踊り雀

國灯闇一

文字の大きさ
11 / 11

♦ 11

しおりを挟む
 後方から鳴った大きな音に一瞥いちべつしたハクは、鷹が落ちていくのを視界に捉えました。いくら鷹と言えど、スピードの出た状態でぶつかれば、狩りは続行できないはずです。
 これで一羽は振り切れるでしょう。あともう一羽、だったのですが、そこでようやく気づきました。後方から追ってくる気配がなかったのです。

 速度を落とし、後ろに視線を向けると、鷹の姿は見る影もありませんでした。いつの間にか、もう一羽も振り切っていたのでしょうか。
 頭をめぐる考えに意識が向いていたハクは、速度を落としました。すると、ハクの体がゾクリと震えました。突然、視界がかすかに暗くなった気がしたのです。前へ視線を戻したハクは、体が震えた正体を目にしました。
 鷹は覆いかぶさろうとするかのように、ハクの目の前で大きく羽を広げていました。ハクは息をみました。もう避けられる距離ではありません。鷹の鋭い爪がハクの頭を掴もうとした時でした。
「ハクー!!」
 もうダメだと思った瞬間、イザラメの声が聞こえました。鷹が顔を横に向けた時、右目に焼けるような痛みが襲いました。
 突っ込むように飛びかかったイザラメの足の爪は、鷹の右目に入ったのです。感じたことのない痛みに動転し、冷静さを失った鷹は脱兎のごとく逃げていきました。

 いろんなことが数秒の間に起こり、ハクは呆然としていました。
「ハク。大丈夫か?」
 イザラメはまだ冷めやらぬ息を荒くしながら問いかけました。
「イザラメ、なんで?」
 イザラメは微笑しました。
「お前のお陰で他の雀に連絡できた。というか、お前が追われてるのを見かけた他の雀が知らせてくれたらしい。それがわかったんで、俺はお前のところへ来たってわけさ」
「じゃあ、ケンゴロウは!?」
 イザラメは興奮するハクを制止する。
「おい、落ち着けよ。ここじゃマズい。ひとまず戻ろうぜ」
 ハクとイザラメは二羽並んで飛んでいきました。二羽は祭りの後のように話しながら帰っていきます。未だにささやかな雨が降っていました。しかし、空は茜の光を浴びて綺麗な景色が広がっていたのです。その光景を目にしながら、二羽は互いの健闘を称え合い、帰路へ向かうのでした。


 ハクとイザラメはみんなと合流し、棲家すみかに戻ってきました。ケンゴロウは、しばらく療養すればまた飛べるようになるそうです。ハクとイザラメは大人雀たちに祝福を受けると同時に、無茶な真似をしたことを怒られました。

 ともあれ、みんな無事に帰ってこられました。夜に浮かぶ明かり。ぼんやりと照らされる街の片隅で、雀たちは鳴いていました。葉が奏で、羽音がささやき、管楽器の音のごとく声が響き合うのです。音頭に合わせ、雀たちは楽しげに踊っていました。
 失うことのない、今日という日があったこと。それは、雀たちにとって奇跡のような日でした。だからこそ、祝うのです。生きているから羽ばたける。生きているから、悲しくなって、苦しくなる。それでも、喜びも楽しみも、この身が知っています。全身で浴びてきたすべてが、生きている証であると、命の輝くところに踊って、喜び合うのです。
 喜び合うみんなの声と踊りを眺めていたハクは、嬉しそうに笑っていました。
「ハク!」
 イザラメはハクの背中を叩きました。
「いったーーーー!! イザラメ、痛いよ~! まだ治ってないんだから」
「あはははははっ! ほげぇーってしてるからいけないんだよ」
 これからも、ハクは生きていけるでしょう。願った居場所が、目の前にあるのですから。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

まぼろしのミッドナイトスクール

木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。

野良犬ぽちの冒険

KAORUwithAI
児童書・童話
――ぼくの名前、まだおぼえてる? ぽちは、むかし だれかに かわいがられていた犬。 だけど、ひっこしの日に うっかり わすれられてしまって、 気がついたら、ひとりぼっちの「のらいぬ」に なっていた。 やさしい人もいれば、こわい人もいる。 あめの日も、さむい夜も、ぽちは がんばって生きていく。 それでも、ぽちは 思っている。 ──また だれかが「ぽち」ってよんでくれる日が、くるんじゃないかって。 すこし さみしくて、すこし あたたかい、 のらいぬ・ぽちの ぼうけんが はじまります。

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

ナナの初めてのお料理

いぬぬっこ
児童書・童話
ナナは七歳の女の子。 ある日、ナナはお母さんが仕事から帰ってくるのを待っていました。 けれど、お母さんが帰ってくる前に、ナナのお腹はペコペコになってしまいました。 もう我慢できそうにありません。 だというのに、冷蔵庫の中には、すぐ食べれるものがありません。 ーーそうだ、お母さんのマネをして、自分で作ろう! ナナは、初めて自分一人で料理をすることを決めたのでした。 これは、ある日のナナのお留守番の様子です。

【総集編】アリとキリギリスパロディ集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。 1分で読める! 各話読切 アリとキリギリスのパロディ集

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

処理中です...