そのひとかけらに咲く花は

岡島 三桜

文字の大きさ
3 / 4

アクシデント

しおりを挟む
バラバラに広げたピースから、まず、四辺の角と直線部分のピースを拾いだす。

色が同じなので縦も横も上下左右もわからない。
根気よく、合わせながら少しずつ枠を組んでいく。

姉が部屋をのぞきこんで「手伝おうか?」と声をかけてくれたけど
「オレが頼まれたことだから」と言って断った。

期限を決められていたわけではなかったけれど
なるべく早くおばさんに渡したかったので、毎日まっすぐ帰ってパズルに取り組んでいた。

ネモフィラの花畑は段々仕上がっていく。

あの日、花の前ではしゃいでいたハルトの顔を思い出しながら、ひとつひとつピースをはめて組み上げていった。

「あれ?」

あと少しで完成というところになって、ピースがひとつ足りないことに気が付いた。
ど真ん中の、ちょうど花一輪分のピースが欠けているのだ。

始める前に十分に注意してとりかかったつもりだった。
家族にも完成するまで部屋に入らないでとお願いもした。
いつも一緒に寝たがるネコの健太にも我慢してもらった。

「母さん!オレが学校いってる間、部屋の掃除した?」
「してないわよ?」
「健太は?」
「自分でドア開けられないのに入れるわけないでしょ?」

必死になってベッドの下や机の裏、カーテンの後ろも探したけれど、
出てきたのは、健太が以前、転がして失くしていた消しゴムばかりで、肝心のピースは見つからなかった。

市販のパズルなら、メーカーに請求すれば代わりを送ってもらえるサービスがある。
でも、オリジナルのパズルの場合は?
いや、そもそもハルトがどの業者に頼んだのかもわからないし、「お母さんへのサプライズプレゼント」と言ってたから、おばさんが知ってる可能性も低い。

「ハルト…どうしよう…」

パズルの前で途方に暮れていると母から事情を聞いたらしい姉が部屋に入ってきた。

「ふーん…ちょっと待ってて」

姉はスマホを取り出し、欠けたピースの回りごと写真にとると、慣れた手つきでアプリを操作し始めた。

周辺の画像をコピーして欠けている箇所に貼り付けて、不自然に見えないようになじませる。
ものの5分もかからないうちに、どこが欠けていたのかわからない画像が仕上がっていた。

「すごいよお姉ちゃん!これをプリントして、ピースの形に切った厚紙に貼れば!」
「まあ、紙質とか色とか完全には無理かもしれないけど」
「いや、大丈夫だよ!少しくらいならなんとか…」

『ごまかせる』…そういいかけて、はっとした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...