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3巻
3-3
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「私にも責任の一端がある。申し訳ない。改めて……リユール伯爵家の次女、ティラスだ。これから東部要塞建設の際には助力を願うかもしれないが、以後よろしく」
「石川良一です。よろしくお願いします」
ティラスとの挨拶は簡単に名前を名乗るだけで終わり、その後公爵は彼女を連れて会場の中心に戻っていった。
公爵達が完全に去った後、この場に残ったキリカが、良一を手招きして耳元で囁く。
「私は拒まないよ?」
良一は驚いて立ち上がり、誰かに聞かれていやしないかと顔を真っ赤にして辺りを見回した。
フフフと余裕の表情で微笑むキリカと、訳がわからなくてニコニコしているモア、やれやれと呆れるキャリー。しかし、メアとマアロとココは、笑顔だが目が笑っていなかった。
キリカの誕生会はちょっとした波乱を巻き起こしながらも、つつがなく終わったのだった。
◆◆◆
誕生会の翌日、ホーレンス公爵の使いが良一達の宿を訪れた。
「俺とキャリーさんですか?」
使いの者は、良一とキャリーに屋敷へ来てほしいという内容の手紙を渡してきた。
「ええ、昨日の今日で申し訳ないのですが、ご足労いただけますか」
良一もキャリーも予定はなかったので、準備の時間をもらってから二人で公爵邸を訪れた。
屋敷は昨夜の喧騒が嘘のように静かで、飾り付けなどもすでに取り除かれている。
使用人に案内されて執務室へと入ると、公爵が出迎えた。
「昨夜ぶりだね、オレオンバーグ殿、石川君」
「こんにちは、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「大きな案件も纏まったので、私は明日にでもメラサル島へと戻るつもりだ」
「そうなんですね」
「そこで君達に頼みがあるんだが、聞いてもらえるだろうか」
ホーレンス公爵は笑みを浮かべながら話しはじめる。
「キリカの誕生会を早めた理由の一つでもあるのだがね……娘が精霊と契約する補助を頼めないだろうか?」
「精霊契約の補助ですか?」
「私は先に出発するが、キリカ達はしばらく王都に残らせる。その間に契約できれば、と考えていてね」
以前キリカに聞いたところによると、彼女はすでに精霊の祝福を受けているが、公爵の方針でまだ契約は行なっていないらしい。
公爵は、精霊と契約して絶大な魔法を操る精霊術師の有用性は理解している一方で、その力を上手く制御できなかった際のデメリットも充分に承知していた。
そのため、キリカが物事の分別がつき、自分を律することが可能な年齢になったら契約を認めるという約束をしているのだ。
「メラサル島で会った時には、精霊術を習得していなかった石川君が、この短期間のうちに自在に使いこなしているのには私も驚いた。また、Aランク冒険者として活躍し、精霊術師としても著名なオレオンバーグ殿に協力いただければ、これほど心強いことはない」
「確かに、初めての精霊契約なら、顔見知りの精霊術師に同行してもらった方が良いわね」
「キリカちゃんの助けになるなら、自分は大丈夫ですけど」
キャリーが公爵の話に頷いたので、良一も話を合わせたが、彼はなんとなくその場の流れと感覚で精霊と契約してしまったので、正しいやり方を知っているわけではなかった。
「公爵様には、王都での宿の代金を私の分まで含めて払っていただいているから、もちろんお手伝いをさせていただきますわ」
「良い返事をもらえて良かった。では、よろしく頼む」
公爵はそう締めくくると、明日の帰島までに済ませなければならない仕事があると言って、その場を後にした。
公爵の執務室を出た良一達は、使用人に頼んでキリカと打ち合わせする場を設けてもらった。
「良一、お父様の頼みを聞いてくれたそうね」
公爵からあらかじめ説明を受けていたのか、キリカは部屋に入ってくるなり笑顔だ。
「ああ、キャリーさんとも話していたんだけど、モア達も同行させていいかな?」
「もちろん。モアが来てくれるなら嬉しいわ」
「王都付近で精霊契約を行うなら、東部のナルタリ平原よね?」
キャリーが王都周辺の地名を挙げると、キリカが頷いた。ある程度自分で下調べしているらしい。
「ええ、そこに多くの精霊がいるんでしょ?」
「そうね。馬車で半日ほどの距離だから、私もあそこが良いと思うわ」
良一としては、少し前に王都西の丘で大精霊に会っているので、そちらを提案したい気持ちもあったが、王都に詳しいキャリーに任せることにした。
「明日はお父様の見送りがあるから、早くても明後日以降なんだけど」
「そうね……準備も含めて三日後が良いんじゃないかしら?」
キャリーの提案が通り、三日後にキリカと一緒に出掛けることになった。
