そのひとかけらに咲く花は

岡島 三桜

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ジグソーパズル

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ハルトのお葬式から一週間ほど経った。

学校から帰って二階の自室に行こうとした時、母によびとめられた。

「今日ね、ハルトくんのお母さんがきたの」

母とおばさんとは、オレとハルトが保育園に通っていた頃からのママ友だ。
ハルトが病気になってからも、おばさんはちょくちょく母のところへ相談にきていた。

オレがハルトの病気が深刻なものであることを早くから感じていたのも
母がポツポツもらす、なんとなくの情報をつなぎ合わせていたからだ。

「でね、コレ。ハルトくんが亡くなる前に、おまえに渡して欲しいって頼まれたって」
と、ガムテープで閉じられた小さな箱を渡された。

「なに?」
「中身はお母さんも知らないみたい」

部屋に入って箱を開けると、中には手紙が一枚と、透明な袋に入った ―

「ジグソー(パズル)?」

手紙はハルトの自筆だった。右肩上がりのクセのある字。

『ソウタへ

 自分が撮った写真でパズルを作った
 完成させて母にサプライズプレゼントしたかったけど
 どうもオレにはもう無理みたいなんで代わりにヨロシク! 』

末尾にお辞儀の絵文字まで描いて明るい口調でしめているけれど
「もう無理みたいなんで」の部分を読んで胸がきゅっとなった。

「しかし、あいつ…ひとっことも相談無くパズルって…」
袋を破いてパズルを広げる。

「うわ…なんだ?」

300ピースはあるだろうソレは、ところどころ模様のようにみえる部分もあるけれど、青、青、青のピースばかりだった。
ひと目みてわかる難易度の高さに、困ったことになったと思いながらピースをより分けていると

「…これ……」

青の正体がわかった!

ネモフィラだ!

中学に入ってすぐのゴールデンウィーク。
オレ達は通学用に買ってもらったギア付きの新しい自転車が嬉しくて、二人で『冒険の旅』(サイクリングとも言う)を計画し、実行した。

行き先はどこでもよかったけど、なんとなく有名な国立公園にした。

早朝に出発し、県道や国道などトラックの往来の多い道も経由して4時間半かかって、ようやく目的地に到着した。

息があがるくらいヘロヘロだったけど、公園の丘いっぱいに広がる青いネモフィラの群生は疲れを吹き飛ばすくらい綺麗だった。
興奮したハルトは中学入学時に母親からもらったという、お下がりのスマホで写真を撮りまくっていたが
「全体撮りたいけど人が多過ぎ!」とキレて、最後には花のところだけ写していた。

(そう…花のところだけのネモフィラ群の……)

疲労の分まで計算にいれてなかったオレ達は、帰路の途中で日が暮れて真っ暗になった時点でギブアップして、親に救助を要請した。
まさか、そんな遠出をしていたとは知らなかった母親たちと、二人の自転車を積み込むために駆り出された軽トラのハルトの祖父ちゃんに散々叱られたけど、オレ達はちっとも反省してなかった。

途中で寄ったファミレスでハンバーグを食べながら
ハルトはいかにネモフィラが見事だったかを写真をみせながら力説していた。

「お母さんも見たかったな」
「いけばいいじゃん」
「今、忙しいのよ!」
「じゃあ来年でもさ」

その後、ハルトは体調を崩し、おばさんはネモフィラどころではなくなっていた。

(…だからハルトはこの写真を選んだのか…)

なんとしても完成させて、おばさんに渡さなければならない。
オレがハルトに託されたのだから。
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