日の出が祝福する時

ふつうのひと

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プロローグ

私は力が欠けています

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──もしも、こんな世界で輝くことが出来たなら。誰でもいい。誰かの真っ暗な道を照らす篝火になれたら。


この物語の主人公【淡生 賢たんじょう まさる】は、残り一週間で中学校を卒業する内気な性格の中学三年生である。彼の見た目はと言うと、赤色の瞳に黒色のストレートヘア。少し猫背気味であり、周りより少し高い身長をあまり生かせていない。そんな彼は、赤色の瞳を除けば、誰がどう見ても極平凡な学生にしか見えない。実際、本人も普通すぎる見た目を自覚していた。

中学三年生の卒業式間近。周りは青春を謳歌した中学校生活がもうすぐ終わりを迎えるという事実に、悲しみに暮れていたり残り僅かな中学校生活を精一杯楽しもうと努力していたりする。

 だが彼──賢は他とは違く、一週間後の卒業式を心待ちにしていた。何故なら、賢はいじめられているからだ。
この世界には、"力"と呼ばれる超能力的な特殊スキルが普通の人間には生まれつき備わっている。だが賢には、普通の人間にある力が生まれつき使えなかった。そのせいで、産まれた時は親を含めて賢を哀れむ視線を向けられ、小学校に入れば周りから不思議な人間と認定され、中学校に入る頃には周りからは蔑まれ、避けられていた。そうして今の今まで虐められてきたのだ。それ故に彼はようやくいじめから解放されると期待していたという事だ。

──皆が口を揃えて言う。「出来損ない」と。同じ人間なのに。何も抵抗出来ない事を知っているから、安心していじめるのだ。

 (高校に入ったら友達も作って彼女も作ってそれからそれから──)
そんな浮かれた妄想をしているうちに6限の終わりのチャイムが、教師の声以外何も聞こえない教室に必要以上の音量で鳴り響く。

放課後の掃除を早めに終わらせようと、目立たないようにホウキで教室の床をはく。教室の窓際には、このクラスを仕切る一軍男子達がたむろしており、掃除を始める気配は全くない。賢は、一瞬だけ一軍男子達を睨み、すぐに菓子の袋が落ちている床に視線を戻す。

割と早く掃除が終わり、賢は早々に帰る準備を始める。机の上に置いておいた筆箱が無いことに気付き、引き出しの中を手探りで探る。だが、筆箱は見つかることは無かった。

どうやら、今日の遊びは筆箱を隠す遊びらしい。
遠くから一軍男子達が賢の方をニヤニヤしながら下手な知らない演技を決め込んでいる。もっとも、その知らないフリをする気は微塵も無さそうだが。ヒソヒソと何か喋っており、時折バカみたいにデカい笑い声が聴こえる。

──いつものことだ。"理不尽"は人を差別しない。

賢はさほど気にする様子もなく筆箱をゴミ箱から拾い、中に詰められたホコリを払ってバッグに入れ、カップルや友達と一緒に帰る人々を嫉妬心でチラチラ見ながら一人で帰った。

小学生時代から今までいじめられてきても性格もひねくれず、不登校にもならずに学校に行き続けた自分を賞賛したい。
それもこれも、とある人達のおかげでなんとかこれまでやってこれた。その人達とは......家族だ。賢の家庭は両親、弟、賢の四人家族で構成されている。賢がいじめを受け、部屋で誰にも気付かれないよう泣いていた時も、弟だけは気付いてくれて
『お兄ちゃん、大丈夫だよ。』
背中を優しく擦りながら、そう言ってくれた。

──その言葉が、賢にとってどれだけの救いになっただろうか。

そんなこんなで賢は今の今まで生きていられた訳である。自分のために、弟のために生きてきた。

不意にスマホに着信音が鳴る。賢は少し驚いてから何事だとスマホを開く。

「....なんだよ、人が感傷に浸ってる時に、って母さんかよ!まあ他に連絡先交換してる友達いないけど」
と、自身を自虐をしながら賢が母へ恨み言を綴っているのは、母から
[卵買ってきて~🙏🙇🏻‍♀️]
とメッセージが来たからである。
「俺も高校生になったら友達100人と連絡先交換してやるぜ」
小学生が考える夢のような事を呟き、自分で自分を嘲笑しながらスマホから視線を前に戻すと、

「──おい」
聞き慣れない声が、否、聞き慣れたくない声が賢を呼び止める。
目の前には、同じ高校の生徒、五人組で全員ガタイが無駄にでかい生徒が立っていた。その生徒達の一人は誰が見ても不良と認めるような悪い顔をしながら手を金のマークにしてこっちを見つめている。

つまるところ、いつものカツアゲだ。

はぁ、今月何回目だよ。そう、思った矢先だ。

「ちょっと、君たち」

その声音が、賢の鼓膜に音速で届いた。
その出会いが、賢の視界に色を加えた。

──"理不尽"は人を差別しない。

歳は20代だろうか。若いし、背高いな。174cmの俺より15cmぐらい高い。サングラスをかけた少しチャラそうな雰囲気を醸し出すその男は、
「カツアゲとはよくないなぁ君たち。さっ、帰った帰った」
その男は、いじめっ子達を手で払って帰るよう促す。だが勿論いじめっ子たちは引き下がる訳もなく逆に逆鱗に触れたようだ。リーダーらしき男が合図を送ると、数の暴力で男に襲いかかる。賢は、次の瞬間に怒る惨状を容易に想像出来て、腕で顔を隠そうとする。だが、長身の男が微動だにせず余裕の表情で立っている所に、何故か目を離せなかった。

いじめっ子たちが男に拳を振り上げた瞬間、賢には生物的本能により極度まで眼に集中力が寄っていた。それでも、ほんの一瞬しか男の"力"は見えなかった。男の手から細長い、賢がちょっと力を加えたら切れそうな細長い糸のようなものを出して瞬きをする間よりも早く五人の高校生を地面に叩きつけた。
当然といえば当然なのだが、五人のいじめっ子たちはわけも分からず地面に寝転んでいる。
(あ、口の中に虫が入っていった。)

「大丈夫かい?」
今離れ業を見せつけた男は圧倒的弱者である賢に話しかけてきた。
強者の余裕ってやつか...そう思いながら、
「は、はい。大丈夫です、あ、ありがとうございます」そう返すと、

「いいよ、人として当たり前のことをしただけだから!」とあからさまに嬉しい様子で言ってきた。

(いやこの人絶対感謝言われたくて俺を助けただろ。というか.....)

「力の行使って緊急時以外居住区域ではダメなんじゃ.....」

「君の家、この近く?」
男は、賢の小さ過ぎる呟きが聞こえなかったのかわざと無視しているのか、話を変える。

「まあ、あ、はい。」
賢は、持ち前の固有スキル、コミュ障を発動しながら不審な挙動をしながら会話をする。

「じゃ、丁度いい。どうせ俺も暇なんだ。送ってくよ」

怪しくね...?と賢は思ったが助けてもらった人を疑うと言うのも申し訳ないし、この男のものすごく機嫌のいい顔を見ていると、賢には裏なんて無いように見えたので大人しく長身の男と並んで歩いた。

(...こういうのって車で送るものじゃないのかな?)

「え、あ、あのぉ?さっきの糸?ってなんなんです、か...?」
やはりコミュ障発動。心の中で自分を叩きながら、次は上手くいくように暗示をかける。

「俺は後頭だよ」


(、、、?あぁそういえばそんなのあったな。)

この世界には超能力のような力がある。そんな世界のほとんどの人間はこれを持って生まれるが、稀にこの力を持たないで生まれる人がいる。賢もその内の一人だ。

力は五、六歳で自覚し、十歳になる時点でほぼほぼ力を使えるようになると言われている。
当然ながら、ほとんどの人間は力を持って生まれて来るため、力を持たないで生まれて来る人は極めて少数でいじめを受ける可能性が高い。賢がいじめられている理由も力が使えないから、という曖昧な理由だろう。そんな問題は、なにも学校に限った話ではなく、世間全体で力を持っていない人達は差別されている。

そして、人類はまだこの力についてよく分かっていない。力は遺伝で決まると言うのは分かっているが、派生の仕組みは分かっていない。それどころか、人間が死んだ場合、力はどうなるのか、そもそも人間の進化過程で何故力という機能が装備されたのか。世界中の科学者が集って研究をしているようだが、ここ数年でわかった事は"進化"という過程とその先の事象についてのみだ。

力という超常的な現象もあれば、当然強さのランク付けという物も存在する。この世界には、弱肉強食のような思考が人々を洗脳し、ゲームで言うランクのような設定がある。それも、当然力ありきの設定だ。
ランクは低い順から足先、脚、胸、腕、指先、前頭、後頭となっている。後頭の中には、前頭以下では相手にすらならない強さを持つ者がいるが、その者に関しては特別に"命頭"と呼ばれている。

この世界──いや、この組織では力はどれだけ組織に貢献したかによって、若しくは組織から見た敵を倒せるか、を定義としている。しかし当然人間離れをしていない一般的な力もあるため、他にも力を証明する手段はあるが何よりも実力を証明出来る物は、敵との戦闘である。

──力は進化する。

一般的な人間では進化など縁遠いものだが、選ばれた圧倒的な力の持ち主は力を進化させることが出来る。

──力は更に進化する。

通常は力を進化させた時点で力の進化は止まる。しかし、力を進化させ、次段階へ踏み出した力の持ち主の中には"イレギュラー"がおり、その"イレギュラー"な存在は───


「ッ...ありがとうございました」
つい先程コミュ障を改めようと心に決めたのに、何故か吃音が出てしまい、上手く言葉をいえなかったがちゃんと相手には伝わったようだ。案の定、あの男の人は満足気に帰って行った。

──"理不尽"は人を差別しない。いつも誰かに微笑んでいる。

「ただいまー」
ドアを開け、玄関に入る。いつもなら、廊下の先の部屋の電気は着いていて、今頃、母親が晩御飯の支度をしている真っ最中だ。だが、晩御飯の匂いはせず、調理中の音は一切しない。ただ、少し音が小さい話し声がしているだけだ。ふと、下を見ると淡生一家の靴の他にももう一足、下駄がある。

(今の時代に下駄て.....)

いつも通りの日常。
いつも通りの匂い。
いつも通りの笑えない日々。
そんな日々が幸せだった。

いくら辛くとも、俺には家族がいる。いつも家族のために働いてくれている父、いつも美味しい料理を作ってくれる母、最も守るべき存在の弟。今日も辛いことはあったけど、家族がいるからこそこの生活は成り立っているんだ。絶対に、守るんだ。

そんな詩的な事を考えながら、部屋の扉を話の邪魔をしない様に静かに開ける。

「──おや?噂をすれば...ですね」
目の前には、つり目で何処か不気味な雰囲気を感じさせる藍色の髪を無造作に縛っている、和装姿の男が両親の向かい側のソファの前に立っていた。
手に一本の刀を握り締めて。

「賢!!」
賢が状況が飲み込めずにいると、不意に普段穏やかな性格の母の必死な声がし、手を広げて賢を庇う。

ヒュンッと音がして、床を鮮血が飛び散る。母の後ろで誰かの体が倒れた音がして、綺麗な床に血溜まりが出来る。その血溜まりは、賢の父親の身体からどんどん広がっていっている。

「.....え?」
賢の思考が停止していると、母親が賢から離れ、壁に寄りかかる。すると、壁には血が滲みだし、母の服を伝って床にまで血が流れ出る。何が起きているのか訳も分からず、賢は後ずさりしてしまう。腰を抜かし、大きく尻もちを着く。部屋の奥を見ると、父親の他にもう一人、床に転がっている小さな体があって、

賢の弟が、既に息絶えた状態で床に無惨に転がっていた。

目眩のする頭を指で抑え、何とか落ち着こうとする。だが、落ち着こうとすればする程、呼吸は荒くなり、首筋を冷や汗が伝う。

怯えた表情で見上げると、和装姿の男が血の付着した刀を携え、こちらを静かに見つめていて──


プロローグ:日の出が祝福する時
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