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そのひとかけらは
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「ごめんなさい!」
オレはそういって、ソウタの遺影が置かれているリビングで、ソウタのお母さんに、ピースがひとつ欠けたままのパズルのパネルを差し出した。
ハルトからの手紙で頼まれたこと、ピースがひとつ見つからなくて不完全なままで渡すことになってしまったことを正直におばさんに話して謝罪した。
ハルトからおばさんへの大切なプレゼントだから、ごまかしてはいけないと思ったからだ。
オレの話を聞き終わると、
おばさんは、にっこりと微笑んで立ち上がり、ネモフィラのパズルを遺影の後に立てかけると、そこに置いてあったハルトのスマホを手に取った。
「あのね…ハルトに言われていたの…もし、ソウタ君がきっちり完成したパズルを持ってきたら、黙ってお礼をいって受け取ってって…」
「え?」
おばさんはパズルの存在を知ってた?
「でも、もし…もし、ひとつだけピースの欠けたものを渡された時には…」
おばさんはスマホの動画を再生すると、オレに手渡した。
「これをみせてくれって…」
画面には病室のベッドの上でサメの縫いぐるみを抱き、手を振って笑っているハルトが映っている。
「ハルト…!」画面の中のハルトを見て胸が詰まった。
ハルトはとても上機嫌に見えた。
音声はついてなかった。いつ撮ったものだろう?
ニコニコと笑いながら、ハルトは右手でなにかつまむと、カメラの前にアップになるように突き出した。
ハルトが指先に持っているそれは…小さな青い…
「え?」
青いネモフィラの花!
ずっと探して見つからなかったあの、ジグソーのピース!?
ハルトはにっこり笑うと、そのピースをサメの口の奥に少しオーバーなしぐさで、ぎゅうぎゅうと押し込んだ。
入れ終わると縫いぐるみを顔の前でおどけたように左右に振ってキスをし、『バイバイ』の仕草で動画は終了した。
えっと…待ってくれ…あの縫いぐるみは…
ハルトがピースを押し込んだあのサメは…?
おばさんに言われて…オレの手でハルトの棺の中に入れて…
ハルトと一緒に燃やされて…
「あっ!」
オレはすべてを理解した。
「ごめんね…ハルトの最後のイタズラだったのね…」
申し訳なさそうにおばさんが謝った。
イタズラだって?違う!
オレはハルトに騙されて…試されたんだ!!
もし、オレがしれっと別物でごまかしてパズルを完成させていたら
この動画で本当のことを知ることは無かった。
本当のことを知る資格があるかどうか、ハルトはオレを試したんだ!
ほとんど怒りに近い悔しさが湧きあがってきた。
試されていたことが悔しい!
何も知らずに一生懸命パズルをやっていたことが悔しい!
最初からなかったピースに焦ったり困ったりしてたことが悔しい!
そしてなによりも、この気持ちをぶつける 相手が
もう、どこにもいないのだということが
悔しくて、悔しくて、悔しくて…たまらなかった!
哀しさよりも寂しさよりも、強い強い強い感情だった。
堰を切ったかのように涙があふれでてきた。
あのひとかけらのピースはハルトだ!
二度と取り返しのつかない
代わりのない
永遠に失われてしまったオレの友だち!
嗚咽が止まらないオレの背を、おばさんの手がそっとなでるのを感じた。
涙の向こうに見えた写真の中のハルトは、
ネモフィラの花畑を背にして、少し得意気に微笑んでいた。
<了>
オレはそういって、ソウタの遺影が置かれているリビングで、ソウタのお母さんに、ピースがひとつ欠けたままのパズルのパネルを差し出した。
ハルトからの手紙で頼まれたこと、ピースがひとつ見つからなくて不完全なままで渡すことになってしまったことを正直におばさんに話して謝罪した。
ハルトからおばさんへの大切なプレゼントだから、ごまかしてはいけないと思ったからだ。
オレの話を聞き終わると、
おばさんは、にっこりと微笑んで立ち上がり、ネモフィラのパズルを遺影の後に立てかけると、そこに置いてあったハルトのスマホを手に取った。
「あのね…ハルトに言われていたの…もし、ソウタ君がきっちり完成したパズルを持ってきたら、黙ってお礼をいって受け取ってって…」
「え?」
おばさんはパズルの存在を知ってた?
「でも、もし…もし、ひとつだけピースの欠けたものを渡された時には…」
おばさんはスマホの動画を再生すると、オレに手渡した。
「これをみせてくれって…」
画面には病室のベッドの上でサメの縫いぐるみを抱き、手を振って笑っているハルトが映っている。
「ハルト…!」画面の中のハルトを見て胸が詰まった。
ハルトはとても上機嫌に見えた。
音声はついてなかった。いつ撮ったものだろう?
ニコニコと笑いながら、ハルトは右手でなにかつまむと、カメラの前にアップになるように突き出した。
ハルトが指先に持っているそれは…小さな青い…
「え?」
青いネモフィラの花!
ずっと探して見つからなかったあの、ジグソーのピース!?
ハルトはにっこり笑うと、そのピースをサメの口の奥に少しオーバーなしぐさで、ぎゅうぎゅうと押し込んだ。
入れ終わると縫いぐるみを顔の前でおどけたように左右に振ってキスをし、『バイバイ』の仕草で動画は終了した。
えっと…待ってくれ…あの縫いぐるみは…
ハルトがピースを押し込んだあのサメは…?
おばさんに言われて…オレの手でハルトの棺の中に入れて…
ハルトと一緒に燃やされて…
「あっ!」
オレはすべてを理解した。
「ごめんね…ハルトの最後のイタズラだったのね…」
申し訳なさそうにおばさんが謝った。
イタズラだって?違う!
オレはハルトに騙されて…試されたんだ!!
もし、オレがしれっと別物でごまかしてパズルを完成させていたら
この動画で本当のことを知ることは無かった。
本当のことを知る資格があるかどうか、ハルトはオレを試したんだ!
ほとんど怒りに近い悔しさが湧きあがってきた。
試されていたことが悔しい!
何も知らずに一生懸命パズルをやっていたことが悔しい!
最初からなかったピースに焦ったり困ったりしてたことが悔しい!
そしてなによりも、この気持ちをぶつける 相手が
もう、どこにもいないのだということが
悔しくて、悔しくて、悔しくて…たまらなかった!
哀しさよりも寂しさよりも、強い強い強い感情だった。
堰を切ったかのように涙があふれでてきた。
あのひとかけらのピースはハルトだ!
二度と取り返しのつかない
代わりのない
永遠に失われてしまったオレの友だち!
嗚咽が止まらないオレの背を、おばさんの手がそっとなでるのを感じた。
涙の向こうに見えた写真の中のハルトは、
ネモフィラの花畑を背にして、少し得意気に微笑んでいた。
<了>
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