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8章 盲目の青春
4dbs‐迷宮の秘密
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「11月14日、お前は加留部山の廃墟で冴島達と果樹園のおじさんから買った硫黄末で硫酸を生成し、遺体を処理。硫酸で溶かしきれなかった遺体の残骸を3重にした袋に入れ、そのまま20キロ離れた羽衣浜海水浴場へ向かい、消波ブロックの隙間に隠した。後処理を行い、お前の迷宮は完成した。そして時は過ぎ、俺達警察はお前達の痕跡を見つけた。俺達はお前の痕跡を辿り、お前達に迫ろうとしていた。ところが、思わぬ人間が現れた」
貝塚は立ち上がり、増古の座る席に近づく。机の端に置いていたペットボトルを取ると、マイペースにコーヒーを飲み出す。飲み口から離して、「あ~美味い」と零してまた席に戻る。
「秋澤松男。秋澤は有名大学に通う園林和哉から報酬を貰うために、遺体処理を請け負ったと主張。のちにこいつは偽の犯人だと分かる。しかし、あの男は犯行の詳細を事細かに話した。まるでその場にいたかのように」
貝塚は視線を天井の端に向けて遠い目をする。
「犯人じゃなきゃ知りえないものだ。知っていたのは、おそらく脅した人間。仮にラビリンスアレンジャーとでも呼ぼうか」
「ラビリンスアレンジャー?」
「お前の作製した迷宮を改編した人間。カッコいいだろ?」
「どこが。ダサいですよ」
貝塚は少しいじけるが、姿勢を正して話を続ける。
「秋澤が偽の犯人だと分かった以上、捜査は続く。その結果、お前等は逮捕された。後は簡単だった。冴島と湯藤が乳児の親なら、親子鑑定で証明できる。冴島と湯藤は犯行に関わっているとな。だが、冴島、湯藤と乳児遺体との親子関係は否定された。状況証拠はお前達が犯人だと示しているのに、親子関係が否定された。参ったよ、どうすればこんなことになるのか。お前等はどういう立場で犯行に関わったのか。犯人なのか、犯人じゃないのか。だけど、この事件にはお前達以外に関わっている人物がいた。ラビリンスアレンジャー。……ラビリンスアレンジャーは、秋澤を使って捜査のかく乱を行った。だから思ったんだよ。今回もあいつが関わってるんじゃないかってな」
貝塚は切なそうな顔をして、頭を掻く。
「ラビリンスアレンジャーは科捜研の長谷川妻鹿を誑かし、親子鑑定の改ざんをやらせた。お前達が犯人じゃないと物証が物語るように。お前はそれを悟った。ラビリンスアレンジャーは自分達の味方であるとな。だが、代わりの犯人を用意しなかったのは、ラビリンスアレンジャーの失態だった。その場凌ぎの犯行隠蔽。ずさんにもほどがある。それに乗ったお前もお前だがな」
「どうしても俺を犯人にしたいんですね」
「ふっ、間違いなくお前は関わってるからな。成績優秀、演劇部で脚本を担当しているお前なら、犯罪を隠すことに長けている。お前じゃなきゃあの迷宮は作れない」
「学校の中も徹底的に調べてるんですね」
「それが仕事だからな」
貝塚はポケットから煙草を取り出し、火を点ける。
「ここ全面禁煙ですよね?」
小見川は眉をひそめる。
「よく知ってるね」
「それでも刑事ですか?」
「ああ、中学生に説教されちゃった」
貝塚は肩を竦める。
「ふざけてる暇があったらさっさと話を進めて下さい」
貝塚が吐き出した煙が小見川にかかる。小見川は目を細め、煙を手で払う。
貝塚は立ち上がって、さっき飲んでいたペットボトルのコーヒーの中に煙草を入れた。火が一瞬で消える儚げな音が小さく鳴った。
少しの煙が漂う中、貝塚はゆっくり口を開いた。
「長谷川妻鹿は逮捕され、事件は収束するかと思った。親子鑑定を再度行い、本当の結果が出た」
貝塚は増古が開いていたパソコンの横に置いてあった紙を取り、小見川の前に立って紙を置いた。
「湯藤愛美は99.9%の確率で、乳児の生物学的な母親である。冴島卓真は99.9%の確率で、乳児の生物学的な父親ではない」
「……え?」
貝塚は両手をポケット入れて、空を見つめながら、鼻から息を吸い、胸の奥から込み上げる物を息と一緒に吐き出した。
「これは間違いない結果だ。なぜこんなことが起こったのか……。頭の良いお前なら簡単に分かるだろ?」
小見川はじっと紙を見つめていた。瞳孔が開き、淡々と綴られた文字に目を這わす。
「冴島卓真は、湯藤愛美に騙された」
小見川は反射的に顔を上げた。貝塚は小見川の物欲しそうな表情に応え、言葉を紡ぐ。
「湯藤愛美は分かってたんだ。自分の腹にいる子供が、冴島の子供じゃないことを」
「何言ってんだよ……」
小見川は不意の話にぎこちない笑みが零れ、低くくぐもった声で呟いた。
「湯藤愛美には知られてはならない秘密があった。冴島卓真に知られてはならない真実が……」
小見川は得体の知れない恐怖に身を硬直させる。
「ずっと前から、湯藤愛美はレイプされていた。広い部屋の、誰もいない自室で」
「は?」
「虐待だよ。湯藤怜士、湯藤愛美の父親が、乳児の父親だ」
貝塚は立ち上がり、増古の座る席に近づく。机の端に置いていたペットボトルを取ると、マイペースにコーヒーを飲み出す。飲み口から離して、「あ~美味い」と零してまた席に戻る。
「秋澤松男。秋澤は有名大学に通う園林和哉から報酬を貰うために、遺体処理を請け負ったと主張。のちにこいつは偽の犯人だと分かる。しかし、あの男は犯行の詳細を事細かに話した。まるでその場にいたかのように」
貝塚は視線を天井の端に向けて遠い目をする。
「犯人じゃなきゃ知りえないものだ。知っていたのは、おそらく脅した人間。仮にラビリンスアレンジャーとでも呼ぼうか」
「ラビリンスアレンジャー?」
「お前の作製した迷宮を改編した人間。カッコいいだろ?」
「どこが。ダサいですよ」
貝塚は少しいじけるが、姿勢を正して話を続ける。
「秋澤が偽の犯人だと分かった以上、捜査は続く。その結果、お前等は逮捕された。後は簡単だった。冴島と湯藤が乳児の親なら、親子鑑定で証明できる。冴島と湯藤は犯行に関わっているとな。だが、冴島、湯藤と乳児遺体との親子関係は否定された。状況証拠はお前達が犯人だと示しているのに、親子関係が否定された。参ったよ、どうすればこんなことになるのか。お前等はどういう立場で犯行に関わったのか。犯人なのか、犯人じゃないのか。だけど、この事件にはお前達以外に関わっている人物がいた。ラビリンスアレンジャー。……ラビリンスアレンジャーは、秋澤を使って捜査のかく乱を行った。だから思ったんだよ。今回もあいつが関わってるんじゃないかってな」
貝塚は切なそうな顔をして、頭を掻く。
「ラビリンスアレンジャーは科捜研の長谷川妻鹿を誑かし、親子鑑定の改ざんをやらせた。お前達が犯人じゃないと物証が物語るように。お前はそれを悟った。ラビリンスアレンジャーは自分達の味方であるとな。だが、代わりの犯人を用意しなかったのは、ラビリンスアレンジャーの失態だった。その場凌ぎの犯行隠蔽。ずさんにもほどがある。それに乗ったお前もお前だがな」
「どうしても俺を犯人にしたいんですね」
「ふっ、間違いなくお前は関わってるからな。成績優秀、演劇部で脚本を担当しているお前なら、犯罪を隠すことに長けている。お前じゃなきゃあの迷宮は作れない」
「学校の中も徹底的に調べてるんですね」
「それが仕事だからな」
貝塚はポケットから煙草を取り出し、火を点ける。
「ここ全面禁煙ですよね?」
小見川は眉をひそめる。
「よく知ってるね」
「それでも刑事ですか?」
「ああ、中学生に説教されちゃった」
貝塚は肩を竦める。
「ふざけてる暇があったらさっさと話を進めて下さい」
貝塚が吐き出した煙が小見川にかかる。小見川は目を細め、煙を手で払う。
貝塚は立ち上がって、さっき飲んでいたペットボトルのコーヒーの中に煙草を入れた。火が一瞬で消える儚げな音が小さく鳴った。
少しの煙が漂う中、貝塚はゆっくり口を開いた。
「長谷川妻鹿は逮捕され、事件は収束するかと思った。親子鑑定を再度行い、本当の結果が出た」
貝塚は増古が開いていたパソコンの横に置いてあった紙を取り、小見川の前に立って紙を置いた。
「湯藤愛美は99.9%の確率で、乳児の生物学的な母親である。冴島卓真は99.9%の確率で、乳児の生物学的な父親ではない」
「……え?」
貝塚は両手をポケット入れて、空を見つめながら、鼻から息を吸い、胸の奥から込み上げる物を息と一緒に吐き出した。
「これは間違いない結果だ。なぜこんなことが起こったのか……。頭の良いお前なら簡単に分かるだろ?」
小見川はじっと紙を見つめていた。瞳孔が開き、淡々と綴られた文字に目を這わす。
「冴島卓真は、湯藤愛美に騙された」
小見川は反射的に顔を上げた。貝塚は小見川の物欲しそうな表情に応え、言葉を紡ぐ。
「湯藤愛美は分かってたんだ。自分の腹にいる子供が、冴島の子供じゃないことを」
「何言ってんだよ……」
小見川は不意の話にぎこちない笑みが零れ、低くくぐもった声で呟いた。
「湯藤愛美には知られてはならない秘密があった。冴島卓真に知られてはならない真実が……」
小見川は得体の知れない恐怖に身を硬直させる。
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