日の出が祝福する時

ふつうのひと

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1章

21話 焦土の戦場、狸奴は月下に煌めく

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──6月2日、時刻は午後21時頃。

広島県から南方約100kmに位置する無人島【貢陽島こうようじま】。面積は約18800k㎡と、かなりの大きさの島である。
この島は、三百年前に日本を襲った"大極厄"に巻き込まれ、二次災害の被害により、三百年経った今も尚、人が住めなくなる程に地形が崩れてしまった。地震や津波はよくある事で、とても人が住めるような島とは思えない。加えて、三百年前から残り続ける直径約30km程の巨大な炎を纏った隕石が島の中央部に位置する。この隕石により、島は半壊、災害も相次いで起こるため、この島は国公認の立ち入り禁止区域とされている。この島は常に高温のため、夜中でも平均気温三十度を超える。ましてや、日の照っている頃に行くのは自殺行為だろう。

そんな無人島に、三つの人影が現れる。
「──っとと、着いた着いた」
炎による熱気が、ジリジリと肌を焼き、月明かりが灯っている真夜中なのに、常に真夏の炎天下のような島に、突如として現れたのは、特別任務として派遣された淡生賢、栢木楓雅、そして任務補佐として、二人をこの島に送り届けた、帽子を深く被った男である。この男とは、賢や栢木は前の任務で既に一度会っている。任務補佐の男は、深深とお辞儀をすると、一瞬にしてその場から姿が消えてしまった。
賢は、制服ではなく実行高専指定の紺色の体操服で来ている。体操服は通気性がよく、何より動きやすいのでこれからの任務も体操服で向かうことになりそうだ。
栢木はと言うと、高専指定の白色のジャージを着ていて、暑いからとジャージの胸元を大きく開けている。ジャーには体操服と同じく特殊なデザインなどは特になく、強いて言うなら右袖に実行高専のバッジが付けられているぐらいだ。

「特別任務....」
ふと、賢が口の中でそう呟く。賢の視界がフェードアウトしていき、場面は矢羽根から任務について説明されている時の回想に入る。

​───────​───────​──────────
『──特別任務?』
実行高専会議室で、賢、栢木、矢羽根の三人が椅子に腰掛けている。栢木と賢は、上層部から召集令を掛けられ、会議室で矢羽根から特別任務について説明を受けているところだ。

『そ、特別任務。まぁ~ゲームで言うレイドボス?緊急クエスト?みたいなもんだよ』
賢は(ゲームで例えられても...)と矢羽根の軽々しい説明に不満を持つが、何も言わずに首を縦に振る。

『それって緊急なんですよね?僕達の実力で足りるんですか?』
栢木が不安げにそう口にする。それに対して矢羽根は顎に手を当てて上を見上げる。

『うーん、実力が足りる足りないじゃなくて、そもそも人員がいないの』
賢と栢木は無言で納得し、それ以上の言及を避ける。特進クラス選抜試験時の事件のせいで、人々は実行高専の危機を感じて退学者が続出し、実行高専の評判もかなり落ちた。それ故に実行高専は人員不足という危機に陥り、特進クラス含め教師など戦力になる者は皆ほぼ無休で任務へ向かっている。

『──8人だ』

『え?』
沈黙の空気の中、しばらく経った後に矢羽根が口を開く。賢はポカーンと口を開け、栢木は何かを察したのか目を見開いてゴクリと溜まった唾を飲み込む。

『調査隊員と地方派遣員、高専戦力を3回、合計で8人送り込んだ事になるけど、その全員が生きて帰ってきてない』

『そ、それって──』
顔が青ざめた賢が矢羽根を指差しながら続きを促す。

『んめっっちゃ強いってこと』
その後の記憶は賢はほとんど覚えていない。そしてあれよあれよと現場に来てしまったわけだ。

(8人を殺した奴相手に学生2人て.....)
賢は実行高専の深刻な人員不足を恨んだ。話を聞く限り、今回の敵は刃物で攻撃を仕掛けてくる。これまで何度か死線をくぐり抜けて来た訳だが、今回はより一層生き残れる気がしない。

​───────​───────​──────────

(いや、こんな所じゃ死ねないな。)
地面を見つめて脳内で家族の姿を思い浮かべ、涙ぐみ、拳を握りしめてあの和装姿の男へ復讐心を募らせる。ふと、頭を上げて奥を見た時だった。

直後、それは来た───

「淡生」

「....いるね」
栢木が、伸びている賢へとそう呼びかける。目線は花とすら認識できない焼け野原となった花畑にある。その花畑に目を凝らすと、月明かりの下に賢達の他に一つ影が現れて──

「1人じゃ、ない.....!」
人影は段々と増えていき、空に浮かぶ三日月の月光が五つのシルエットを照らし出す。
五つの人影は、瞳だけが紫色に輝いて、その他の部位は暗くて見えない。五人共横にユラユラと揺れ、不規則な動きが不気味さを醸し出している。そして何より、この敵からは内界力の漏れが一切無い。矢羽根でも、時折内界力の漏れが生じるのに、この敵からは微妙な漏れすらも感じ取れないのだ。内界力の漏れが一切無いのは、矢羽根と同等、それ以上の実力者か、もしくは誰かしらの力が関連しているかのどちらかだ。
栢木も敵の異様さに感付いたようで、顎に手を当てて敵を凝視する。

(ここは様子を見るのが妥当.....どう来る?)
栢木は、賢にハンドサインでストップの合図を出し、賢の突っ走りを先に止めておく。不意に一人の敵がこちらへ突進して来た。ダラダラと今にも転びそうな走り方で、紫色の瞳で賢達をしっかりと捉えながらこちらへと恐らく全速力で走ってくる。
一人の敵が走り出した瞬間、他の四人の敵も一斉にこちらへと走ってくる。

「ッ!!範囲拡──」

「通常手:低炎!」
栢木が力を発動するよりも速く、咒語を省略した不完全な炎の塊が五つの人影へ襲いかかる。不完全な炎故に、低炎は敵に直撃する前に爆散し、その結果二人の敵が倒れただけだ。

「淡生!無駄に力を使うな!」
栢木が怒声を上げて賢に余計な内界力を使わないように注意をする。敵側が何か奥の手を持っている事も想定すれば、内界力の激しい消耗は避けるべきだ。

賢は右手の平から炎を出し、一瞬だけ手の平から落として宙に浮かせてから力強く握り締める。握りこぶしの指と指の間の隙間から炎が溢れ出る。炎は炎炎と薄暗い島を照らし、光が賢とすぐ側にいる栢木の顔反射する。
炎は段々と火加減が強くなっていき、赤く輝いている炎は拳全体を包み、炎の先端が青く変色している。その青い炎はよく見る透明に近い炎ではなく、不透明な絵に描いたような青白い色だった。

焔渦響拳の強化技、賢の力の進歩の表れだった。

賢は一心不乱にこちらへ向かってくる五人の敵に真正面から走って行き、先行攻撃を仕掛ける。先頭の敵の左肩を掴み、飛び上がって膝蹴りを食らわせる。敵が追撃をする前に炎で包まれている右の拳を敵の頭に力いっぱいにぶつける。敵は太く低い呻き声を出し、後退りをする。賢は右目を閉じ、左手の人差し指で敵の額辺り、先程拳が当たった所を指さす。敵は賢の仕草に見向きもせず右手を振り上げ、賢へ攻撃しようとする。

だが、敵の拳は振り下ろされる事は無く空中で動きが止まっている。一拍置いたあと、敵の頭部は内側から出火したように青い炎に包まれる。その炎は体の隅々へと延焼してゆき、敵の全体に炎が燃え移り、すぐに肌がボロボロと焼け崩れる。青い炎の延焼は、一人の敵の体を焼き付けしてもなお止まらず、隣にいる敵から敵へと炎がみるみるうちに燃え移っていく。

賢が力を発動してから約八秒、既に敵は残り二人まで減っている。賢は内界力の過剰な消費を危惧し、力を解除して青い炎を消し、姿勢を低く構える。

──このまま勝てるのか.....?

(あと2人...栢木からは撤退の合図は無い。本当に何も無いのか?)

