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27話
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神殿の奥、古文書庫の隠された一室。
重ねられた香草の束と祈祷記録に囲まれ、神官シモンは深く腰を下ろしていた。
「この場所は、教会の“記憶”です。
記録に残せない“赦し”と“見せかけの奇跡”が、すべてここに葬られている」
その言葉に、向かい合ったエヴァリーナは扇子を閉じたまま、無言で耳を傾けていた。
「令嬢。あなたは“赦される者”の視点でこの国を見てきた。
では、“赦す者”がどれほどの虚構を必要とするか、考えたことは?」
シモンの声は柔らかいが、鋭い。
それは信仰者の語りではなく、“演出家”としての告白だった。
「“赦し”とは、聖職者にとっても演技です。
民にとって聖女が涙を流せば、それは“神の奇跡”になる。
だが本当は、涙のタイミング、香の配分、祈りの文句に至るまで──全部、教会が“仕組んで”います」
エヴァリーナの唇が、かすかに持ち上がった。
「……それには、覚えがありますわ。
“演技で救われる人間がいる”と信じている者が、台本のすべてを背負ってしまうのですのね」
「そのとおり。
そして、その役を真面目に演じすぎた者ほど、最後には壊れていく。
……聖女アメリアも、そのひとりです」
エヴァリーナの目が、わずかに動いた。
「彼女は、“本物の清らかさ”を証明するために、
“自分が清らかであるフリ”を何年も続けてきた。
それを“信仰”と呼ぶか、“欺瞞”と呼ぶかは──あなたの自由ですがね」
「……信仰とは、“信じたい”という願いのことですもの。
清らかであってほしいと、誰かが願えば、
その人は清らかで“あることにされる”──まるで、神話のようですわ」
シモンは微笑を浮かべて立ち上がった。
「今、教会も動き始めています。
“赦しの価値”を再定義しなければ、次に崩れるのは“神”の側になるでしょう」
「それはそれは。
まさか、神官さまが“神の終わり”を予見なさるとは」
「神は終わりません。
だが、“信じ方”は、変わるんですよ──“反省する者”ではなく、“それを受け入れた者”の中から」
沈黙。
やがてエヴァリーナは立ち上がり、カーテン越しに差し込む光を一瞥した。
「ならば、その“変わる瞬間”に、わたくしも居合わせて差し上げますわ。
“嘘でつくった赦し”の舞台に──もうひとつ、新しい台詞を加えるために」
シモンは静かに頷いた。
そして二人の“演者”は、それぞれの舞台へと戻ってゆく。
信仰と欺瞞が交錯する時代に、“赦す者”と“赦された者”は、共に新たな物語を描こうとしていた。
重ねられた香草の束と祈祷記録に囲まれ、神官シモンは深く腰を下ろしていた。
「この場所は、教会の“記憶”です。
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「令嬢。あなたは“赦される者”の視点でこの国を見てきた。
では、“赦す者”がどれほどの虚構を必要とするか、考えたことは?」
シモンの声は柔らかいが、鋭い。
それは信仰者の語りではなく、“演出家”としての告白だった。
「“赦し”とは、聖職者にとっても演技です。
民にとって聖女が涙を流せば、それは“神の奇跡”になる。
だが本当は、涙のタイミング、香の配分、祈りの文句に至るまで──全部、教会が“仕組んで”います」
エヴァリーナの唇が、かすかに持ち上がった。
「……それには、覚えがありますわ。
“演技で救われる人間がいる”と信じている者が、台本のすべてを背負ってしまうのですのね」
「そのとおり。
そして、その役を真面目に演じすぎた者ほど、最後には壊れていく。
……聖女アメリアも、そのひとりです」
エヴァリーナの目が、わずかに動いた。
「彼女は、“本物の清らかさ”を証明するために、
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それを“信仰”と呼ぶか、“欺瞞”と呼ぶかは──あなたの自由ですがね」
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清らかであってほしいと、誰かが願えば、
その人は清らかで“あることにされる”──まるで、神話のようですわ」
シモンは微笑を浮かべて立ち上がった。
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「それはそれは。
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だが、“信じ方”は、変わるんですよ──“反省する者”ではなく、“それを受け入れた者”の中から」
沈黙。
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「ならば、その“変わる瞬間”に、わたくしも居合わせて差し上げますわ。
“嘘でつくった赦し”の舞台に──もうひとつ、新しい台詞を加えるために」
シモンは静かに頷いた。
そして二人の“演者”は、それぞれの舞台へと戻ってゆく。
信仰と欺瞞が交錯する時代に、“赦す者”と“赦された者”は、共に新たな物語を描こうとしていた。
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