山の精シンと私-輪廻をこえる想い-

Aia

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かれはわたしになにもいわない シャスラside

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 ―――彼は、何一つ私には、何も言ってくれない。
  いつも、わたしでない誰かを、わたしの後ろを彼はみている。
 シン、と呼ばれる山の神は何を考えているのか分からない存在だった。
 初めて出会ったときから、彼はわたしと誰かを重ねていて、わたしを見た瞬間に
 彼が息をのんだのがわかる。
 それがなんだか気に食わなくて、わたしはよく彼に無茶を言って困らせた。
 巫女守としては最低かもしれないけれども、わたしを見るようで見ていないのだから
 おあいこさま、だよね。


 しゃべりかけても、反応はないし
 驚かせても無反応だし。…まあ、泥の沼に落ちたのは、作戦だったのよ?
 わたしが、ドジなわけじゃなくて、困らせたのは…そう! 作戦なの! 作戦なのよ。
 
 でも、彼が私以外の誰かを後ろにみてしまう気持ちがわかってしまってた。
 だって、シンさまといると、まるで生き別れた兄弟かのようにしっくりくるんだもの。
 彼が私の姿を誰かにだぶらせてても、でも、いっしょにいたい。彼のそばは、とても居心地がいい。


 だから、思わずこう言ってしまった。


―――「ねえ、シンさま」
「・・・なんだ」
「生まれ変わりって、信じます?」
「さぁな。自分以外の記憶を知らないから、信じるも何も無い。
我はもう、悠久の時を生きているからな」
「ロマンが無いですねぇ・・・私は、信じますよ」――――



 わたしは、なにを言ってるんだろうって思った。
 でも、わたしは一応、カイン・スリュラ様に選ばれた巫女だから。
 直感や神託だって、ある程度わかるのだ。
 生まれ変わりも、もちろん信じていた。
 わたしがした質問は、シンさまの心を動揺させるには丁度良かったみたい。
 

 シンさまとは、なにかの縁を感じている。
 でも、わたしは生まれた時から、わたしもだれかを探していた。
 シンさまに、わたしを見てもらえない、、なんて怒れる立場でもないのに酷い女だよね。
  ―――私の埋まらない心の隙間。
 それは、わたしの、罪であり罰なのだと感じてるの。
 だれかに、あうために、わたしは何度も何度もうまれかわる。
 シンさまは、わたしの運命の人ではないと知ってるけれども、、
 特別で大事な人には、違いないの…。いつの時代も、甘えてごめんねシンさま。



 ******



「シャスラや、お前を国へ差し出さねばならなくなった」
「え…」

 



 ホウスル国から、巫女を差し出せとの勅命がきた。
 ラディオン村は、ホウスル国の支配下に置かれている。
 ここ近年、ホウスル国でも力のある巫女は生まれたという話は聞かない。
 国や村では、神と契ることで新たな巫女が産まれることを推奨していたけれども
 シンは、誰かと契ることはなかった。わたしも、シンと契ることは望んでいなかったし
 彼のそばで、自由に平和に生きてみたかった。
 

 巫女不足が深刻なのだろう。アスラばあちゃんが、わたしとなるべく目をあわせないように
 わたしから目をそむけていた。
 この平凡で、平和な毎日が続くんだって願ってた。でも、わたしは、どうやら何度でも
 この力のせいで、巻き込まれる。こんな能力なんて、なくてもいいのに…ッ…!




「わかったよ、ばあちゃん。いくよ、わたし」
「シャスラ…」


 自分の部屋の扉で、ばあちゃんを見た。
 ばあちゃんは、わたしと目をあわさない。



「ばあちゃん、わたし



ふつうの女の子になりたかったよ」



 普通の女の子だと、シンには会えなかったかもしれない。
 でも、普通の女の子として、シンのそばにいたかった。
 部屋にはいるとき、アスラばあちゃんがどんな顔をしているのかわからなかった。
 わたしも、ばあちゃんの顔を見ることができなかったからね。
 …シンさまに、なんて言えばいいのだろうか。わたしは、あたまを布団からかぶって涙を流した。
 