以前、キリカが誘拐に巻き込まれそうになったので、公爵家の方で移動用の竜車の手配や護衛の騎士の派遣をしてもらえるようだ。
「じゃあ、三日後にモア達と一緒にまた来るよ」
「楽しみに待ってる」
宿に戻って、モアにキリカの精霊契約の手伝いをすると伝えると、喜んで一緒に行くことに同意した。メア、ココ、みっちゃん、マアロの四人もピクニックがてら同行する。
「そういえば、キャリーさん。少し前に王都の西にある花畑にモアとみっちゃんと一緒に行った時に、大精霊様に会ったんですよ」
「まあ本当に!? それは初耳ね」
「だから俺はてっきり、キリカちゃんの精霊契約は西の丘に行くんだと思っていたんですけど、あの場所はあまり有名ではないんですか?」
「このあたりの冒険者の間じゃあ、西の丘の花畑は精霊も多くないし、ごく普通の場所って評判よ。今度私も行ってみるわ。ただ、今回は公爵様も東の平原で精霊契約をするものだと思っているから、変に場所は変えずに定番のナルタリ平原にしておきましょう。西の丘はまた次の機会ね」
「わかりました」
何度かキリカと段取りを打ち合わせして、三日後の朝。
公爵邸を訪れると、揃いの鎧に身を包んだ公爵の私設騎士隊が良一達を出迎えた。
挨拶をして、隊長と今回の移動から契約までの流れを改めて打ち合わせていると、動きやすそうな服を着たキリカが出てきた。
「おはよう、皆」
「おはよう、キリカちゃん。天気に恵まれて良かったね」
「早く行こう、キリカちゃん!」
モアは早速、キリカに駆け寄って楽しそうに話しはじめる。
「キリカちゃん、モアね、良一兄ちゃんとキャリーさんと一緒にお弁当を作ったの。お昼に皆で食べよう」
「モアが作ってくれたの? 嬉しいわ。今からお昼ご飯が楽しみね」
「キリカ様、用意はできておりますので、いつでも出発できます」
従者に促され、良一達は竜車に乗り込む。
竜車は合計五台で、その周囲を馬に乗った騎士が並走するという厳重な警備態勢だ。
キリカ、モア、メアとマアロの四人で一台、良一とココとキャリーとみっちゃんの四人で一台、残りはキリカの使用人達が分乗している。
「では、出発しましょう!」
子供組がいないので、良一はこれからの予定について話をすることにした。
「ココ、以前に聞いていた剣神の神殿に行く話なんだけど」
「はい、王都北部の霊峰ホウライ山の麓にある神殿ですね」
「ミレイアさんとの合同クエストが終わったら王都での予定がなくなるから、その後に行くのはどうかな?」
「そうですね、本格的な冬になる前ならば、良い時期だと思います」
「ココちゃん、王都にいる間にますます剣の腕が上がってきているし、剣神様に気に入られそうね」
「王国軍の剣術道場に招いていただいて、それがとても良い励みになっています」
授爵式の晩餐会で、良一はグスタール将軍から王国軍の武術道場に招待を受けていた。
その場にココはいなかったが、宿に戻って道場の話をすると、彼女が関心を示したので二人で訪ねてみたのだ。
ボコボコとは言わないまでも、良一にとってはなかなか苦い経験になった。
結局、良一が足を運んだのはその一度だけだったが、ココは剣術道場の教官に気に入られたのもあり、時間が空いた時には通って稽古をしているらしい。
道場以外にも、キャリーやミレイアというAランク冒険者とたまに手合わせをして、腕を磨いているおかげで、彼女はメキメキと力をつけている。
Bランク冒険者としての地力に、知識や直感も備わってきているので、あとは加護を得て神器さえ使えればAランク冒険者への昇格も間違いないだろうと、キャリーは太鼓判を押している。
「そういえば良一君もBランクへの昇格試験を受けられるのよね」
「ミレイアさんとの合同クエストで条件は揃うらしいです」
「あら、受けてみないの?」
「正直言うと、現状は今のCランクで満足しています。ただ、ココと並び立つためには昇格しないといけないと考えていますけど」
「二人はパーティメンバーですものね」
そんな話をしていると、あっという間に目的のナルタリ平原へと到着した。
「精霊術師になっているからなのか、この辺は空気が違う感じがするな」
良一は今まで感じなかった微妙な変化に気づき、周囲を見回した。
「そうね、精霊が多い場所は邪気も払われて、自然が活性化すると言われているわ」
「なんか、モアも元気が出てきた!」
ピョンピョンと飛び跳ねるモアを一旦落ち着かせて、良一はキリカに声をかける。
「キリカちゃん、精霊契約はお昼ご飯を食べてからにしよう。キャリーさんの話では、精霊契約をするにはリラックスした状態で行なった方が良いらしいよ」
「そう。じゃあ、モアが頑張って作ってくれたお昼を食べてからにしましょう?」
「それがいいよ、キリカちゃん! いっぱい食べてね」
使用人にも手伝ってもらいつつ昼食の準備をして、景色を楽しみながら食べた。
モアが小さな手で握ったおにぎりは、良一には一口だったが、様々な種類のふりかけで彩られていて、見た目にも可愛らしい。
