水鏡~千年の時を越えて、今、再び動き出す悲恋~

古紫汐桜

文字の大きさ
63 / 119
第四章

しおりを挟む
 この日から、奥方と乳母として、晶と翡翠は共に居る事が増えた。
晶は身体が癒されても、母乳はほとんど出る事はなかった。
しかし、わずかばかりでも自分の母乳を必死に飲む頼久を見て、晶は我が子のように愛しく思うようになった。

頼政も何かと頼久を抱きに現れ
「父上は本当に愚かだったな。子供とは、こんなに可愛いものなのに……」
そう言って、ぷにぷにの頬をつついては頬を緩ませていた。
この頃には友頼も怪我が完治し、元気になっていた。
晶は頼政の目を盗んでは、友頼に頼久を抱かせに訪れた。
そして晶は、三郎太を頼久のお付として翡翠と友頼の橋渡しをさせた。
ずっと……こんな穏やかな日が続くと思っていた。

 頼久はスクスクと育ち、一歳になった。
晶は翡翠を親友のように慕い、ようやくひっそりと友頼と翡翠を引き合せることに成功した。

「翡翠!」
「若様!」
ようやく直接会えた二人は、熱い抱擁を交わしていた。
「この茶室は、私しか使わない。
しばし、二人にお貸ししよう」
晶はそう言い残し、屋敷の奥地にある茶室に二人を残して頼久の元へと戻った。
その間、三郎太が頼久の面倒をみてくれていた。
晶は床をハイハイして近付き、ゆっくりとつかまり立ちしながら晶に両手を伸ばした。
「あ~う~、は~は~」
その言葉に、晶は涙を浮かべて頼久を抱き締めた。
「頼久、今、母と呼んでくれたの? 
私を母と……」
「う~……と~と~」
頼久の声に顔を上げると、頼政が涙を浮かべて立っていた。
「と~……と~……」
キャッキャと笑い、頼久が頼政に笑顔を浮かべた。
「晶、聞いたか? 頼久が、俺をトトと呼んだぞ」
頼政は晶ごと頼久を抱き上げた。
「殿! あぶのうございます!」
「馬鹿言え! 私が愛する家族を落とすと思うか?」
頼久が生まれる前までの、冷えきった関係が嘘のように優しく穏やかな毎日。

 だから晶は忘れていたのだ。
頼政が、いかに残虐な人間だということを。

頼久と家族三人、幸せな時間を過ごしていると、屋敷に翡翠が戻って来た。
愛する人との逢瀬の時間は、一年以上も引き離されていた二人には短い時間だったのかもしれない。
しかし、翡翠の顔には生気が戻っていた。
「晶様、ありがとうございました」
ひっそりと告げられたお礼に、晶は笑顔を返した。
戻った翡翠の頬は薔薇色に染まり、二人の時間の濃厚さを余韻が伝えていた。

愛される女性は……えもいえぬ色香をはらんでいた。

晶と頼政は、家族としての情で繋がっている。
毎晩、頼久を挟み床寝を共にしているが、頼政が自分に触れる事は無い。
それでも、本来、家族並んで寝るなどありえないしきたりを破ってこうして過ごしてくれることが嬉しかった。

 しかしその日の夜、頼久が生まれてから初めて、頼政が寝室に来なかった───。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。 真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。 婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。 白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。

処理中です...