******





 わたしが、結婚する、と言っても彼は私を残酷にも追い返した。
 仕方のないことだと、お互い知っているからであろう。
 国の勅命をうけなければ、シンまでにも何か被害があるかもしれない。
 紅をさし、美しく豪華な花嫁衣装に身をつつまれ、わたしは腰をおろす。
 

 ピョウルを、シンと見たかったな…。
 ピョウルをみたいと言いながら、だだをこねる。だだをこねるのですらも、しあわせだった。
 いつの時代でも、彼は彼のままらしい。
 わたしが困っていたら、最終的になんでも私の希望をかなえようとする。
 それに、わたしは甘えていた。


「また…来世でお会いしましょう。シンさま」


 なんとなく、ここで彼との繋がりは終わりじゃないとわかっている。
 何度でも、会える。いまのシン、ではなくなるけれども…。
 ――つぅ…と静かに流れる雫が落ちるのを私は、ぬぐいもせず、そのまま流した。
 そのときだった。ガタン、という音がなり、輿がとまり地面へおろされる感覚を感じる。
 おかしい。まだ、目的地につくまで、あと5時間はかかるはずだ。乗って20分くらいしかたっていないはずであるけれども…。



「シャスラや、」
「え‥‥ばあちゃん?」



 扉があき、光がさしこむ。
 目の前にいたのは、わたしの祖母であるアスラが、わたしと同じ花嫁衣裳をみにまとっていた。
 いったいぜんたい、どういったことだろうか。ばあちゃんは、わたしの頬に手をおき、そして愛おしそうに撫でる。そして、目をあわせて力強く私をまっすぐにみつめた。



「シャスラ、そなたは村と、

…シンさまを、守るのだ」


 ばあちゃんは、わたしを柔らかく抱きしめる。
 それは、幼いころ死んだ母に抱かれていたのを思い出すかのようだった。



「そなたは、村に残らねばならぬ。村には、そなたが必要で、
シンさまには、お前が必要なのだよ」
「でも、シンさまは…」
「あの方の心を開いたのは、お前だけ・・・お前が、村にいれば、村は繁栄し、シンさまは救われる」
「どういうことなの、ばあちゃん・・・シンさまのお陰で、村が助かってるんじゃないの」
「確かにそうじゃ・・しかし、あの方は悠久のとき、遥かな時から、お前を待っていたんじゃよ」


 ――――シンさまが、救われる?
 わたし、を? 
 シンさまが、待ってた?



「頼む・・シンさまを、村を、頼むぞ・・・
あの人は、寂しいお方だ。そなたが、支え、慈しみ
シンさまを、救ってやってくれ…」



 ばあちゃんは、わたしの手を持ち、輿から出すと自分が代わりに座る。
 わたしは、地面へおろされるがまま、ばあちゃんをみた。ばあちゃんは、誇らしげに私をみて
 わたしの頭をなでた。わたしの代わりに、花嫁として国へ向かうのだろうけれども、大丈夫なのだろうかと心配が伝わったのだろう。ばあちゃんは、けけけと笑い手を振った。


「ばあちゃんは、未婚で処女で引退したとはいえ、巫女の力もある。
ちょっくら、お国のために、結婚してくるとするよ。
なーに、心配はいらないさ。“巫女を差し出せ”としか勅命がきていないから、どうとでもなるさね


シャスラや、普通の子みたいにシンさまのお傍におりなさい。
いて、しあわせに過ごすんだよ」



 ばあちゃんは、じゃあなと言い去っていく。
 鈴の音と笛の音が、去っていく。わたしは、ばあちゃんの言葉を頭の中で反芻させながら
 シンがいる山をみた。…彼に会いたい。わたしは、夕日を背にして駆け出した。
 花嫁衣装が重たい。でも、その重さすらも、今の私には気にならなかった。


 ――――シンさまを、支えよう。
 時折見せる、悲しい瞳で私を見る彼を。
 彼は、私に何を伝えたいのだろう?
 私の、命ある時まで待とうじゃないか。
 彼の、本当の、気持ちを…心を…―――



 なにも言わなくていい。
 彼が、わたしの傍にいることだけが真実だから。


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