「とても美味しいわ、モア」
「モアはこの黄色いのが入ってるおにぎりが一番好き」
「黄色いつぶは玉子の味なのね? どうやって作っているのか、不思議だわ。でも、巻いてある黒い海苔ってものと合わさって美味しい」
「ごふっ……! 良一、お茶を取って」
キリカが繊細な舌で味を分析する傍ら、おにぎりを一気に頬張りすぎてむせるマアロだった。
少し食休みをしてから、良一達はいよいよ精霊と契約すべく行動を開始した。
あまり大人数で歩くと精霊達を警戒させてしまう恐れがあるので、キリカの面倒を見るのは主に良一とキャリーとモアで、他の者達は周囲を散歩しに行った。
「モア、精霊と契約するにはどうすれば良いの? お父様の家臣の精霊術師に聞いても何も教えてくれないのよ。心配しなくてもキリカ様ならば簡単に契約できます――なんて言われても、わからないわ」
「かーくんとはね、握手をしたら仲良くなったよ」
「握手をすれば良いのね」
「あとはね~、かーくんと一緒にいると、ポカポカしたの。他の精霊さんと違って」
「契約できる精霊はポカポカするのかしら」
基本的に精霊はふわふわと漂う光球のような存在で、人間みたいな手はない。良一はモアがどうやって握手をしたのか謎だったが、子供ならではの表現だと思ってそのまま流した。
それでも、モアとキリカの間では意外と会話が成立しているので微笑ましい。
少しして、キャリーが平原の中でもちょっとした丘になっている場所で足を止めた。
「このあたりで良いでしょう。キリカちゃんも感じるかしら、精霊が多くいる雰囲気を。〝精霊の感覚〟って呼ばれているんだけど」
「確かに……王都や公都とも違う不思議な感じがするわ」
良一も精霊術師としての感覚で、この空間に精霊が多くいるのを捉えた。
目を凝らすと、チカチカと点滅を繰り返す精霊が何体か発見できる。
「精霊さんがいっぱいいるね」
「初めての精霊契約で緊張するわ」
「大丈夫だよ、キリカちゃん」
皆で精霊の気配がする方向に進むと、より一層濃い精霊の気配を感じた。
平原のど真ん中で、川などはなさそうだが、その場所は小さな泉になっている。おそらく、地下からの湧き水が溜っているのだろう。
「見て、水の精霊がいるわよ」
キャリーが指差した先には、チカチカと明滅する光の球体が浮かんでいた。
モア達が契約した風の精霊は全体的に緑がかった光だったが、水の精霊は青っぽい光だ。
「キリカちゃんは水の精霊の祝福を受けているようだから、ちょうど良いわね」
「はい。キャリーさん、どうすれば……」
「まずは精霊達に近づいてみなさい。大丈夫、精霊達も突然襲いかかったりしないから、安心して」
キャリーの指示に従って、キリカはモアと手をつなぎながら恐る恐る精霊に近づいていく。
精霊達の方も、不思議そうに様子を窺いながら二人の周りを飛び回った。
「キリカちゃん、ポカポカする精霊さんはいる?」
「まだわからないわ」
キリカが右手を前に出すと、数体の精霊が近づいて来て彼女の手に触れた。
最初は驚いていたものの、すぐに怖くなくなったのか、キリカはモアと一緒に精霊と触れ合いながら契約してくれる精霊を探しはじめる。
そんな二人と周囲の精霊を眺めていると、良一の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「お久しぶり~」
「大精霊様!? ――って、つい最近も会いましたよね」
「あら、そうだっけ~? 人間の時間はわからないわ。それにしても、良一とはよく会うわね~。今日はここの精霊達と契約しに来たの?」
「そうです。あそこにいる金髪の女の子に精霊と契約してもらうのが目的ですね」
「そうなの~、うちのセラも楽しそうでよかったわ~」
大精霊が指差した先にはいつの間にかセラがいて、モアとキリカの間で手をつないでいた。
突然現れた大精霊様とセラに驚き、護衛の騎士達に警戒が走るが、ココやマアロが大精霊だと説明して事なきを得た。
「ここの精霊達は、心根が綺麗な子なら契約してくれると思うわ。頑張ってね~」
大精霊は、セラは遊び終えたえら一人で帰るからと言い残し、ちゃっかりドーナツの箱を受け取って、先に消えていった。
「良一兄ちゃん、キリカちゃんが契約したって!」
「今行くよ」
モアの呼び声に応えて、良一は二人のもとに駆け寄った。
「〝この子達〟と契約したわ」
見ると、キリカの手の上には二つの光が漂っている。つまり、二体の精霊がいるということだ。
「二体? キリカちゃんはこの二体の精霊と同時に契約したのか?」
「そう。〝クリスティーナ〟と〝シャパーニュ〟が一緒に契約したいって言ったから」
「キャリーさん、大丈夫ですかね?」
「まあ、たまに聞くから大丈夫よ。おそらく、この精霊達は双子なんだと思うわ」
「なら問題ないのか。精霊契約できて、おめでとう」
そうして無事にキリカは精霊と契約を交わしたのだった。
しばらくすると、散歩に出ていたモア達も戻ってきて、キリカが契約した精霊と、自分達の精霊を見せ合ったりして楽しく過ごしていた。
と、思っていたのだが――
「良一兄さん、見てください!」
近づいてきたメアの回りには、二つの光球が漂っていた。
「確か、メアが契約したコハナは双子じゃなかったと思うけど……」
良一は見間違いかと思って目をこすったが、精霊の数は減らない。
「まさか、新しい精霊と契約したのか?」
「ダメでしたか?」
「いや、全然ダメじゃないけど……」
見ると、いつの間にかモア、マアロ、ココもそれぞれ新しい精霊と契約を交わしていた。
「良一も契約すればいい」
マアロは新しい精霊を自慢げに見せつけながら、しれっと言ってのける。
「皆ちゃっかりしているなあ。キャリーさんはどうします?」
「私は皆と違って大精霊様の祝福を受けていないから、火の精霊としか契約できないの。良一君も遠慮せずに、気が合う精霊を見つけてきなさいな。まだ時間の余裕はあるしね」
「じゃあ、ちょっと見てきます」
早速、良一も〝精霊の感覚〟を頼りに水の精霊と触れ合ってみる。
精霊のことは精霊が一番詳しいと思い、良一は自分が契約している風の精霊リリィに出てきてもらった。
『相変わらず、水の精霊は陰気くさいわね』
リリィは開口一番文句を言うので、周囲にいる水の精霊達は抗議するように激しく明滅しはじめる。
「リリィ、そんなこと言うなよ。なんだか水の精霊も怒っているみたいじゃないか」
『良一には私がいるんだから、別に水の精霊とは契約しなくてもいいでしょ?』
良一は風の精霊と水の精霊は互いに仲が悪いのかと思ったが、メアやモアが契約した精霊はそれぞれ楽しそうに遊んでいるので、特に精霊同士の相性が悪いというわけでもないらしい。
嫌がるリリィを無視して契約しても話がこじれそうだと考えた良一は、素直に水の精霊との契約を諦めようと踵を返す。
そこへ、一体の水の精霊が近づいてきた。
『相変わらず、風の精霊は気分屋でいい加減ね』
『なんですって!?』
『本当に気性の荒い風ね。ねえ、そこの大精霊様の祝福を受けている方、そんな風との契約なんて破棄して、私と契約しない?』
『なんてことを提案しているのよ、この水が!!』
この一触即発な雰囲気を緩和せねばと、良一は二体の間に割って入る。
「リリィも落ち着け、それに水の精霊の君も、そんな挑発をしないでくれ」
『でも良一……』
「リリィ、俺達は喧嘩しに来たわけじゃないんだぞ」
『反省するわ、良一』
『私も突っかかってしまってごめんなさい』
どうにか場も収まったので、良一は改めて水の精霊を観察した。
鑑定をしてみると、この精霊は、初めて会った時のリリィと同じくらいの実力を持っているのがわかった。
レベルが高くて強い精霊であれば、それだけ契約者の魔力を使って精霊魔法を放つのが上手くなるが、その分契約はしづらくなるという。
しかし、幸いにもリリィは自分から良一に契約を求めてきたので、良一はさほど苦労せず契約できた。この水の精霊も良一に対して悪い感情は抱いていないようだ。
ちなみに、精霊のレベルは生まれてからの年月に比例するらしい。
「水の精霊の君は、契約者はいないんだよね」
『ええ、若い頃は何人か契約したことがあるけれど、今はフリーね』
「なら、俺と契約を結んでくれないか」
『ちょっと良一、結局契約するんじゃない! あんたには私がいるでしょう!?』
「いやあ……確かにリリィもいるけれど、王都でキリカちゃんが襲撃を受けた時も、ドラゴンゴーレムが動き出した時も、自分の力不足を実感したんだよ。いくら神様にもらった能力で分身ができても、元が強くないとね」
『まあ、良一が決めることだし? どうしてもって言うなら、私は反対しないわ』
『私も契約してもいいわよ。ちょっとは見どころがある人間みたい』
「そうか、じゃあ契約名を考えるか」
『綺麗な名前をお願いね』
「うーん。あまりセンスはないんだけど……〝プラム〟とかどうだ?」
『まあ、少し可愛らしすぎる響きだけれど、気に入ったわ』
「これからよろしく頼むよ、プラム」
『こちらこそ。契約者、良一』
『プラム、私の方が契約精霊としては先輩ですからね』
『ええ。でも、年増の先輩とは違って、私は良一のことを丁寧にサポートするわ』
『なんですって!?』
早速リリィが先輩風を吹かせるので、またしても両者の間で火花が散る。
「喧嘩はやめて、仲良くしてくれよ」
『『無理!』』
「せめて少しくらい努力してくれ」
良一は重いため息をつきながらリリィとプラムを宥め、モア達と合流した。
「良一兄ちゃんも水の精霊さんと契約したんだ?」
「ああ。プラムって名前を考えたんだ」
「そうなんだ、こんにちはプラムちゃん。石川モアです。良一兄ちゃんの妹です」
『こんにちは、良一の妹なのね、これからよろしくね』
「よろしく!」
キリカは早速キャリーに精霊とのふれあい方や精霊魔法の基礎を教わっていて楽しそうだ。
「さて……これで公爵様のお願いは無事に果たせたし、そろそろ王都に戻ろうか」
良一がそう提案すると、キリカも同意した。
「そうね。皆、今日はありがとう! じゃあ隊長さん、王都に戻りましょうか」
「石川良一です。よろしくお願いします」
ティラスとの挨拶は簡単に名前を名乗るだけで終わり、その後公爵は彼女を連れて会場の中心に戻っていった。
公爵達が完全に去った後、この場に残ったキリカが、良一を手招きして耳元で囁く。
「私は拒まないよ?」
良一は驚いて立ち上がり、誰かに聞かれていやしないかと顔を真っ赤にして辺りを見回した。
フフフと余裕の表情で微笑むキリカと、訳がわからなくてニコニコしているモア、やれやれと呆れるキャリー。しかし、メアとマアロとココは、笑顔だが目が笑っていなかった。
キリカの誕生会はちょっとした波乱を巻き起こしながらも、つつがなく終わったのだった。
◆◆◆
誕生会の翌日、ホーレンス公爵の使いが良一達の宿を訪れた。
「俺とキャリーさんですか?」
使いの者は、良一とキャリーに屋敷へ来てほしいという内容の手紙を渡してきた。
「ええ、昨日の今日で申し訳ないのですが、ご足労いただけますか」
良一もキャリーも予定はなかったので、準備の時間をもらってから二人で公爵邸を訪れた。
屋敷は昨夜の喧騒が嘘のように静かで、飾り付けなどもすでに取り除かれている。
使用人に案内されて執務室へと入ると、公爵が出迎えた。
「昨夜ぶりだね、オレオンバーグ殿、石川君」
「こんにちは、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「大きな案件も纏まったので、私は明日にでもメラサル島へと戻るつもりだ」
「そうなんですね」
「そこで君達に頼みがあるんだが、聞いてもらえるだろうか」
ホーレンス公爵は笑みを浮かべながら話しはじめる。
「キリカの誕生会を早めた理由の一つでもあるのだがね……娘が精霊と契約する補助を頼めないだろうか?」
「精霊契約の補助ですか?」
「私は先に出発するが、キリカ達はしばらく王都に残らせる。その間に契約できれば、と考えていてね」
以前キリカに聞いたところによると、彼女はすでに精霊の祝福を受けているが、公爵の方針でまだ契約は行なっていないらしい。
公爵は、精霊と契約して絶大な魔法を操る精霊術師の有用性は理解している一方で、その力を上手く制御できなかった際のデメリットも充分に承知していた。
そのため、キリカが物事の分別がつき、自分を律することが可能な年齢になったら契約を認めるという約束をしているのだ。
「メラサル島で会った時には、精霊術を習得していなかった石川君が、この短期間のうちに自在に使いこなしているのには私も驚いた。また、Aランク冒険者として活躍し、精霊術師としても著名なオレオンバーグ殿に協力いただければ、これほど心強いことはない」
「確かに、初めての精霊契約なら、顔見知りの精霊術師に同行してもらった方が良いわね」
「キリカちゃんの助けになるなら、自分は大丈夫ですけど」
キャリーが公爵の話に頷いたので、良一も話を合わせたが、彼はなんとなくその場の流れと感覚で精霊と契約してしまったので、正しいやり方を知っているわけではなかった。
「公爵様には、王都での宿の代金を私の分まで含めて払っていただいているから、もちろんお手伝いをさせていただきますわ」
「良い返事をもらえて良かった。では、よろしく頼む」
公爵はそう締めくくると、明日の帰島までに済ませなければならない仕事があると言って、その場を後にした。
公爵の執務室を出た良一達は、使用人に頼んでキリカと打ち合わせする場を設けてもらった。
「良一、お父様の頼みを聞いてくれたそうね」
公爵からあらかじめ説明を受けていたのか、キリカは部屋に入ってくるなり笑顔だ。
「ああ、キャリーさんとも話していたんだけど、モア達も同行させていいかな?」
「もちろん。モアが来てくれるなら嬉しいわ」
「王都付近で精霊契約を行うなら、東部のナルタリ平原よね?」
キャリーが王都周辺の地名を挙げると、キリカが頷いた。ある程度自分で下調べしているらしい。
「ええ、そこに多くの精霊がいるんでしょ?」
「そうね。馬車で半日ほどの距離だから、私もあそこが良いと思うわ」
良一としては、少し前に王都西の丘で大精霊に会っているので、そちらを提案したい気持ちもあったが、王都に詳しいキャリーに任せることにした。
「明日はお父様の見送りがあるから、早くても明後日以降なんだけど」
「そうね……準備も含めて三日後が良いんじゃないかしら?」
キャリーの提案が通り、三日後にキリカと一緒に出掛けることになった。
以前、キリカが誘拐に巻き込まれそうになったので、公爵家の方で移動用の竜車の手配や護衛の騎士の派遣をしてもらえるようだ。
「じゃあ、三日後にモア達と一緒にまた来るよ」
「楽しみに待ってる」
宿に戻って、モアにキリカの精霊契約の手伝いをすると伝えると、喜んで一緒に行くことに同意した。メア、ココ、みっちゃん、マアロの四人もピクニックがてら同行する。
「そういえば、キャリーさん。少し前に王都の西にある花畑にモアとみっちゃんと一緒に行った時に、大精霊様に会ったんですよ」
「まあ本当に!? それは初耳ね」
「だから俺はてっきり、キリカちゃんの精霊契約は西の丘に行くんだと思っていたんですけど、あの場所はあまり有名ではないんですか?」
「このあたりの冒険者の間じゃあ、西の丘の花畑は精霊も多くないし、ごく普通の場所って評判よ。今度私も行ってみるわ。ただ、今回は公爵様も東の平原で精霊契約をするものだと思っているから、変に場所は変えずに定番のナルタリ平原にしておきましょう。西の丘はまた次の機会ね」
「わかりました」
何度かキリカと段取りを打ち合わせして、三日後の朝。
公爵邸を訪れると、揃いの鎧に身を包んだ公爵の私設騎士隊が良一達を出迎えた。
挨拶をして、隊長と今回の移動から契約までの流れを改めて打ち合わせていると、動きやすそうな服を着たキリカが出てきた。
「おはよう、皆」
「おはよう、キリカちゃん。天気に恵まれて良かったね」
「早く行こう、キリカちゃん!」
モアは早速、キリカに駆け寄って楽しそうに話しはじめる。
「キリカちゃん、モアね、良一兄ちゃんとキャリーさんと一緒にお弁当を作ったの。お昼に皆で食べよう」
「モアが作ってくれたの? 嬉しいわ。今からお昼ご飯が楽しみね」
「キリカ様、用意はできておりますので、いつでも出発できます」
従者に促され、良一達は竜車に乗り込む。
竜車は合計五台で、その周囲を馬に乗った騎士が並走するという厳重な警備態勢だ。
キリカ、モア、メアとマアロの四人で一台、良一とココとキャリーとみっちゃんの四人で一台、残りはキリカの使用人達が分乗している。
「では、出発しましょう!」
子供組がいないので、良一はこれからの予定について話をすることにした。
「ココ、以前に聞いていた剣神の神殿に行く話なんだけど」
「はい、王都北部の霊峰ホウライ山の麓にある神殿ですね」
「ミレイアさんとの合同クエストが終わったら王都での予定がなくなるから、その後に行くのはどうかな?」
「そうですね、本格的な冬になる前ならば、良い時期だと思います」
「ココちゃん、王都にいる間にますます剣の腕が上がってきているし、剣神様に気に入られそうね」
「王国軍の剣術道場に招いていただいて、それがとても良い励みになっています」
授爵式の晩餐会で、良一はグスタール将軍から王国軍の武術道場に招待を受けていた。
その場にココはいなかったが、宿に戻って道場の話をすると、彼女が関心を示したので二人で訪ねてみたのだ。
ボコボコとは言わないまでも、良一にとってはなかなか苦い経験になった。
結局、良一が足を運んだのはその一度だけだったが、ココは剣術道場の教官に気に入られたのもあり、時間が空いた時には通って稽古をしているらしい。
道場以外にも、キャリーやミレイアというAランク冒険者とたまに手合わせをして、腕を磨いているおかげで、彼女はメキメキと力をつけている。
Bランク冒険者としての地力に、知識や直感も備わってきているので、あとは加護を得て神器さえ使えればAランク冒険者への昇格も間違いないだろうと、キャリーは太鼓判を押している。
「そういえば良一君もBランクへの昇格試験を受けられるのよね」
「ミレイアさんとの合同クエストで条件は揃うらしいです」
「あら、受けてみないの?」
「正直言うと、現状は今のCランクで満足しています。ただ、ココと並び立つためには昇格しないといけないと考えていますけど」
「二人はパーティメンバーですものね」
そんな話をしていると、あっという間に目的のナルタリ平原へと到着した。
「精霊術師になっているからなのか、この辺は空気が違う感じがするな」
良一は今まで感じなかった微妙な変化に気づき、周囲を見回した。
「そうね、精霊が多い場所は邪気も払われて、自然が活性化すると言われているわ」
「なんか、モアも元気が出てきた!」
ピョンピョンと飛び跳ねるモアを一旦落ち着かせて、良一はキリカに声をかける。
「キリカちゃん、精霊契約はお昼ご飯を食べてからにしよう。キャリーさんの話では、精霊契約をするにはリラックスした状態で行なった方が良いらしいよ」
「そう。じゃあ、モアが頑張って作ってくれたお昼を食べてからにしましょう?」
「それがいいよ、キリカちゃん! いっぱい食べてね」
使用人にも手伝ってもらいつつ昼食の準備をして、景色を楽しみながら食べた。
モアが小さな手で握ったおにぎりは、良一には一口だったが、様々な種類のふりかけで彩られていて、見た目にも可愛らしい。
「とても美味しいわ、モア」
「モアはこの黄色いのが入ってるおにぎりが一番好き」
「黄色いつぶは玉子の味なのね? どうやって作っているのか、不思議だわ。でも、巻いてある黒い海苔ってものと合わさって美味しい」
「ごふっ……! 良一、お茶を取って」
