サイコラビリンス

國灯闇一

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4章 獣の共鳴

4dbs-騒がしい雑踏

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 貝塚と増古は動画投稿者の青年に連絡を取り、正確な撮影時刻を聞いた。時刻は14時36分頃。煙の量も少ないことから、燃やした物は多くないと推察できた。問題は何を燃やしたのか。
 まずは遺体。ただ燃やすには相当な火力が必要になる。遺体を燃やすには火葬する時のように火葬炉かそうろみたいな物でなければ灰にはならない。それに、いくら火葬炉かそうろで燃やしても骨は残る。

 ならば証拠物。証拠隠滅にはクーラーボックスが安易に使われる。しかし、事件に関わる微粒物を完全に消し去ることはできない。丹念に調べれば分かってしまうことだ。
 ただ、現在鑑識を現場に回すことはできない。表沙汰にするにはこの件を事件化する必要がある。事件化するに近いクーラーボックスは、DNA鑑定できるほどの分泌物が残っていない。証拠隠滅に関わった人物の慎重さと警戒心に感服する。

 これがもし計画性のある死体遺棄だとしたら、なぜ中絶しなかったのか。大人なら中絶する。
 お金がなかった? あり得る話だ。

 2人が中絶のことを調べるうちに分かったことだが、まず中絶は保険が適用されない。そうなれば、普通の民間人では1ヶ月の給料分じゃ払いきれない。各自治体でも対策は施されているかもしれないが、それを知っていたかどうかの問題もある。

 そもそも前提として、あの中に入っていたのが赤ちゃんの死体と決まったわけじゃない。動物の死体の可能性もある。
 例えば飼ってはいけないペット。飼っているうちに世話がわずらわしくなり、殺して火葬する。
 しかし、火葬するくらいなら土葬の方が遥かに楽だ。あえて火葬にしたのは、飼育禁止動物の発見を恐れてか……。

 貝塚は喫煙ボックスから異文化的な繁華街の通りを眺めながら、本日8本目の煙草に火を点けようとする。

 喫煙ボックスがノックされる。増古だと認識して煙草をしまい、喫煙ボックスを出る。

「チキンナゲットと串カツ、どっちがいいですか?」

 増古は袋の中を貝塚に見せながら問う。

「どっちも揚げ物かよ」

 貝塚は不満そうに言う。

「安かったんで」

 貝塚は串カツを選び、テイクアウト容器を開けてカツをかじる。

 貝塚と増古は白い石畳の歩道を歩いていく。広々とした歩道は太陽の光が反射して眩しいが、それに反して空気は寒く、道を歩く他の人達もコートやマフラーなど寒さ対策をしている。

「動画ではやはり有力な情報は得られませんでしたね」

「最初から期待してなかったんだ。何もなかったという結果もまた収穫と思うしかないだろ」

 微妙な賑わいを見せる人通りの中、貝塚は腕を組んで歩いている恰幅かっぷくのいいおっさんと若い女性を見つめる。いわゆるパトロンの関係にあるように思った。

 貝塚と増古は覆面パトカーを駐車しているパーキングエリアへ辿りつく。その駐車場では何やらもめ事をしている若い男女がいた。「いつになったら奥さんと別れてくれるの?」とか、「結婚してくれるんじゃないの!?」とかヒステリックな女性の尋問が聞こえてくる。
 貝塚と増古はあまり関わりたくないなと思いながら車に乗る。

 密室になった瞬間、微妙な気まずさから解き放たれる。

「不倫ですかね?」

 増古は野次馬的思考で運転席から男女を見つめる。

「女はああなったら厄介だぞ~」

「経験済みなんですか?」

「なわけないだろ。不倫や浮気の末に女が男を殺しちゃうなんて事件もあるだろ」

 増古は「ああ……」と零し、納得する。

「変なことにならないか少し見守るか?」

 貝塚はめんどくさそうに聞く。

「そうですね。いざとなったら未遂に終わらせましょう」

「なあ、増古」

「何ですか?」

「もしお前が不倫や浮気に手を出したとして、その相手から子供ができたと言われたらどうする?」

「本当に妊娠しているか確かめます」

 増古は即答する。

「本当だったら?」

「相手に産むか、中絶するかの選択権を与えて話し合いで決めます」

「真面目だな~」

 貝塚はスラスラ言う増古に嫌気が差す。
 若い男女は相変わらず騒いでいる。男は女をなだめようとするが、女はすがるような目で問い詰めている。

「お前知ってるか? 中絶に金かかるの」

「知ってますよ」

「知ってんだ」

 貝塚は増古にいやらしい笑みを向ける。

「何ですか?」

 増古は動じない。

「どうやって知った?」

「友人が浮気相手に中絶させて、めちゃくちゃかかったって愚痴零してましたから」

「世も末だな、可哀想に」

 増古は貝塚の顔を見る。貝塚は相変わらず笑っていた。可哀想と言いながら口元は笑っている。
 増古は貝塚がそういう人だと知っていた。他人の不幸を笑い、さげすむ。それが当人達にとって笑える話じゃないとしても、貝塚は笑い、さげすみ、腫れ物達をつつく。それが正しいかどうかの判別はしない。それが貝塚亮と付き合い方。

「普通そうするよな。たとえ親族や会社の同僚にバレたくないからって、箱の中に詰めて、産まれたての遺体を隠すなんて方法は取らない。中絶で金がかかると知って、それを補助できる制度があったとしても、その方法を取らない馬鹿共と言えばどんな奴だと思う?」

「無知な若者?」

「そう」

「対象を絞るんですか?」

「ああ。そうすれば、何か見えてくるかもしれないだろ」

「無知な若者に近い犯人像なら、学生の線を当たった方が良さそうですが、手当たり次第聞き込むつもりですか?」

「そんなめんどくさいことしたくないな。何かない?」

 増古は腕組みをして前を見据える。言い争っていた若い男女は濃厚なキスをしていた。

「援交に手を染めてそうな女子高生達に聞いてみますか?」

「いいな。さっすが」

 貝塚は増古の肩を軽く叩く。

「恐縮です」

「じゃ、本部に戻ってそっちからやってみるか?」

「思わぬ零れ物があるといいですね」

 増古は車のキーを回し、発進させた。コインパーキングを出て、建物がひしめき合う道路から大通りに出る。
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