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第1章 始まり

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「は!?」

 タカシは目を覚まし反射的に上体を起こすと、自分の家のソファーに寝ていたことに気づいた。 
 ひどい頭痛と吐き気に見舞われる。
 気絶してからかなりの時間が経っていることを月の光に教えられ、はっきりしない頭が先程の出来事を夢であったかのように錯覚させる。

「いったい何があったんだ? 本当に夢だったのか?」

 全て夢であればそれでいい。夢から覚めれば全てが元通りになる。

「そんなわけないでしょぅ?」

 そんなタカシの希望も虚しく、先程の気を失う前に聞いた声がその希望を打ち砕く。
 目の前の暗がりから、ゆっくりと窓から差し込む月明かりの前に長い髪をなびかせて、その女は現れた。
 声からも想像できた通りその女は妖艶な大人の魅力を漂わせている。
 見た目もタカシより幾分か年上に見えるが、その艶っぽい唇が容赦なくタカシの鼓動を高鳴らせる。
 だが、服装が奇妙である。タカシの少ない知識の中から似ている服装を上げるならば巫女服が近しいが、それとは色が全く異なり、深紫よりも黒く深い紫を基調とした色合いとなっていた。
 更に目を引くのは月明かりに照らされ白く輝いている美しい両肩から胸元に至るまで露わになった白い肌だ。
 さらに、その胸元には深い谷間が刻まれており、豊満な胸をよりはっきりと主張させる。男なら目線が固定されてしまうことは避けられない。
 タカシはその姿をただただ呆けて眺めることしかできなかった。

「あらぁ? そんなにマジマジと女性を見るものでなくてよぉ?」
「ご、ごめんなさい……」

 思わず謝てしまっう。
 そもそも自分の家に知らない人間がいるということ自体が異常であるのに、さも当たり前のように彼女はそこに佇んでいる。
 なんだかそれが当たり前かのように思えてしまい、ただ彼女の言葉に反射的な返答しかできない。

「うふふっ、あまりにも目を覚まさないものだから、殺してしまったかと思ったわぁ?」

(殺してしまう?)

 タカシは女の言葉を疑う。
 あたかも女がタカシを気絶させたかのような口ぶりである。
 だが、先程から女の姿を見ていると麻痺したように体も口も動かず、それを問いただすこともままならない。
 しかし、女はタカシの目を見つめると、目尻と口元を緩ませて、あたかもタカシの心をみすかしているかのように話しかけてくる。

「あらぁ? 気絶させたのはお前かって聞きたくてしょうがなさそうな顔をしているわねぇ。いいわぁ。その恐怖と不安が入り乱れた顔。たまんないわぁ。」

 そう言う女の顔は、まさに悪女という言葉がそのまま具現化されたようであったが、その悪は美しさにより上書きされて美だけを相手に突きつけてくる。
 女は、そんな暴力的な美で武装した顔を、タカシの耳元までずいっと近づけると。

「あっ、たっ、りっ。私があなたを気絶させてここまで運んできたのっ。」

 タカシの耳元をかする吐息の感触と、その言葉を理解したことによる恐怖の二通りの意味で体が震えた。
 それと同時に、タカシの体の麻痺は解け、とっさに耳元を抑えて顔を伏せる。
 女を見たらまた身体が硬直してしまうかもしれない。

「あら、あら、驚かせてしまったかしらぁ?」

 女はタカシの反応を楽しんでいるかのようにクスクスと笑っている。
 タカシがうずくまっていると、ドアの開く音とともに新たな声が聞こえた。

「お母様! どういうことですの!?」

 その声は女の声とは対照的に、幼さが残るが気品ある声で、声色はちょうど妹ぐらいの歳の子を想像させる。

(お母様?)

  なんだか、話がややこしくなってきそうだ。

「話が違う。なぜそいつを連れて行く?」

 また違う少女の声である。今度は冷たく冷静な声で淡々と母親を糾弾している。

(そいつ?)

 そいつとは、タカシのことなのだろうか。

「わ……私たち……頑張って……準備……してたのに……」

 更にもう1人いるようだ。
 その声は途切れ途切れで自信が感じられずおどおどとした印象を与える。

(準備??)

 つまり、新たに現れた少女3人はタカシを対象として何か準備をしていたが、どうやら、この母親が勝手にタカシを気絶させてここまで連れてきた。ということなのだろうか。

「もうバレちゃったのぉ? あぁもぅ、興が削がれちゃったじゃなぁい。せっかくこのままいいところまで行こうと思ったのにぃ」

 いいところとは一体どこなのか、教えて欲しかった気もするが、先程の空気はどこへやら、急にポップな感じになってしまい、気づけば体も自由に動く。

「お前ら誰なんだ! 人ん家でいったい何やってんだー!」

 やっとの思い出疑問を吐き出すことができた。
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