2 / 4
ジグソーパズル
しおりを挟む
ハルトのお葬式から一週間ほど経った。
学校から帰って二階の自室に行こうとした時、母によびとめられた。
「今日ね、ハルトくんのお母さんがきたの」
母とおばさんとは、オレとハルトが保育園に通っていた頃からのママ友だ。
ハルトが病気になってからも、おばさんはちょくちょく母のところへ相談にきていた。
オレがハルトの病気が深刻なものであることを早くから感じていたのも
母がポツポツもらす、なんとなくの情報をつなぎ合わせていたからだ。
「でね、コレ。ハルトくんが亡くなる前に、おまえに渡して欲しいって頼まれたって」
と、ガムテープで閉じられた小さな箱を渡された。
「なに?」
「中身はお母さんも知らないみたい」
部屋に入って箱を開けると、中には手紙が一枚と、透明な袋に入った ―
「ジグソー(パズル)?」
手紙はハルトの自筆だった。右肩上がりのクセのある字。
『ソウタへ
自分が撮った写真でパズルを作った
完成させて母にサプライズプレゼントしたかったけど
どうもオレにはもう無理みたいなんで代わりにヨロシク! 』
末尾にお辞儀の絵文字まで描いて明るい口調でしめているけれど
「もう無理みたいなんで」の部分を読んで胸がきゅっとなった。
「しかし、あいつ…ひとっことも相談無くパズルって…」
袋を破いてパズルを広げる。
「うわ…なんだ?」
300ピースはあるだろうソレは、ところどころ模様のようにみえる部分もあるけれど、青、青、青のピースばかりだった。
ひと目みてわかる難易度の高さに、困ったことになったと思いながらピースをより分けていると
「…これ……」
青の正体がわかった!
ネモフィラだ!
中学に入ってすぐのゴールデンウィーク。
オレ達は通学用に買ってもらったギア付きの新しい自転車が嬉しくて、二人で『冒険の旅』(サイクリングとも言う)を計画し、実行した。
行き先はどこでもよかったけど、なんとなく有名な国立公園にした。
早朝に出発し、県道や国道などトラックの往来の多い道も経由して4時間半かかって、ようやく目的地に到着した。
息があがるくらいヘロヘロだったけど、公園の丘いっぱいに広がる青いネモフィラの群生は疲れを吹き飛ばすくらい綺麗だった。
興奮したハルトは中学入学時に母親からもらったという、お下がりのスマホで写真を撮りまくっていたが
「全体撮りたいけど人が多過ぎ!」とキレて、最後には花のところだけ写していた。
(そう…花のところだけのネモフィラ群の……)
疲労の分まで計算にいれてなかったオレ達は、帰路の途中で日が暮れて真っ暗になった時点でギブアップして、親に救助を要請した。
まさか、そんな遠出をしていたとは知らなかった母親たちと、二人の自転車を積み込むために駆り出された軽トラのハルトの祖父ちゃんに散々叱られたけど、オレ達はちっとも反省してなかった。
途中で寄ったファミレスでハンバーグを食べながら
ハルトはいかにネモフィラが見事だったかを写真をみせながら力説していた。
「お母さんも見たかったな」
「いけばいいじゃん」
「今、忙しいのよ!」
「じゃあ来年でもさ」
その後、ハルトは体調を崩し、おばさんはネモフィラどころではなくなっていた。
(…だからハルトはこの写真を選んだのか…)
なんとしても完成させて、おばさんに渡さなければならない。
オレがハルトに託されたのだから。
学校から帰って二階の自室に行こうとした時、母によびとめられた。
「今日ね、ハルトくんのお母さんがきたの」
母とおばさんとは、オレとハルトが保育園に通っていた頃からのママ友だ。
ハルトが病気になってからも、おばさんはちょくちょく母のところへ相談にきていた。
オレがハルトの病気が深刻なものであることを早くから感じていたのも
母がポツポツもらす、なんとなくの情報をつなぎ合わせていたからだ。
「でね、コレ。ハルトくんが亡くなる前に、おまえに渡して欲しいって頼まれたって」
と、ガムテープで閉じられた小さな箱を渡された。
「なに?」
「中身はお母さんも知らないみたい」
部屋に入って箱を開けると、中には手紙が一枚と、透明な袋に入った ―
「ジグソー(パズル)?」
手紙はハルトの自筆だった。右肩上がりのクセのある字。
『ソウタへ
自分が撮った写真でパズルを作った
完成させて母にサプライズプレゼントしたかったけど
どうもオレにはもう無理みたいなんで代わりにヨロシク! 』
末尾にお辞儀の絵文字まで描いて明るい口調でしめているけれど
「もう無理みたいなんで」の部分を読んで胸がきゅっとなった。
「しかし、あいつ…ひとっことも相談無くパズルって…」
袋を破いてパズルを広げる。
「うわ…なんだ?」
300ピースはあるだろうソレは、ところどころ模様のようにみえる部分もあるけれど、青、青、青のピースばかりだった。
ひと目みてわかる難易度の高さに、困ったことになったと思いながらピースをより分けていると
「…これ……」
青の正体がわかった!
ネモフィラだ!
中学に入ってすぐのゴールデンウィーク。
オレ達は通学用に買ってもらったギア付きの新しい自転車が嬉しくて、二人で『冒険の旅』(サイクリングとも言う)を計画し、実行した。
行き先はどこでもよかったけど、なんとなく有名な国立公園にした。
早朝に出発し、県道や国道などトラックの往来の多い道も経由して4時間半かかって、ようやく目的地に到着した。
息があがるくらいヘロヘロだったけど、公園の丘いっぱいに広がる青いネモフィラの群生は疲れを吹き飛ばすくらい綺麗だった。
興奮したハルトは中学入学時に母親からもらったという、お下がりのスマホで写真を撮りまくっていたが
「全体撮りたいけど人が多過ぎ!」とキレて、最後には花のところだけ写していた。
(そう…花のところだけのネモフィラ群の……)
疲労の分まで計算にいれてなかったオレ達は、帰路の途中で日が暮れて真っ暗になった時点でギブアップして、親に救助を要請した。
まさか、そんな遠出をしていたとは知らなかった母親たちと、二人の自転車を積み込むために駆り出された軽トラのハルトの祖父ちゃんに散々叱られたけど、オレ達はちっとも反省してなかった。
途中で寄ったファミレスでハンバーグを食べながら
ハルトはいかにネモフィラが見事だったかを写真をみせながら力説していた。
「お母さんも見たかったな」
「いけばいいじゃん」
「今、忙しいのよ!」
「じゃあ来年でもさ」
その後、ハルトは体調を崩し、おばさんはネモフィラどころではなくなっていた。
(…だからハルトはこの写真を選んだのか…)
なんとしても完成させて、おばさんに渡さなければならない。
オレがハルトに託されたのだから。
1
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる