠が戻って来た。
愛する人との逢瀬の時間は、一年以上も引き離されていた二人には短い時間だったのかもしれない。
しかし、翡翠の顔には生気が戻っていた。
「晶様、ありがとうございました」
ひっそりと告げられたお礼に、晶は笑顔を返した。
戻った翡翠の頬は薔薇色に染まり、二人の時間の濃厚さを余韻が伝えていた。
愛される女性は……えもいえぬ色香をはらんでいた。
晶と頼政は、家族としての情で繋がっている。
毎晩、頼久を挟み床寝を共にしているが、頼政が自分に触れる事は無い。
それでも、本来、家族並んで寝るなどありえないしきたりを破ってこうして過ごしてくれることが嬉しかった。
しかしその日の夜、頼久が生まれてから初めて、頼政が寝室に来なかった───。
0
あなたにおすすめの小説
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
異能物怪録
佐倉みづき
キャラ文芸
時は大正。西洋化が著しく進んだ時代。夜の暗がりはなくなり、整備された道には人工の灯が灯り人々の営みを照らす。
明治以前の旧文化を疎ましく思う政府は軍による取り締まりを強化。それは闇に紛れてきた人ならざるモノ――物怪も対象であった。陰陽師からなる特殊部隊〈八咫烏〉を編成、物怪の討伐にあたり人々を恐怖に陥らせた。
そんな中、昼日中から惰眠を貪る稲生徹平の元を訪ねる者がいた。その名も山本五郎左衛門。かつて徹平の先祖である稲生平太郎の勇気に感銘を受け、小槌を授けた魔王である。
ある事情から徹平は山本に逆らえず従僕とされ、物怪に纏わる相談事を請け負うことになる。
表紙:かんたん表紙メーカー様にて作成
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる