17 / 52
第三話 記憶の選択
2
しおりを挟む
「恭矢~。パン買いに行こうぜ」
バイトばかりで休みなんて一日もなかったゴールデンウィーク明けの昼休みに、同級生の新谷瑛二が声をかけてきた。瑛二とは中学校から一緒につるんできた仲で、快活で裏表のない瑛二のことを恭矢は友人として好ましく思っていた。
「俺、弁当だから」
「俺も弁当だけどさ、今日は伝説のクリームパンの日だって聞いたんだよ」
伝説のクリームパンとは、ここ県立大野高校にて不定期で販売している、一日限定十個の激レアパンだ。恭矢も過去に一度だけ食べたことがあるが、あの美味しさは芸術品とも呼べる深い味わいであった。心も体も満たされる美味しさとボリュームで160円という安価なところも、金のない恭矢の懐に優しかった。
「……まじか。行く! 急ごうぜ!」
全速力で階段を駆け下りて目的地に着いたものの、ぎりぎり間に合わなかった。目の前で最後の一個が売れて行く瞬間を見たとき、恭矢は人生に絶望した。
「残念だったな恭矢。日頃の行いがモノを言ったな」
「瑛二だって買えてねえだろうが」
せっかく購買まで来たのだからと、購入した焼きそばパンを手にしながら二人で廊下を歩いていると「瑛二」と呼ぶ声が聞こえた。恭矢たちが振り向くと、背の高い優男がパンを片手に勝ち誇った顔で立っていた。
「見ろ、クリームパンを手に入れた。この調子でレギュラーの座もいただく」
「うっせ。パンとバスケはなんの関係もねーよ」
笑いながら話している瑛二と優男は仲が良さそうだった。優男の名前は知らないが、瑛二と同じバスケ部だったような覚えがある。
優男と別れ、教室に戻った二人は弁当を広げた。恭矢が青葉に作ってもらった弁当は、炊き込みごはん、ウインナー、卵焼き、それから昨日の残りのきんぴらごぼうと春巻きが詰められていた。和洋中混ぜこぜの詰め合わせだ。
「……さっきのあいつ、山崎っていうんだけどさ。俺とあいつは来月から始まるインハイ予選のレギュラー争いしてんだよね。ポジションが一緒だからここでレギュラーになれないと、三年生が引退してからすげえ不利になる。絶対負けたくねえ」
焼きそばパンを頬張りながら言った瑛二の顔は、どこか楽しそうだった。
「ライバルってやつか。まあでも、仲は良さそうだな」
「そうだな。でも、絶対負けたくないっていうのはマジ。努力は積み重ねが大事だからさ、とにかく一秒でも長くボールに触ろうと思って俺、今すげえ練習してんだ」
「知ってるよ。お前、授業中爆睡だもんな」
瑛二の努力は第三者の恭矢から見てもよく伝わってくるものだった。毎日遅くまで自主練習をしていると聞くし、休み時間も暇があればボールを触っている。瑛二の努力は素直に応援する気持ちになれるものだった。
「ところでさ、面白い心理テストを教えてもらったからやってみようぜ。恭矢、俺の指を見ろ。どの指が一番綺麗にマニキュア塗れていると思う?」
「想像できないんですけど」
「いいから選べ。なんなら小泉を想像してみろ」
瑛二は右手を恭矢の目の前に突き出して選択を迫った。誰にも話していないはずなのに態度で筒抜けなのか、恭矢が由宇に好意を持っていることは、いつの間にか友人たちにバレていたのだった。
「じゃあ……小指?」
恭矢の選択に瑛二は噴き出した。
「なんだよ」
「いやいや。これで何がわかるかって言ったらさ、セックスのときに何を重要視するかなんだってよ。小指はムード重視らしいぜ。お前は乙女だなー」
「もう一回やらせろ」
「心理テストの意味ねえじゃんか」
声を出して笑う瑛二に言いがかりをつけながら、恭矢は青葉作の美味しい弁当をしっかりと完食した。
バイトばかりで休みなんて一日もなかったゴールデンウィーク明けの昼休みに、同級生の新谷瑛二が声をかけてきた。瑛二とは中学校から一緒につるんできた仲で、快活で裏表のない瑛二のことを恭矢は友人として好ましく思っていた。
「俺、弁当だから」
「俺も弁当だけどさ、今日は伝説のクリームパンの日だって聞いたんだよ」
伝説のクリームパンとは、ここ県立大野高校にて不定期で販売している、一日限定十個の激レアパンだ。恭矢も過去に一度だけ食べたことがあるが、あの美味しさは芸術品とも呼べる深い味わいであった。心も体も満たされる美味しさとボリュームで160円という安価なところも、金のない恭矢の懐に優しかった。
