病と恋愛事情

遠藤良二

文字の大きさ
29 / 35

29話 友人夫婦の訪問

しおりを挟む
 翌日になり、自分の置時計を見るといまは午後2時くらい。いまから面会が許される時間帯。誰か来ないかなぁ。すると、ガラガラ声で現れたのは母だった。入院の保証人になってもらった時に会ったとき以来だ。あいかわらず元気そう。
「晃」
「うん?」
「調子は良いんでしょ?」
母の言いかたは決め付けた言いかただ。良くない。
「俺だって一応入院患者だ。調子悪いときもあるよ」
母はなぜ俺の病気を理解できないのだ。気持ちの持ちようだとでも言いたいのか。

 母には汚れものを洗濯して持ってきてもらっていて世話にはなっているから、あまり強い態度ではいられない。来てくれなくなってこまるのは俺だから。

「あと、困ってることはないかい?」
久しぶりに優しい口調だったので俺は悪い気はしなかった。
「ないよ、悪いな、母さん」
母は、はにかんだ笑顔を見せて俺を見た。
「なんだい、やけに素直じゃない」
俺もつい照れくさくなってしまった。
「俺だって、優しい口調で言われたら気分もよくなって素直になるさ」
またもや母は笑った。今日の母はずいぶん機嫌がいい。なにか良いことでもあったのかな。
「なにもないなら、わたし帰るよ」
「ああ、たぶん、あと一週間くらいで退院だと思うからまた汚れものがたまったら連絡するからよろしく」
 
 本当は汚れものを洗濯してもらうのは麻沙美がよかった。でも、母には付き合ってる女がいるとは言っていないから、母に汚れもの取りにくるから袋に入れておきなさいよ、と言われたときは断れなかった。
 退院して仕事の勘を取り戻したら考えていることがあるから、それに向けてがんばろうと思っている。

 今日は午後3時30分から回診がある予定だ。母が帰ったあと、看護師がきて教えてくれた。入院してからも安藤医師が担当だ。俺が初めて診てもらった時からずっと同じだ。安藤医師には感謝している。ここまで良くしてくれたのは彼のお陰だから。
「それと、こづかいはあるの?」
心配そうな表情で俺を見つめている。
「それは大丈夫だ」
「そう。じゃあ、また来るから」
と、手を振りながら病室を出て行った。母には回診があることは言わなかった。でもそれは、単に忘れていただけだけど。

 友人の永井勝ながいまさるにも連絡しよう。暇だし。調子を崩して寝ているかもしれないけれど。
[勝、こんちは! 久しぶり! 俺、入院しちまった。だいぶ元気になったけど。来ないか?]
そのあとに病院名を付け加えて送信した。
約1時間後に返信がきた。
[こんにちは。え、入院したの? 大丈夫? 今から行くわ]
そのあとに、
[良かったら奥さんも連れてくればいいのに]
数分後に、
[もしや! 僕のかみさんを狙ってるな?(笑)]
その文面を読んで笑った。
[それはないよ(笑)]
と、返した。

 勝は奥さんと2人で徒歩かな、LINEのやりとりが終わって来るまでに1時間くらいかかった。悪いことをしたかな。俺も図々しく来い、なんて言ったから。でも、まあいいか。来る気があるから来るのだろうから。

「こんにちは。晃さん」
と、勝。
「どうも、ご無沙汰してます」
と奥さんのかえでさん。
「おお、2人でよく来てくれた。そこにある椅子に座って良いみたいだ」
と俺。
「ありがとうございます」
言って2人は各々にスツールを持ってきて座った。
「どう? 調子は」
勝が喋り出した。
「おかげさまでだいぶ調子は良くなったよ。勝は調子どうだ?」
楓さんは勝を見た。どうしたのだろう。
「実は勝も3週間くらい入院してたんです」
俺はその話を聞いて驚いた。
「あっ! そうなのか。なんで言わないんだよ。遠慮すんなよ」
「でも、僕はくすりを減らすために入院しただけで、具合いが悪くて入院したわけじゃないから」
再び俺はびっくりした。
「勝、そんなにたくさん飲んでるのか」
彼は答えづらそうに、
「……夕食後だけで10錠飲んでました。でも、今は薬も変わって5錠になったよ」
楓さんは、あっと声をあげた。
「これ、飲んでください」
言いながらお茶とオレンジジュースを掛け布団の上に載せた。
「悪いね。サンキュ!」
俺はさっそくオレンジジュースの栓を開けてひと口飲んだ。
「うまいな」
よかった、とひとこと楓さんは言った。
「晃さんはいつから入院してるの?」
「1週間くらい前からだよ」
なるほど、と半ば関心しているように見えた。
「2人は歩いてきたのか?」
「ええ。タクシーは高いので」
徒歩で来たことは予想はついたけれど、やはり本人に直接言われると気の毒になってきた。
「わざわざ悪いな。しかも寒いこの時期に」
何も気にしなくていいのにと、いう表情で、
「晃さんとは長い付き合いだから無下にはできないし」
ハッハッハッーと、俺は高笑いをした。
「まあ、確かに」
「ですよねー」
勝も笑っていた。
「でも、晃さん、割と元気でよかった。もっと沈んでるかと思ったから」
と、楓さんは言った。
「退院のめどはたってるの?」
今度は勝が言った。
「たぶんだけど、あと1週間くらいじゃないかな。医者に……あっ、3時30分から回診があるんだった。まあ、気にせず居ていいよ」
勝と楓さんは目を合わせ、
「回診って医者が回って来るやつ?」
「そうだよ。これから来たらいつ退院できるか訊いてみる」
楓さんは優しい笑顔で、
「その方が良いですね」
と、言った。
俺はうなずいた。今何時かなと、言いながら勝はスマートフォンを胸ポケットから取り出した。
「あ、もう3時半だ! 僕らがいたんじゃ話しずらいこともあるだろうから、楓、帰ろう」
「悪いね、俺の都合ばかりで」
 2人は会釈しながら病室を出て行った。いい奴らだ。有り難い。そう思いながら安藤医師が来るのを待った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...