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第四章
三郎太の決意②
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晶は、同じ歳の子供より大人びている三郎太に胸を痛めていた。
まだ齢11歳。
幼さが残っていても良い歳なのに、あの日から三郎太は大人びてしまった。
きっと、早く大人にならなくてはならない──
そう思わせてしまったのだろう……と、晶は考えていた。
「三郎太、嫌だ!」
幼い頼久が、三郎太の着物の裾を掴み涙を浮かべる。
「頼久、なりません」
晶はピシャリと言い放つと
「三郎太は、頼久が大きくなるまで傍に居てくれました。もう、頼久は立派な藤原家の跡取りとして育ったので、三郎太を本当の主君の元へ帰さねばなりません」
と続けた。
「三郎太は、私の従者ではないのか?」
晶を見上げる頼久に、晶は頼久の目線の高さにしゃがみ
「違います。三郎太には、本当の主君がおられるのです」
そう言って、優しく頼久の頭を撫でた。
「じゃあ……三郎太。その主君に何かあったら、私の従者として戻ると約束してはくれぬか?」
頼久は晶に頷くと、小さな小指を三郎太に差し出した。
しかし、三郎太は静かに首を横に振り
「その時は……俺も生きてはいません」
と呟いたのだ。
その瞬間、晶は息を飲み込み、頼久は三郎太にしがみついて泣き出した。
「坊……、分かって下さい」
「わからぬ! ダメじゃ!
そんな場所に、三郎太はやらぬ!」
わぁわぁと声を上げて泣く頼久に、三郎太は晶と二人、頼久が友頼のように優しく、翡翠のように人の痛みの分かる聡明な子に育ってくれた事に胸が熱くなった。
「では、坊。約束してくれませんか?」
「嫌じゃ! 三郎太が約束せぬのなら、私も約束せん!」
泣き叫ぶ頼久に
「……坊が作るこの街を、平和で良い街にして下さい」
と、頼久の肩を掴んで呟いた。
「晶様の言うことをよく聞き、貧しき者、弱き者を助ける主君になって下さい。その時は……、この三郎太。必ずや坊の元に戻ります」
真っ直ぐに頼久を見つめ、三郎太は頼久の小指に自分の小指を絡めた。
「必ずだぞ!」
「えぇ……必ず」
三郎太は頼久にそう言うと、ゆっくりと指を離した。
「では……もう行きます」
二人を見た三郎太の瞳に、迷いはなかった。
引き止めても、無駄か───
晶は小さな溜め息を一つ零した。
晶と頼久に背を向けた三郎太に
「三郎太!」
晶は必死に呼び止め、三郎太の手にお守りを握らせた。
「これは……我が母より嫁ぐ日に送られたもの。今日まで、私を守ってくれました。今日からは、三郎太を守ってくれようぞ」
「晶様……」
細く白い手から、お守りと幾ばくかの金すを握らされた。
「今日まで、忠義でした。どうぞその忠義で、友頼様を守り抜きなさい」
晶の言葉に、三郎太は涙が溢れ出した。
「はい──この命、若様のために燃やし尽くします」
そう言いながら、三郎太は涙を拭い笑顔を浮かべた。
その笑顔はまだ幼くもあり、青年のような逞しさも感じた。
そして三郎太は自分と身長がさほど変わらない晶を抱き締めると
「来世は……必ずあなたを最後まで守ります」
重く吐き出された言葉に、晶は初めて三郎太の想いを知った。
「……では、これで失礼します」
三郎太はそう言って一礼すると、人混みの中へと消えて行った。
季節は夏
お店の店頭で、『チリン……チリン……チリン……』と風鈴の音が鳴り響いている。
それはまるで、弔いの鈴の音のようだと……晶は思った。
──どうかお達者で……
祈る事しか出来ない自分が、晶は歯がゆかった。
その日は夏だというのに、やけに涼しい風が吹き抜けていった。
まだ齢11歳。
幼さが残っていても良い歳なのに、あの日から三郎太は大人びてしまった。
きっと、早く大人にならなくてはならない──
そう思わせてしまったのだろう……と、晶は考えていた。
「三郎太、嫌だ!」
幼い頼久が、三郎太の着物の裾を掴み涙を浮かべる。
「頼久、なりません」
晶はピシャリと言い放つと
「三郎太は、頼久が大きくなるまで傍に居てくれました。もう、頼久は立派な藤原家の跡取りとして育ったので、三郎太を本当の主君の元へ帰さねばなりません」
と続けた。
「三郎太は、私の従者ではないのか?」
晶を見上げる頼久に、晶は頼久の目線の高さにしゃがみ
「違います。三郎太には、本当の主君がおられるのです」
そう言って、優しく頼久の頭を撫でた。
「じゃあ……三郎太。その主君に何かあったら、私の従者として戻ると約束してはくれぬか?」
頼久は晶に頷くと、小さな小指を三郎太に差し出した。
しかし、三郎太は静かに首を横に振り
「その時は……俺も生きてはいません」
と呟いたのだ。
その瞬間、晶は息を飲み込み、頼久は三郎太にしがみついて泣き出した。
「坊……、分かって下さい」
「わからぬ! ダメじゃ!
そんな場所に、三郎太はやらぬ!」
わぁわぁと声を上げて泣く頼久に、三郎太は晶と二人、頼久が友頼のように優しく、翡翠のように人の痛みの分かる聡明な子に育ってくれた事に胸が熱くなった。
「では、坊。約束してくれませんか?」
「嫌じゃ! 三郎太が約束せぬのなら、私も約束せん!」
泣き叫ぶ頼久に
「……坊が作るこの街を、平和で良い街にして下さい」
と、頼久の肩を掴んで呟いた。
「晶様の言うことをよく聞き、貧しき者、弱き者を助ける主君になって下さい。その時は……、この三郎太。必ずや坊の元に戻ります」
真っ直ぐに頼久を見つめ、三郎太は頼久の小指に自分の小指を絡めた。
「必ずだぞ!」
「えぇ……必ず」
三郎太は頼久にそう言うと、ゆっくりと指を離した。
「では……もう行きます」
二人を見た三郎太の瞳に、迷いはなかった。
引き止めても、無駄か───
晶は小さな溜め息を一つ零した。
晶と頼久に背を向けた三郎太に
「三郎太!」
晶は必死に呼び止め、三郎太の手にお守りを握らせた。
「これは……我が母より嫁ぐ日に送られたもの。今日まで、私を守ってくれました。今日からは、三郎太を守ってくれようぞ」
「晶様……」
細く白い手から、お守りと幾ばくかの金すを握らされた。
「今日まで、忠義でした。どうぞその忠義で、友頼様を守り抜きなさい」
晶の言葉に、三郎太は涙が溢れ出した。
「はい──この命、若様のために燃やし尽くします」
そう言いながら、三郎太は涙を拭い笑顔を浮かべた。
その笑顔はまだ幼くもあり、青年のような逞しさも感じた。
そして三郎太は自分と身長がさほど変わらない晶を抱き締めると
「来世は……必ずあなたを最後まで守ります」
重く吐き出された言葉に、晶は初めて三郎太の想いを知った。
「……では、これで失礼します」
三郎太はそう言って一礼すると、人混みの中へと消えて行った。
季節は夏
お店の店頭で、『チリン……チリン……チリン……』と風鈴の音が鳴り響いている。
それはまるで、弔いの鈴の音のようだと……晶は思った。
──どうかお達者で……
祈る事しか出来ない自分が、晶は歯がゆかった。
その日は夏だというのに、やけに涼しい風が吹き抜けていった。
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