「……まじか。行く! 急ごうぜ!」
全速力で階段を駆け下りて目的地に着いたものの、ぎりぎり間に合わなかった。目の前で最後の一個が売れて行く瞬間を見たとき、恭矢は人生に絶望した。
「残念だったな恭矢。日頃の行いがモノを言ったな」
「瑛二だって買えてねえだろうが」
せっかく購買まで来たのだからと、購入した焼きそばパンを手にしながら二人で廊下を歩いていると「瑛二」と呼ぶ声が聞こえた。恭矢たちが振り向くと、背の高い優男がパンを片手に勝ち誇った顔で立っていた。
「見ろ、クリームパンを手に入れた。この調子でレギュラーの座もいただく」
「うっせ。パンとバスケはなんの関係もねーよ」
笑いながら話している瑛二と優男は仲が良さそうだった。優男の名前は知らないが、瑛二と同じバスケ部だったような覚えがある。
優男と別れ、教室に戻った二人は弁当を広げた。恭矢が青葉に作ってもらった弁当は、炊き込みごはん、ウインナー、卵焼き、それから昨日の残りのきんぴらごぼうと春巻きが詰められていた。和洋中混ぜこぜの詰め合わせだ。
「……さっきのあいつ、山崎っていうんだけどさ。俺とあいつは来月から始まるインハイ予選のレギュラー争いしてんだよね。ポジションが一緒だからここでレギュラーになれないと、三年生が引退してからすげえ不利になる。絶対負けたくねえ」
焼きそばパンを頬張りながら言った瑛二の顔は、どこか楽しそうだった。
「ライバルってやつか。まあでも、仲は良さそうだな」
「そうだな。でも、絶対負けたくないっていうのはマジ。努力は積み重ねが大事だからさ、とにかく一秒でも長くボールに触ろうと思って俺、今すげえ練習してんだ」
「知ってるよ。お前、授業中爆睡だもんな」
瑛二の努力は第三者の恭矢から見てもよく伝わってくるものだった。毎日遅くまで自主練習をしていると聞くし、休み時間も暇があればボールを触っている。瑛二の努力は素直に応援する気持ちになれるものだった。
「ところでさ、面白い心理テストを教えてもらったからやってみようぜ。恭矢、俺の指を見ろ。どの指が一番綺麗にマニキュア塗れていると思う?」
「想像できないんですけど」
「いいから選べ。なんなら小泉を想像してみろ」
瑛二は右手を恭矢の目の前に突き出して選択を迫った。誰にも話していないはずなのに態度で筒抜けなのか、恭矢が由宇に好意を持っていることは、いつの間にか友人たちにバレていたのだった。
「じゃあ……小指?」
恭矢の選択に瑛二は噴き出した。
「なんだよ」
「いやいや。これで何がわかるかって言ったらさ、セックスのときに何を重要視するかなんだってよ。小指はムード重視らしいぜ。お前は乙女だなー」
「もう一回やらせろ」
「心理テストの意味ねえじゃんか」
声を出して笑う瑛二に言いがかりをつけながら、恭矢は青葉作の美味しい弁当をしっかりと完食した。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
二十年以上無視してきた夫が、今さら文通を申し込んできました
小豆缶
恋愛
「お願いです。文通から始めてもらえませんか?」
二十年以上会話もなかった夫――この国の王が、ある日突然そう言ってきた。
第一王妃マリアは、公爵家出身の正妃。だが夫はかつて、寵愛する第三王妃の話のみを信じ、彼女を殴ったことがある。その事件が原因で、マリアは男性恐怖症が悪化して、夫と二人きりでは会話すらできなくなっていた。
それから二十年。
第三王妃はとある事故で亡くなり、夫は反省したらしい。だからといって――今さら夫婦関係をやり直したいと言われても遅すぎる。
なのに王は諦めない。毎日の手紙。花を一輪。夜食の差し入れ。
不器用すぎる求愛に振り回されるうち、マリアの中で止まっていた感情が少しずつ動き始める。
これは、冷えきった政略夫婦が「文通」からやり直す恋の話。
※本作は「存在されていないことにされていた管理ギフトの少女王宮で真の家族に出会う」のスピンオフですが、単体で読めます。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる