66 / 119
第四章
悲劇の幕開け
しおりを挟む
ドンっ ドンっ ドンっ!
太鼓の音に合わせるように、家紋の旗が上がり、廊下を右往左往走り回る動きに合わせ、屋敷中に甲冑のカシャン カシャンという音が響き渡る。
松明がたかれ、戦の前の静けさが広がっていた。
「殿! お待ち下さい、殿!」
静寂を切り裂いたのは、晶の声だった。
「これ以上、恨みを買うような真似はおやめください!」
家来に戦の支度を手伝わせ、戦に向かう身支度をしている頼政に駆け寄った。
コテを付けて床机から立ち上がった。
「殿!」
叫んだ晶に
「晶……これ以上しつこいようなら、お前を切る!」
ゆっくりと刀を抜き、切っ先を晶に向けた。
「殿、これは帝に抜刀した事になるのですよ!」
冷静に訴える晶に、頼政は小さく笑い
「鬼に殺された妻の敵討ちに出陣した……とでも言えば、充分、理屈は通るが?」
そう呟いた。
緊迫した空気が漂う。
睨み合う二人の耳に
「と~と! は~は!」
頼久の声が届いた。
三郎太に抱かれ、何も知らない頼久が睨み合う二人に手を伸ばしている。
「と~と!……は~は!」
いつもなら駆け付けて来れる二人が来ないので、頼久が目に涙を浮かべて両手で抱っこをせがんでいる。
頼政は刀を鞘に戻すと
「頼久に助けられたな」
と言うと、足早に三郎太から頼久を預かり抱き上げた。
「頼久、父はしばらく家を空ける。母上を頼むぞ」
そう言うと、頼久は
「あいっ!」
と手を上げた。
今から無慈悲に惨殺する人とは思えぬ優しい笑顔を浮かべ
「頼久は賢いな」
と頭を撫でた。
「三郎太、頼久を頼むぞ」
生まれた頃から頼久に付き従う三郎太を、頼政はいつの間にか信頼しているようだった
しかし、三郎太が頼政を見る目には、憎しみが宿っている。
それでも三郎太に頼久を預けるのは、頼久が自分以外に母の晶に乳母だった翡翠。そして晶の乳母のきよと三郎太以外には人見知りを起こして泣いてしまうのだ。
翡翠のいない今、自分たち以外で頼久を任せられるのは、老体の"はつ"を抜かすと三郎太しかいなかった。
頼久を三郎太に返すと
「では、行ってくる」
そう言うと、馬副が鼻白毛の愛馬を引き、膝をついて手綱を差し出した。
頼政は無言でそれを受け取り、鞍に足を掛けると軽やかに跨った。
きっと鬼一族が住む場所は、結界で護られているはず。
翡翠を自害にまで追い詰めた頼政を、鬼一族は恨むだろう。
これ以上、頼政が罪を重ねぬように──
ただ祈ることしか出来ない自分が、情けなくて、悲しかった。
太鼓の音に合わせるように、家紋の旗が上がり、廊下を右往左往走り回る動きに合わせ、屋敷中に甲冑のカシャン カシャンという音が響き渡る。
松明がたかれ、戦の前の静けさが広がっていた。
「殿! お待ち下さい、殿!」
静寂を切り裂いたのは、晶の声だった。
「これ以上、恨みを買うような真似はおやめください!」
家来に戦の支度を手伝わせ、戦に向かう身支度をしている頼政に駆け寄った。
コテを付けて床机から立ち上がった。
「殿!」
叫んだ晶に
「晶……これ以上しつこいようなら、お前を切る!」
ゆっくりと刀を抜き、切っ先を晶に向けた。
「殿、これは帝に抜刀した事になるのですよ!」
冷静に訴える晶に、頼政は小さく笑い
「鬼に殺された妻の敵討ちに出陣した……とでも言えば、充分、理屈は通るが?」
そう呟いた。
緊迫した空気が漂う。
睨み合う二人の耳に
「と~と! は~は!」
頼久の声が届いた。
三郎太に抱かれ、何も知らない頼久が睨み合う二人に手を伸ばしている。
「と~と!……は~は!」
いつもなら駆け付けて来れる二人が来ないので、頼久が目に涙を浮かべて両手で抱っこをせがんでいる。
頼政は刀を鞘に戻すと
「頼久に助けられたな」
と言うと、足早に三郎太から頼久を預かり抱き上げた。
「頼久、父はしばらく家を空ける。母上を頼むぞ」
そう言うと、頼久は
「あいっ!」
と手を上げた。
今から無慈悲に惨殺する人とは思えぬ優しい笑顔を浮かべ
「頼久は賢いな」
と頭を撫でた。
「三郎太、頼久を頼むぞ」
生まれた頃から頼久に付き従う三郎太を、頼政はいつの間にか信頼しているようだった
しかし、三郎太が頼政を見る目には、憎しみが宿っている。
それでも三郎太に頼久を預けるのは、頼久が自分以外に母の晶に乳母だった翡翠。そして晶の乳母のきよと三郎太以外には人見知りを起こして泣いてしまうのだ。
翡翠のいない今、自分たち以外で頼久を任せられるのは、老体の"はつ"を抜かすと三郎太しかいなかった。
頼久を三郎太に返すと
「では、行ってくる」
そう言うと、馬副が鼻白毛の愛馬を引き、膝をついて手綱を差し出した。
頼政は無言でそれを受け取り、鞍に足を掛けると軽やかに跨った。
きっと鬼一族が住む場所は、結界で護られているはず。
翡翠を自害にまで追い詰めた頼政を、鬼一族は恨むだろう。
これ以上、頼政が罪を重ねぬように──
ただ祈ることしか出来ない自分が、情けなくて、悲しかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは
紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。
真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。
婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。
白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる