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第1章 学園1年生前期
入部届け
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異能力の検査測定を行なった昼時、入学して間もないのに仁也は昼間から焼肉屋でクラスメイトの女子と一緒にランチを取っていた。
「仁也は白米をおかわりするか?」
「いや最初に頼んだ特盛の白米で十分だよ」
「そうか、すいません白米特盛とカルビを五人前で」
昼食には少しタイミングが早かったのか、待ち時間無しで座敷に案内されて食べ放題二時間コースを注文してから一時間が過ぎた現在でもアカネの食べるスピードは一切落ちずにその筋肉質で細い体に肉に野菜に白米と吸い込まれていった。
「やっぱり肉は最高だな、幾らでも食べられるぜ」
ニコニコと幸せそうに肉を食べるアカネの横には空になった皿が積み上がっていく、店員が度々積み上がった皿を回収していくが十分程で溜まっていく。
「ところでトーナメントはどうなんだよ」
「今日は特にトーナメントも競技会も無いみたいだな」
一度箸を置いてから生徒手帳で小森田先輩から教わったばかりのトーナメントや競技会の最新情報が掲載されるサイトを調べて見たが、めぼしいイベントは無かった。
「え~、つまんね」
「次のトーナメントは四日後に行われる魔術科校の有志で開く魔術競技会が一番大きそうだな」
「魔術系統はパス、拳と拳がぶつかり合うトーナメントはないのかよ」
「それなら一週間後の魔格闘団記念トーナメントかな」
「一週間後かすんごい先だな」
少し拗ねたような声を出すがどうしようもない。
「じゃあさ部活見学に行こう!」
「部活見学か」
結局時間制限の最後まで肉と白米を食べ続けたアカネは、苦しそうな表情すら見せずに満足気な顔で店を出た。
「強い人を探すなら中央区に本拠を構えるクラブや研究会がいいのかな」
「なら腹ごなしも兼ねて歩こうぜ」
アカネと並んで中央区を目指し歩いているとビルが建ち並んでいた区画から街路樹や花壇が多い区画へと変わっていった。
「学園の中なのに此処は澄んだ魔素が溢れているな、高位な精霊でもいるのかな」
アカネは魔素に敏感らしく、この区画の魔素が違うと言いながら目を閉じて鼻をクンクンと小刻みに動かして辺りを探った。
「こっちだな」
アカネは目をパッチリと開けるとスタスタと歩き始めた。仁也もその後を追っていくと、行き先から子供達が遊ぶ弾んだ声が聞こえてきた。
キャッキャと楽し気な声の中に一人だけ野太い声が混じっているのが目の前の公園から聞こえてくる。近づくにつれ子供の声と共に野太い声もハッキリと聞こえるようになった。
「何だか楽しそうだな」
公園の中に入り、声の聞こえる方に視線を向けるとそこには、正に球体と言ったような体格の瓶底眼鏡を掛けた四十代程の男性が保育園児程の男の子や女の子を肩車や両脇に抱え込みグルグルと回っていた。
「「不審者だ!!」」
思わずアカネとハモってしまう程の個性溢れる風体の男性は叫び声をあげる秀斗とアカネの方を見た。
「不審者は何処ですかな?」
即座に両脇に抱えた子供達を下ろし三十メートル程離れていた仁也達の目の前へと件の男性が現れた。
男性の出現にアカネも反応できなかったらしく、一歩後ずさってから拳を構えた。敵意を示すアカネとポカンとしたまま身動きしない仁也を見ているが肩車をしたままの赤い短髪の女の子が男性の額をペチペチと叩く。
「この二人は田中の事を不審者だって思っているんだろう。まあ側から見れば犯罪者のルックスだからな」
「ホッホッホ、どうやら私の事を誤解しているようですな見た所入学したばかりの新入生さんですかな?」
男性が笑いながら構えを解き話しかけてきた。後ろから子供達も笑顔で男性に走り寄ってくる。
「きしさま、グルグルもういっかい」
「つぎはわたし~」
「にいちゃんとねえちゃんはだれ?」
子供達に再び囲まれた男性を見てアカネも男性は取り敢えず子供に危機は加えないと判断したのか拳を下ろした。
「こら~、貴方達はまた田中さんを困らせているのでしょう」
アップリケがあしらわれたエプロンをまとった優しげな二十代後半程の女性がパタパタと小走りで寄ってきた。
「あら田中さんの部下の学生さんかしら?」
「いえいえ、彼等は偶然ここに通りかかった新入生達ですよ」
「そうでしたか、さあみんなお昼寝の時間ですよ」
「え~きしさまとあそぶ~」
「ねむくなーい」
「おしっこ」
子供達はワイワイとエプロンを着けた女性に反論や要望を伝えたが、パンパンと手を叩いて女性は子供達を統率して去っていった。
「失礼な事を言ってすいませんでした」
「すいませんでした」
子供達がいなくなった後の男性と三人だけになった瞬間に仁也とアカネは頭を下げた。男性はホッホッホと朗らかに笑い謝罪を受け入れてくれた。
「まあ頭を下げるなんて殊勝な心掛けね」
「君達も正義感から叫んだのでしょう、悪を許さぬ心意気を摘むのは無粋というものです。ここで会いましたのも何かの縁というものチーム真実の騎士に所属しております田中幸正と申します」
「普通科校に入学したばかりの和田仁也です」
「ホオズキ・アカネです」
独特な体型の田中さんも気になるが頭上で偉そうにする女の子が気になりアカネと視線をそそぐと
「こちらはフレム姫です」
田中さんが女の子の代わりに紹介をしてくれた。女の子はこちらに興味がないのか爪を弄っているが、それにも飽きたのか再び田中さんの額をペチペチと叩き始めた。
「和田君にホオズキさんだね、また何処かでお会いしましょう。君達とはまたお会いしそうです」
では姫行きましょうかと言いながら田中さんは歩き去って行った。
「学園には変な人がいるな」
「そうだな」
それからアカネと一緒に武術系の部活動やサークルを見学したが、どこにも圧倒的な程の実力を持った人が何人もいた。アカネは戦いたそうだったが実力者達に試合を頼んだが全員に断られていた。
「何だよ全員腑抜けばっかりかよ」
ふくれっ面になり心の奥底から湧き上がる怒りを抑えきれていない。時間も夕方になり今日の見学は終わりにして戻ろうと駅まで歩いていると第四学園情報収集クラブの部長さんがいた。
「こんばんは和田君、いまお帰りですか?」
「こんばんは部長さん、クラスメイトの部活見学の付き添いの帰りです」
上下をグレーのスーツできめた部長さんが物腰柔らかく話しかけてきた。
「部長?部長って事は強いのか?頼む勝負してくれ」
「突然ですね、何があったんですか?」
突然勝負を申し込んできたアカネにビックリしている部長さんに部活見学での出来事を話すと、部長さんは成る程と頷いた。
「成る程、話は分かりました。試合をしましょうか」
部長さんが笑顔のままアカネの申し出を受けたので、仁也は勿論アカネもまさか受けて貰えるとは思わず目を見開いて驚いた。
「ただ試合の前に書類をいくつかクラブハウスに預けたいので、寄ってからで良いですか?」
「え、あ、どうぞ」
そうして三人で第四学園情報収集クラブのクラブハウスに行くと小森田先輩を初め、昨日会ったメンバーがおり部長とアカネの試合の話を聞くと全員が興味を持ちついて来ることになった。
「おいおい和田青年、昨日は自分の力不足に悩んでいた青年が入学早々に彼女を作るなんて、そんな奴だったのかい君は」
小森田先輩が身長差の関係で太腿の裏側をバシバシと強めに叩いてくる。
「いやクラスメイトですよ」
「ただのクラスメイトが入学早々の男女が互いを名前呼びするかよ、青春で済ませられない手の早さだな」
笑顔だが段々と力が強くなる小森田先輩の話に合わせながら、仁也とアカネと第四学園情報収集クラブの面々はクラブハウス近くの訓練場にやって来た。
「僕の方の準備は整いました」
スーツの上着を脱ぎ、カットシャツの第一ボタンと袖のボタンを外し捲り上げてから余裕のある態度で宣言した。
「部長さん、勝負をしてくれるのは嬉しいけど本当に良いのか?」
アカネはブレザーを脱ぎジャージに着替えてファイティングポーズを取り、その表情は目が輝き鋭い犬歯が剥き出しになるほど口角を上げていた。
「いつでもどうぞ」
「じゃあいくぜ」
言うが早いかアカネは走り出して大きく振りかぶって部長に殴りかかった。
部長は笑顔を絶やさないまま半身を捻り、いつの間にか手に持っていたトンファーでアカネの拳を受け止めた。
「えいっ」
「えっ、なっ」
部長の掛け声とともにアカネの拳を払いのけ、流れのままトンファーでアカネの足を掬い上げた。
アカネは動きが追いつかずその場で転ばされた。
「まだまだぁー」
アカネもやられっぱなしではないのか気合の掛け声とともに起き上がり、態勢を立て直して再び部長さんに向かって走り出した。
「今日判明した異能力を早速試させてもらうぜ[マックスアップ]!!」
アカネが異能力名を叫ぶとアカネの体が紅く輝き包まれた。ただ光るだけではなくスピードが目に見えて早くなり、トンファーの防御を潜り抜けて部長の腹へと拳を叩き込んだ。
「勢いの乗った良い拳です。ただ重みが足りませんね」
叩き込まれたかに見えたアカネの拳は部長の腹の手前で止まっていた。不可視な壁があるかのように僅かな隙間を開けて拳が止まっている。
力押ししようとアカネが歯を食いしばり更に力を込めていくがビクともした様子がうかがえない。
「素晴らしい力ですが、これで終わりです」
部長さんがアカネの額に弱いチョップを入れると、力が抜けるようにアカネはその場にへたり込んだ。
「まいった。完敗だ」
アカネはスッキリした表情で敗北を宣言した。
試合が終わり部員の人達と一緒にアカネと部長のもとに向かうと、アカネがへたり込んだ状態から正座へと姿勢を正して頭を下げた。
「アタシを弟子にしてくれ」
「僕は弟子取りをしていないんで、クラブに入部してくれたのなら後輩として指導しますけれど」
「部員になります」
目の前でアカネが、部長さんの胸ポケットから取り出された入部届けに記入している横で、小森田先輩からお前も早く書きなよと言わんばかりに肘でグリグリされたので、今日のアカネと同行して見学したクラブも今一つだったのでこれも縁だと思い第四学園情報収集クラブへの入部届けを記載した。
「二人の入部届けは確かに受け取ったよ」
部長さんが笑顔で二枚の入部届けを受け取り、周囲の部員も歓迎ムードで迎え入れてくれた。
「仁也は白米をおかわりするか?」
「いや最初に頼んだ特盛の白米で十分だよ」
「そうか、すいません白米特盛とカルビを五人前で」
昼食には少しタイミングが早かったのか、待ち時間無しで座敷に案内されて食べ放題二時間コースを注文してから一時間が過ぎた現在でもアカネの食べるスピードは一切落ちずにその筋肉質で細い体に肉に野菜に白米と吸い込まれていった。
「やっぱり肉は最高だな、幾らでも食べられるぜ」
ニコニコと幸せそうに肉を食べるアカネの横には空になった皿が積み上がっていく、店員が度々積み上がった皿を回収していくが十分程で溜まっていく。
「ところでトーナメントはどうなんだよ」
「今日は特にトーナメントも競技会も無いみたいだな」
一度箸を置いてから生徒手帳で小森田先輩から教わったばかりのトーナメントや競技会の最新情報が掲載されるサイトを調べて見たが、めぼしいイベントは無かった。
「え~、つまんね」
「次のトーナメントは四日後に行われる魔術科校の有志で開く魔術競技会が一番大きそうだな」
「魔術系統はパス、拳と拳がぶつかり合うトーナメントはないのかよ」
「それなら一週間後の魔格闘団記念トーナメントかな」
「一週間後かすんごい先だな」
少し拗ねたような声を出すがどうしようもない。
「じゃあさ部活見学に行こう!」
「部活見学か」
結局時間制限の最後まで肉と白米を食べ続けたアカネは、苦しそうな表情すら見せずに満足気な顔で店を出た。
「強い人を探すなら中央区に本拠を構えるクラブや研究会がいいのかな」
「なら腹ごなしも兼ねて歩こうぜ」
アカネと並んで中央区を目指し歩いているとビルが建ち並んでいた区画から街路樹や花壇が多い区画へと変わっていった。
「学園の中なのに此処は澄んだ魔素が溢れているな、高位な精霊でもいるのかな」
アカネは魔素に敏感らしく、この区画の魔素が違うと言いながら目を閉じて鼻をクンクンと小刻みに動かして辺りを探った。
「こっちだな」
アカネは目をパッチリと開けるとスタスタと歩き始めた。仁也もその後を追っていくと、行き先から子供達が遊ぶ弾んだ声が聞こえてきた。
キャッキャと楽し気な声の中に一人だけ野太い声が混じっているのが目の前の公園から聞こえてくる。近づくにつれ子供の声と共に野太い声もハッキリと聞こえるようになった。
「何だか楽しそうだな」
公園の中に入り、声の聞こえる方に視線を向けるとそこには、正に球体と言ったような体格の瓶底眼鏡を掛けた四十代程の男性が保育園児程の男の子や女の子を肩車や両脇に抱え込みグルグルと回っていた。
「「不審者だ!!」」
思わずアカネとハモってしまう程の個性溢れる風体の男性は叫び声をあげる秀斗とアカネの方を見た。
「不審者は何処ですかな?」
即座に両脇に抱えた子供達を下ろし三十メートル程離れていた仁也達の目の前へと件の男性が現れた。
男性の出現にアカネも反応できなかったらしく、一歩後ずさってから拳を構えた。敵意を示すアカネとポカンとしたまま身動きしない仁也を見ているが肩車をしたままの赤い短髪の女の子が男性の額をペチペチと叩く。
「この二人は田中の事を不審者だって思っているんだろう。まあ側から見れば犯罪者のルックスだからな」
「ホッホッホ、どうやら私の事を誤解しているようですな見た所入学したばかりの新入生さんですかな?」
男性が笑いながら構えを解き話しかけてきた。後ろから子供達も笑顔で男性に走り寄ってくる。
「きしさま、グルグルもういっかい」
「つぎはわたし~」
「にいちゃんとねえちゃんはだれ?」
子供達に再び囲まれた男性を見てアカネも男性は取り敢えず子供に危機は加えないと判断したのか拳を下ろした。
「こら~、貴方達はまた田中さんを困らせているのでしょう」
アップリケがあしらわれたエプロンをまとった優しげな二十代後半程の女性がパタパタと小走りで寄ってきた。
「あら田中さんの部下の学生さんかしら?」
「いえいえ、彼等は偶然ここに通りかかった新入生達ですよ」
「そうでしたか、さあみんなお昼寝の時間ですよ」
「え~きしさまとあそぶ~」
「ねむくなーい」
「おしっこ」
子供達はワイワイとエプロンを着けた女性に反論や要望を伝えたが、パンパンと手を叩いて女性は子供達を統率して去っていった。
「失礼な事を言ってすいませんでした」
「すいませんでした」
子供達がいなくなった後の男性と三人だけになった瞬間に仁也とアカネは頭を下げた。男性はホッホッホと朗らかに笑い謝罪を受け入れてくれた。
「まあ頭を下げるなんて殊勝な心掛けね」
「君達も正義感から叫んだのでしょう、悪を許さぬ心意気を摘むのは無粋というものです。ここで会いましたのも何かの縁というものチーム真実の騎士に所属しております田中幸正と申します」
「普通科校に入学したばかりの和田仁也です」
「ホオズキ・アカネです」
独特な体型の田中さんも気になるが頭上で偉そうにする女の子が気になりアカネと視線をそそぐと
「こちらはフレム姫です」
田中さんが女の子の代わりに紹介をしてくれた。女の子はこちらに興味がないのか爪を弄っているが、それにも飽きたのか再び田中さんの額をペチペチと叩き始めた。
「和田君にホオズキさんだね、また何処かでお会いしましょう。君達とはまたお会いしそうです」
では姫行きましょうかと言いながら田中さんは歩き去って行った。
「学園には変な人がいるな」
「そうだな」
それからアカネと一緒に武術系の部活動やサークルを見学したが、どこにも圧倒的な程の実力を持った人が何人もいた。アカネは戦いたそうだったが実力者達に試合を頼んだが全員に断られていた。
「何だよ全員腑抜けばっかりかよ」
ふくれっ面になり心の奥底から湧き上がる怒りを抑えきれていない。時間も夕方になり今日の見学は終わりにして戻ろうと駅まで歩いていると第四学園情報収集クラブの部長さんがいた。
「こんばんは和田君、いまお帰りですか?」
「こんばんは部長さん、クラスメイトの部活見学の付き添いの帰りです」
上下をグレーのスーツできめた部長さんが物腰柔らかく話しかけてきた。
「部長?部長って事は強いのか?頼む勝負してくれ」
「突然ですね、何があったんですか?」
突然勝負を申し込んできたアカネにビックリしている部長さんに部活見学での出来事を話すと、部長さんは成る程と頷いた。
「成る程、話は分かりました。試合をしましょうか」
部長さんが笑顔のままアカネの申し出を受けたので、仁也は勿論アカネもまさか受けて貰えるとは思わず目を見開いて驚いた。
「ただ試合の前に書類をいくつかクラブハウスに預けたいので、寄ってからで良いですか?」
「え、あ、どうぞ」
そうして三人で第四学園情報収集クラブのクラブハウスに行くと小森田先輩を初め、昨日会ったメンバーがおり部長とアカネの試合の話を聞くと全員が興味を持ちついて来ることになった。
「おいおい和田青年、昨日は自分の力不足に悩んでいた青年が入学早々に彼女を作るなんて、そんな奴だったのかい君は」
小森田先輩が身長差の関係で太腿の裏側をバシバシと強めに叩いてくる。
「いやクラスメイトですよ」
「ただのクラスメイトが入学早々の男女が互いを名前呼びするかよ、青春で済ませられない手の早さだな」
笑顔だが段々と力が強くなる小森田先輩の話に合わせながら、仁也とアカネと第四学園情報収集クラブの面々はクラブハウス近くの訓練場にやって来た。
「僕の方の準備は整いました」
スーツの上着を脱ぎ、カットシャツの第一ボタンと袖のボタンを外し捲り上げてから余裕のある態度で宣言した。
「部長さん、勝負をしてくれるのは嬉しいけど本当に良いのか?」
アカネはブレザーを脱ぎジャージに着替えてファイティングポーズを取り、その表情は目が輝き鋭い犬歯が剥き出しになるほど口角を上げていた。
「いつでもどうぞ」
「じゃあいくぜ」
言うが早いかアカネは走り出して大きく振りかぶって部長に殴りかかった。
部長は笑顔を絶やさないまま半身を捻り、いつの間にか手に持っていたトンファーでアカネの拳を受け止めた。
「えいっ」
「えっ、なっ」
部長の掛け声とともにアカネの拳を払いのけ、流れのままトンファーでアカネの足を掬い上げた。
アカネは動きが追いつかずその場で転ばされた。
「まだまだぁー」
アカネもやられっぱなしではないのか気合の掛け声とともに起き上がり、態勢を立て直して再び部長さんに向かって走り出した。
「今日判明した異能力を早速試させてもらうぜ[マックスアップ]!!」
アカネが異能力名を叫ぶとアカネの体が紅く輝き包まれた。ただ光るだけではなくスピードが目に見えて早くなり、トンファーの防御を潜り抜けて部長の腹へと拳を叩き込んだ。
「勢いの乗った良い拳です。ただ重みが足りませんね」
叩き込まれたかに見えたアカネの拳は部長の腹の手前で止まっていた。不可視な壁があるかのように僅かな隙間を開けて拳が止まっている。
力押ししようとアカネが歯を食いしばり更に力を込めていくがビクともした様子がうかがえない。
「素晴らしい力ですが、これで終わりです」
部長さんがアカネの額に弱いチョップを入れると、力が抜けるようにアカネはその場にへたり込んだ。
「まいった。完敗だ」
アカネはスッキリした表情で敗北を宣言した。
試合が終わり部員の人達と一緒にアカネと部長のもとに向かうと、アカネがへたり込んだ状態から正座へと姿勢を正して頭を下げた。
「アタシを弟子にしてくれ」
「僕は弟子取りをしていないんで、クラブに入部してくれたのなら後輩として指導しますけれど」
「部員になります」
目の前でアカネが、部長さんの胸ポケットから取り出された入部届けに記入している横で、小森田先輩からお前も早く書きなよと言わんばかりに肘でグリグリされたので、今日のアカネと同行して見学したクラブも今一つだったのでこれも縁だと思い第四学園情報収集クラブへの入部届けを記載した。
「二人の入部届けは確かに受け取ったよ」
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