敵の不自然な弱さに何とも言えない不安が脳内を過ぎる。

賢は再び焔渦響拳を発動し、拳に炎を纏わせる。省エネとして内界力の出力を少し下げる。
二人の敵は賢を左右から攻める形で攻撃を仕掛けてくるが、右の敵の腹部を賢が蹴り、腕を掴んで腹に力を込めた焔渦響拳で殴り、もう片方の敵は駆け付けた栢木が足払いでよろけさせ、その隙に栢木の力を発動させて硬度が限界まで下がった敵を一撃で屠る。

あっという間に五体の敵を倒してしまった。奥の手などは無く、手応えの無さが違和感を増幅させる。増幅された違和感はやがて一つの解を導き出し──

「敵は、刃物を使って攻撃してくる.....」
賢がそう呟くと、栢木もそれに気付いていたのか静かに首を縦に振る。
事前情報によると、敵は刃物を使って攻撃を仕掛けてくる。先程の五体は誰も刃物を持っていなかった。それどころか、力も一切使わずに一心不乱に殴る蹴るなどの動作をするだけだった。それに、政府連合の戦力が八人もやられる程強いとはとても思えなかった。つまり、

「まだ敵が、いる」
栢木が真っ直ぐを見つめながらそう言う。賢はゴクリと喉を鳴らし、深呼吸をして心を鎮めた。ここからが本番、その戦いの準備に備えて。

突然、その時は訪れた。
「──ッッ!!!」

薄暗い中、月光に照らされながら赤黒い水が舞い散る。

赤黒い水。否、血だ。賢の腹を刃物で切り裂かれ、血が空を舞ったのだ。腹を右斜め上から左斜め下まで綺麗に斬った人物は、賢よりも三十センチほども小さく、月明かりが灯っていてもまだ見えづらい。
賢が腹を切り裂かれた事に気付いた時には、既にその影は奥へ退避していた。

「賢!!大丈夫か!!!」
栢木が周りに警戒しながら賢の安否を問う。

「あ、あぁ。大丈夫、だ.....。」
幸いにも、傷は深くなく、内蔵も損傷していないようだ。ただ、深くなくとも腹を斬られたことには変わりないので、着ていた体操着を脱ぎ、Tシャツ姿になって脱いだ体操着を傷口を塞ぐようにして体に斜めに巻く。
ジワジワと体操着に血が染みていって気持ちが悪いが、今はそんな事に構っている暇は無い。

(小さいとはいえ、気付かない程早く近付けるのか.....?それとも元から側にいた?)
考えを巡らせ、深呼吸をして内界力の調整に全神経を注ぐ。
内界力は汎用性が高く、本人が望めば身体の自然治癒力を上げる事も可能だ。ただ、自然治癒力の向上を使って傷口が塞ぐような芸当は、膨大な量の内界力を傷口の一点に集中させなければいけない為、不可能に近いと言ってもいいだろう。だが、止血や痛み止めとしての役割ぐらいなら内界力の量さえあれば簡単に出来る。

「クソ、腐っても四命将に対抗出来る実力を持っているのだから耐えられるか...」
賢を斬りつけてから一瞬で5m程後ろへ下がった男は、刀に付着した血を振り払い、両手首に着けているバンドのようなものを定位置に付け直す。敵は、賢よりも30cm程も小さく、身長は160cmいかないぐらいか。目に見えない程の速さなので、小さな体型故の速さとは考えにくい。その人物は戦闘に似合わないスーツを着こなし、鬱陶しそうにネクタイを締め直す。

(俺達...俺の事を知っている.....?)
賢は腹に手を当て、内界力放出の応用で怪我の応急処置をしながら最大限の警戒をする。

「──賢、あれって.....」
不意に、栢木が敵の向こう側へ指を指す。賢はその指の示す先を見ると、いくつかの紫色の瞳を持った人影がこちらへと向かってきている。しかも、

「5...8...何人いるんだよ!?」
その影は、見る見るうちに増え続け、気付けば約二十体程にまで増えていた。それどころか、その人影は、先程の五体の敵よりも異様に素早く感じた。加えて──

「──ッッ!!!」

「賢!?何で.....!!」
何者かに賢の後頭部を打ち付けられる。目の前にいる刀を持っている敵では無い。視界が眩む中、賢は後ろを振り返って誰が不意打ちをしたのかを確認する。後ろから賢へ攻撃をしたのは、

賢が確かに倒したはずの、紫色の瞳を宿した二つの影が、賢を襲ったのだ。

影の体にはしっかりと燃え跡があるので、確実に賢と戦った敵だ。だが、気になるのは敵が二体しか復活していない事だ。他の三体は地面に倒れ伏したままピクリとも動かない。

「壊兵に目が行き過ぎ.....わざとなのか?」
栢木が三体の動かない敵へ注目をしていると、目にも見えない速さで両手にバンドを着けている敵が抜刀の姿勢で栢木の目の前まで瞬時に来る。

そのまま、栢木は賢と同じように腹を裂かれると思ったが、すぐ横にいた賢が栢木の腹の前でバツ印の炎を、刀が抜かれるよりも前に瞬時に生成する。刀が炎に触れた瞬間、剣と剣が重なるような音がし、両手にバンドを着けている──【猫八】の刀が弾かれ、賢の炎も消える。

だが、猫八は弾かれた刀を握り直し、今度は賢へ刀を振る。賢は炎の盾を作るも、反応しきれずに腕を斬られる。
猫八は後ろへ飛びずさり、刀を納刀する。スーツのポケットから何か手のひらサイズの物を取り出し、賢へ指で弾いて渡す。

「上からは脅威として知らせておけと言われてるんでね。冥土の土産に聞かせてやる。俺は黒兵の統率をしてる猫八だ。」
賢は受け取った手のひらサイズの物を見ると、それは猫八の名刺だった。写真は付いてなく、階級と役割のみ書いてある簡易的な名刺だった。

「ま、話は終わりだ」
猫八は、冷酷な声音で会話の終わりを告げる。

猫八が腰に携えている鞘に手を置く。賢と栢木は猫八が先程のような目にも見えない速さで迫ってくると予測し、攻撃に耐えられるように構える。二体の敵は依然、賢達の後ろで呆然と眺めている。少なくとも今は攻撃を仕掛けてこないだろう。
猫八は地面を蹴り、普通の速さで走って賢達の方へと向かってくる。それは、賢が余裕を持って追い付ける程の速さで、お世辞でも速いとは言えない。
賢は、自分と栢木の身体の前に、横に炎で一本線を作る。その炎は、まるで雲ひとつ無い青空だと錯覚させる程に綺麗に青く輝き、辺りが明るく照らされる。

猫八の刀が炎に触れた瞬間、鉄と鉄がぶつかり合うような音がし、刀が弾かれる。猫八は驚きに目を少しだけ見開く。

(お、重い...!!!)
最高練度の炎でも、刀に押されそうになったのだ。もう少しでも相手の力が強かったなら、炎は消され、そのまま身体を斬られていたことだろう。

──青く輝く不透明な炎。
それを出せるようになったのは、ほんの少し前で。

​───────​───────​──────────
貢陽島での任務の約二週間前。

◾︎◾︎町での任務にて彗芽達と共同とは言え、エンパイアの腕程の実力を持った敵を倒した事により、その功績を認められ、賢は特別任務への出動輔佐として登録された。
特別任務の出動員は通常は2~3年生のある程度の功績と実力がある生徒から選ばれる。しかし、その出動員が何らかの原因で欠如した場合、予備員として賢のような出動補佐に、特別任務への出動が通告される。

勿論、特別任務への出動には通常の任務よりも更にリスクが伴う。故に、賢は自身の戦闘能力を底上げしようと、特進クラスの生徒達や教師などから訓練を受けることにした。訓練を受ける中で、全員が口を揃えてこう助言した。

『新技の開発をしろ』

新技の開発。それは実力向上への手っ取り早い方法であった。
新しい技を開発するにあたって、賢はまず新技の開発についての聞き込みをする事にした。他人から得られる知識は、自分では得られようがないような知識である事が多い。

『そうだねぇ。急にひゅってイメージが湧いてきて~後は頭の中で具体的な形にするだけだよ』
賢は、初めに矢羽根へ相談をしに行った。期待薄ではあったが、あれでも後頭に相当する実力を持っている。少しでも考えの足しになればと、話を聞いたが、案の定賢は一片も理解が出来なかった。

(やっぱあの人感覚派なんだな)

『技の開発.....か』
賢は、次に鈴鹿兄へ相談しに教務室へ行った。鈴鹿はティータイムの途中だったようで、机にはコーヒーのパックが乗っている。彼の力は、戦闘に積極的に参加出来るような力では無いが、回復役として小回りの効く力でかなり重宝されているようだった。鈴鹿は、じっくりと考え込んだ後に、引き出しから小さめなホワイトボードを取り出し、そこに火の絵とハテナの記号を左右に描く。

『この炎が、淡生の力の.....そうだな、基盤だ。』
火の絵をペンで示し、そう説明する。

『全く新しい技というのは無から生まれてくるのではない。分かるか?』
賢は鈴鹿の言葉に首を縦に振って反応する。鈴鹿は、火の絵からキャップのはめられたペンをハテナの記号へと滑らせる。

『応用技や新技と言った物は基盤から枝分かれのようにして生まれるんだ。つまり──』
鈴鹿は、顔を上げて賢へ発言を促す。

『基盤さえ掴めれば...?』

鈴鹿は、そういう事だ。と賢の発言を肯定し、ティータイムだからと早々に賢を教務室から追い出す。

その後、賢は自身の力の基盤について鈴鹿と共に学習していった。感覚としては前々から掴めてはいたが、それを具体的に理解出来てるかと言われると言葉を濁してしまう。なので、まずは基盤を理解し、そこから様々な応用技を考えようと自分で出来るだけ努力をした。その結果...

『おおおぉぉぉ!!』
特進クラス専用の演習場にて、高専指定のジャージ姿で地面に胡座をかいている賢の手元を、同じくジャージ姿の翔庭と朝日が覗き込み、歓声を上げる。二人が注視している賢の手元には、青く輝く小さい炎が、線のようにして両手を繋げていた。

『出来ましたね!賢君!』
翔庭が手で長い髪を耳にかけながら、賢の顔を覗き込み、新技の開発の進歩を称賛する。賢は青い炎を消さないようにと極度の集中をしているようだ。その証拠に、賢の頬を一筋の汗が伝っている。

『賢にとっての"強い炎"の解釈は炎を青くする事だったんだね』
朝日は顎に手を当てて青い炎をじっと見つめる。

続けて、賢は両手を近づけ、青い炎を圧縮する。両手を放すと、青い炎は両手の手のひらの上に球体となって二つに分裂する。賢が翔庭と朝日に向けて合図を送ると、二人は颯爽と演習場の隅へと移動する。
二人が安全な所へ行ったことを確認し、賢は片方の青い炎の球を地面に放り捨てるように投げる。暫くすると、青い炎の球からピン、と音がした。その直後に小さかった球が瞬時に半径8m程の大きな青い炎の塊へと変化を遂げた。少し遅れて、練習場の隅にいる朝日達ですら驚きで肩が激しく揺れる程の大きな爆発音が聴こえると共に、灰色の煙が辺りを覆い尽くす。

『時間差の爆発...!!あの青い火も見えにくいですし...強力な技になりそうですね!』
翔庭が顔の前で手をパタパタと動かし、煙を払いながら新技の分析をする。

『威力は言わずもがな、ゴホッ、目くらましとしても.....って煙多いな!?』
朝日も同じく賢の新技を冷静に分析しようとするが、いつまで経っても出続ける煙が口に入り、思わず咳き込んだせいで言葉が中断してしまう。

『そ、それより...ゴホッ、賢は....ゴホッゴホッ』
朝日は咳き込みながら、賢を心配する。それに合わせ、翔庭も手で口を塞ぎながら賢を探す。

二人が賢の事を心配していると、賢は咳をしながら小走りで煙の中から脱出をした。その賢の身体には傷一つ無く、強いて言うならジャージが煙によって汚れている程度だった。汚れたジャージを払いながら、賢は二人の元へと向かう。

『威力は抑えたつもりなんだけど...内界力を流し込みすぎちゃうな.....。まあ俺自身と俺のジャージも力の無効対象に出来たから良しとするかな』
賢はそう自分の反省点と上手く出来た点を口にすると、地面にへたり込む。さっきまで異常な量の出ていた煙は、まるで何も無かったかのように全て消えている。

力の無効対象の選択とは、周りの被害を考慮して力を使う上での基本動作であり、力の影響を受けない対象を選択する事により、その対象は直接的な力の影響を一切受けない。煙など、力の副産物は無効には出来ないが、仲間と強力する上で最も重要な動作と言えるだろう。
この動作は、小学校の義務教育の科目の単元の一つとして習う事であり、通常ならば12歳程で習得する。だが、賢は力が発現してまだ二ヶ月程しか経っていない。故に、新技以前に基本中の基本を学ぶところから始める必要があり、その過程として力の無効対象の選択を習得したのだ。

『やっぱり内界力の消費が目立ってますね...見たところ消炎よりも内界力を消費してますよね?』
翔庭は賢の正面でしゃがみ、内界力の大幅な消費という最大の課題を示す。

『威力のせいでもあるんだけどね.....それよりも煙を出し続けるのに内界力を消費しちゃうんだ』
膝に手を置き、賢は翔庭に向かって説明する。

『煙?あれ賢が出てたのか。どうりでいっぱい出るな~と思った』
賢の説明に朝日は納得がいったように頷く。

賢の炎は、良くも悪くも不出来である。実力不足故に細かい操作は出来ないし、威力も極端な調整しか出来ない。だが、実力不足故に力のイメージを確立出来ていない。なので、賢のイメージの中の炎を具現化した結果、酸素を消費せずに燃え続ける炎が力の基盤として成り立っていた。当然、賢のイメージの中には可燃ガスや煙の出来方といったシステムは一切無い。ならば、どのようにして煙を発生させたのか。それは、賢の内界力を放出し続けたからである。力を使った際の内界力の可視化という現象を利用し、自身の膨大な内界力を代償に、力の表面的な姿を煙のように変化させて放出したのだ。

『まあ何はともあれ──』
朝日は賢に笑いかけ、肩に手を置く。

『『新技開発、成功!!』』
『せ、成功!』
賢と朝日が言葉を重ね、それに少し遅れて翔庭も言葉を紡ぐ。

青く輝く炎、誰もが思わず見とれるような淡い光を放つその炎の名は──

​───────​───────​──────────
「【白群狐炎びゃくぐんこえん】」
そう言い放った途端、宙に浮く一本線の青い炎は、無人島を包む程の轟音を出し、賢達諸共巨大な爆発に巻き込む。

内界力の擬似的な煙では無く、巨大な爆発を起こしたことによる土煙が辺りを舞う。猫八は、爆発の風圧により、まるで紙切れのようにして、暗い宙に舞い、ほんの一瞬だけ闇を明るく照らす月と重なり、地面に激突していった。

「栢木」
賢は、白色のジャージについた土煙を軽く払う栢木に呼びかける。そんな栢木には当然、一切の傷が無く、力の無効対象の選択も上手く機能しているようだ。

土煙が段々と晴れ、視界が開ける。土煙の、その先で佇んでいるのは──

「...まだ生きてんのかよ」
栢木は、土煙の向こうを睨み、本来ならば身体がバラバラになっているであろう猫八に恨み言をぶつける。

「──炎...?もしかしなくとも、お前が淡生賢か?」
刀を鞘にしまい、手を挙げて降伏の姿勢をとる。猫八の頬は賢の炎によって焼けており、目を痛々しく閉じている。

「ッ名前を...!」
知ってる、と賢が言おうとした所で、一瞬の隙をつき、後ろから叫び声を上げて紫色の瞳の敵がこちらへ走りよってくる。

「こんな数!」
賢が猫八の方を振り向いた時には、猫八は既に追い付けない程遠くへ逃げており、あれに追いつける自信は賢には無い。更に──

「賢!?まだ来てるぞ!」
賢が栢木の言葉に反応して猫八とは反対方向へ目をやると、遥か彼方、焼け野原と化した花畑から、約15体程も敵が押し寄せてきている。

「クソ!どうすれば...!!」
消炎を打てば、敵を一気に撃滅出来るが、敵を全員倒した後にまた敵が増えたりすれば、きっと賢達は呆気なくやられるだろう。もう一回あの青い炎を出せる程内界力の量も、調整する時間も無い。

「賢!いけるか!?」
栢木が、姿勢を低くして内界力の調整に集中している。それは、栢木の力の発動合図だ。賢は、眉間に皺を寄せ、目をつぶって少しの間の後、

「──あぁ!言っとくけど栢木の事を守る余裕は無いからな!」

栢木は、口元を歪めて微笑み、力を発動する。それに合わせ、賢は焔渦響拳を使って拳に赤い炎を宿す。炎は両手の拳から肘まで包み、その腕で賢は内界力の使い過ぎで口から流れる血を拭う。

多対二の圧倒的不利な状況でも、賢は目の前の敵へとひたすらに走り抜ける。
ここで、敵を殲滅するまで、命を燃やし続ける。
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