水鏡~千年の時を越えて、今、再び動き出す悲恋~

古紫汐桜

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第四章

儀式

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 その頃、翡翠と友頼は鬼ヶ村の豪鬼の家に居た。
突然、黄金の光と共に現れた二人に、豪鬼は翡翠のピンチを悟った。
「父上! 翡翠が……翡翠が……」
友頼の腕の中で、既に虫の音の呼吸をする翡翠に、豪鬼は初から聞いていた話と、突然、近隣の村が惨殺の上、焼かれた事を思い出した。

豪鬼は焼け野原になった村に、二人の遺体がないのを確認はしていた。
しかし……まさかこんな姿で現れるとは、夢にも思わなかった。

「初! 儀式の準備を」
「はい」
「……友頼、良いのだな?」

友頼は、豪鬼の言葉に頷いた。


 あの日────
翡翠と夫婦になった日の翌朝、友頼だけに豪鬼が伝えた言葉を思い出していた。

「友頼、鬼神には命が二つある」
「二つ?」
「そうだ。もし、人間として生きる道を選んだ場合、一度命が奪われかけた時、愛する者の血を一滴口にすれば、その者の性別となり…………一生結ばれぬ代わりに、鬼神としての力の復活と共に再起が出来るのだ」
 そう告げられた。
そして最後の一言は、まるで呪いのようだった。


「そして……その形で鬼神となった者は……、血を与えた愛する者しか命を奪えなくなるのだ」


友頼は、自分の手で翡翠を殺すことは出来ない。
そうなれば、翡翠に不老不死を与えることになる。
死ぬことも出来ず、生き続ける鬼神となれば、この鬼ヶ村の生き神となって、代々子孫を守り続ける存在になると……そう考えていたのだ。

 そんな友頼の気持ちを悟ったのか、豪鬼は
「良いか……友頼。この儀式を行ったら、お前は何があっても翡翠をその手で殺すと約束しろ!」
そう告げたのだ。
「───え?」
「良いか? 翡翠が鬼神になった場合、もし、人を殺めたら悪鬼になるのだ。お前が殺されでもしてみろ。間違いなく気が狂い、悪鬼と化す。
それが出来ぬなら、この儀式は行えぬ」
静かにそう告げられ、友頼が項垂れた時、翡翠の手が友頼の腕を握り締めた。

「お願い……このまま、あなたの腕の中で死なせて……」

涙を流し、翡翠が訴える。
「無理だ! 翡翠……お前を失ったら、私は生きて行けない」
翡翠を抱き締め、涙を流す友頼の頬に触れ
「若様……ごめ……なさい……。これ以上……汚されたく……なかったの……」
涙を流し、翡翠が呟く。
豪鬼と初は、翡翠の言葉で何があったのかを悟った。
初は目頭を押さえ、部屋を飛び出して行った。
「翡翠……私が弱いばかりに、すまない……」
強く抱き締める友頼に、翡翠が小さく微笑んだ。
「若様は……刀より、笛が似合います……」
見開いた目から、生気が失われて行く。
「父上! 私が……私が翡翠を殺します。だから、翡翠を助けて下さい!」
悲痛の叫びが、鬼ヶ村に響いた。
「友頼よ、手を出せ」
そう言われ、友頼は首を横に振った。
友頼は、翡翠の胸に突き立つ短剣を震える手で引き抜いた。
その瞬間、溢れ出す血潮が彼の頬を朱く染めた。
自らの親指に短刀を当てると、鈍い痛みと共に友頼の血が流れ出した。
「痛かったであろう…… 苦しかったであろう……」
友頼は指の鈍い痛みを感じながら、翡翠の苦しみを少しでも分かちたいと思った。
「すぐに……楽にしてやる」
そう呟き、そっと翡翠の唇に自分の唇を重ねた。

これが、翡翠との最後のくちづけになる──
そう心に刻みながら。

そして親指で、そっと翡翠の唇に触れた。
血が……翡翠の唇に朱い紅をひいたように染めて行く。
すると、翡翠の唇が小さく動いた。
自分の名を、消えそうな声が呼ぶ。
「翡翠、ここにいる」
そっと頬を撫でると、唇から一滴の血が翡翠の口の中へと落ちて行った。
その時、翡翠の喉が『コクリ』と鳴った。
その瞬間、翡翠の胸からあふれた血が、白い花びらとなって宙に舞い上がる。
それはまるで、満開の桜が春風に散るようだった。
そして──翡翠の身体を、白い光の糸が静かに包み込んでいく。

その光景は、悲しいくらいに美しかった。
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