キリカが繊細な舌で味を分析する傍ら、おにぎりを一気に頬張りすぎてむせるマアロだった。
少し食休みをしてから、良一達はいよいよ精霊と契約すべく行動を開始した。
あまり大人数で歩くと精霊達を警戒させてしまう恐れがあるので、キリカの面倒を見るのは主に良一とキャリーとモアで、他の者達は周囲を散歩しに行った。
「モア、精霊と契約するにはどうすれば良いの? お父様の家臣の精霊術師に聞いても何も教えてくれないのよ。心配しなくてもキリカ様ならば簡単に契約できます――なんて言われても、わからないわ」
「かーくんとはね、握手をしたら仲良くなったよ」
「握手をすれば良いのね」
「あとはね~、かーくんと一緒にいると、ポカポカしたの。他の精霊さんと違って」
「契約できる精霊はポカポカするのかしら」
基本的に精霊はふわふわと漂う光球のような存在で、人間みたいな手はない。良一はモアがどうやって握手をしたのか謎だったが、子供ならではの表現だと思ってそのまま流した。
それでも、モアとキリカの間では意外と会話が成立しているので微笑ましい。
少しして、キャリーが平原の中でもちょっとした丘になっている場所で足を止めた。
「このあたりで良いでしょう。キリカちゃんも感じるかしら、精霊が多くいる雰囲気を。〝精霊の感覚〟って呼ばれているんだけど」
「確かに……王都や公都とも違う不思議な感じがするわ」
良一も精霊術師としての感覚で、この空間に精霊が多くいるのを捉えた。
目を凝らすと、チカチカと点滅を繰り返す精霊が何体か発見できる。
「精霊さんがいっぱいいるね」
「初めての精霊契約で緊張するわ」
「大丈夫だよ、キリカちゃん」
皆で精霊の気配がする方向に進むと、より一層濃い精霊の気配を感じた。
平原のど真ん中で、川などはなさそうだが、その場所は小さな泉になっている。おそらく、地下からの湧き水が溜っているのだろう。
「見て、水の精霊がいるわよ」
キャリーが指差した先には、チカチカと明滅する光の球体が浮かんでいた。
モア達が契約した風の精霊は全体的に緑がかった光だったが、水の精霊は青っぽい光だ。
「キリカちゃんは水の精霊の祝福を受けているようだから、ちょうど良いわね」
「はい。キャリーさん、どうすれば……」
「まずは精霊達に近づいてみなさい。大丈夫、精霊達も突然襲いかかったりしないから、安心して」
キャリーの指示に従って、キリカはモアと手をつなぎながら恐る恐る精霊に近づいていく。
精霊達の方も、不思議そうに様子を窺いながら二人の周りを飛び回った。
「キリカちゃん、ポカポカする精霊さんはいる?」
「まだわからないわ」
キリカが右手を前に出すと、数体の精霊が近づいて来て彼女の手に触れた。
最初は驚いていたものの、すぐに怖くなくなったのか、キリカはモアと一緒に精霊と触れ合いながら契約してくれる精霊を探しはじめる。
そんな二人と周囲の精霊を眺めていると、良一の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「お久しぶり~」
「大精霊様!? ――って、つい最近も会いましたよね」
「あら、そうだっけ~? 人間の時間はわからないわ。それにしても、良一とはよく会うわね~。今日はここの精霊達と契約しに来たの?」
「そうです。あそこにいる金髪の女の子に精霊と契約してもらうのが目的ですね」
「そうなの~、うちのセラも楽しそうでよかったわ~」
大精霊が指差した先にはいつの間にかセラがいて、モアとキリカの間で手をつないでいた。
突然現れた大精霊様とセラに驚き、護衛の騎士達に警戒が走るが、ココやマアロが大精霊だと説明して事なきを得た。
「ここの精霊達は、心根が綺麗な子なら契約してくれると思うわ。頑張ってね~」
大精霊は、セラは遊び終えたえら一人で帰るからと言い残し、ちゃっかりドーナツの箱を受け取って、先に消えていった。
「良一兄ちゃん、キリカちゃんが契約したって!」
「今行くよ」
モアの呼び声に応えて、良一は二人のもとに駆け寄った。
「〝この子達〟と契約したわ」
見ると、キリカの手の上には二つの光が漂っている。つまり、二体の精霊がいるということだ。
「二体? キリカちゃんはこの二体の精霊と同時に契約したのか?」
「そう。〝クリスティーナ〟と〝シャパーニュ〟が一緒に契約したいって言ったから」
「キャリーさん、大丈夫ですかね?」
「まあ、たまに聞くから大丈夫よ。おそらく、この精霊達は双子なんだと思うわ」
「なら問題ないのか。精霊契約できて、おめでとう」
そうして無事にキリカは精霊と契約を交わしたのだった。
しばらくすると、散歩に出ていたモア達も戻ってきて、キリカが契約した精霊と、自分達の精霊を見せ合ったりして楽しく過ごしていた。
と、思っていたのだが――
「良一兄さん、見てください!」
近づいてきたメアの回りには、二つの光球が漂っていた。
「確か、メアが契約したコハナは双子じゃなかったと思うけど……」
良一は見間違いかと思って目をこすったが、精霊の数は減らない。
「まさか、新しい精霊と契約したのか?」
「ダメでしたか?」
「いや、全然ダメじゃないけど……」
見ると、いつの間にかモア、マアロ、ココもそれぞれ新しい精霊と契約を交わしていた。
「良一も契約すればいい」
マアロは新しい精霊を自慢げに見せつけながら、しれっと言ってのける。
「皆ちゃっかりしているなあ。キャリーさんはどうします?」
「私は皆と違って大精霊様の祝福を受けていないから、火の精霊としか契約できないの。良一君も遠慮せずに、気が合う精霊を見つけてきなさいな。まだ時間の余裕はあるしね」
「じゃあ、ちょっと見てきます」
早速、良一も〝精霊の感覚〟を頼りに水の精霊と触れ合ってみる。
精霊のことは精霊が一番詳しいと思い、良一は自分が契約している風の精霊リリィに出てきてもらった。
『相変わらず、水の精霊は陰気くさいわね』
リリィは開口一番文句を言うので、周囲にいる水の精霊達は抗議するように激しく明滅しはじめる。
「リリィ、そんなこと言うなよ。なんだか水の精霊も怒っているみたいじゃないか」
『良一には私がいるんだから、別に水の精霊とは契約しなくてもいいでしょ?』
良一は風の精霊と水の精霊は互いに仲が悪いのかと思ったが、メアやモアが契約した精霊はそれぞれ楽しそうに遊んでいるので、特に精霊同士の相性が悪いというわけでもないらしい。
嫌がるリリィを無視して契約しても話がこじれそうだと考えた良一は、素直に水の精霊との契約を諦めようと踵を返す。
そこへ、一体の水の精霊が近づいてきた。
『相変わらず、風の精霊は気分屋でいい加減ね』
『なんですって!?』
『本当に気性の荒い風ね。ねえ、そこの大精霊様の祝福を受けている方、そんな風との契約なんて破棄して、私と契約しない?』
『なんてことを提案しているのよ、この水が!!』
この一触即発な雰囲気を緩和せねばと、良一は二体の間に割って入る。
「リリィも落ち着け、それに水の精霊の君も、そんな挑発をしないでくれ」
『でも良一……』
「リリィ、俺達は喧嘩しに来たわけじゃないんだぞ」
『反省するわ、良一』
『私も突っかかってしまってごめんなさい』
どうにか場も収まったので、良一は改めて水の精霊を観察した。
鑑定をしてみると、この精霊は、初めて会った時のリリィと同じくらいの実力を持っているのがわかった。
レベルが高くて強い精霊であれば、それだけ契約者の魔力を使って精霊魔法を放つのが上手くなるが、その分契約はしづらくなるという。
しかし、幸いにもリリィは自分から良一に契約を求めてきたので、良一はさほど苦労せず契約できた。この水の精霊も良一に対して悪い感情は抱いていないようだ。
ちなみに、精霊のレベルは生まれてからの年月に比例するらしい。
「水の精霊の君は、契約者はいないんだよね」
『ええ、若い頃は何人か契約したことがあるけれど、今はフリーね』
「なら、俺と契約を結んでくれないか」
『ちょっと良一、結局契約するんじゃない! あんたには私がいるでしょう!?』
「いやあ……確かにリリィもいるけれど、王都でキリカちゃんが襲撃を受けた時も、ドラゴンゴーレムが動き出した時も、自分の力不足を実感したんだよ。いくら神様にもらった能力で分身ができても、元が強くないとね」
『まあ、良一が決めることだし? どうしてもって言うなら、私は反対しないわ』
『私も契約してもいいわよ。ちょっとは見どころがある人間みたい』
「そうか、じゃあ契約名を考えるか」
『綺麗な名前をお願いね』
「うーん。あまりセンスはないんだけど……〝プラム〟とかどうだ?」
『まあ、少し可愛らしすぎる響きだけれど、気に入ったわ』
「これからよろしく頼むよ、プラム」
『こちらこそ。契約者、良一』
『プラム、私の方が契約精霊としては先輩ですからね』
『ええ。でも、年増の先輩とは違って、私は良一のことを丁寧にサポートするわ』
『なんですって!?』
早速リリィが先輩風を吹かせるので、またしても両者の間で火花が散る。
「喧嘩はやめて、仲良くしてくれよ」
『『無理!』』
「せめて少しくらい努力してくれ」
良一は重いため息をつきながらリリィとプラムを宥め、モア達と合流した。
「良一兄ちゃんも水の精霊さんと契約したんだ?」
「ああ。プラムって名前を考えたんだ」
「そうなんだ、こんにちはプラムちゃん。石川モアです。良一兄ちゃんの妹です」
『こんにちは、良一の妹なのね、これからよろしくね』
「よろしく!」
キリカは早速キャリーに精霊とのふれあい方や精霊魔法の基礎を教わっていて楽しそうだ。
「さて……これで公爵様のお願いは無事に果たせたし、そろそろ王都に戻ろうか」
良一がそう提案すると、キリカも同意した。
「そうね。皆、今日はありがとう! じゃあ隊長さん、王都に戻りましょうか」
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