「反省してます」と言いましたが、あれは嘘ですわ。

小鳥遊つくし

文字の大きさ
27 / 50

27話

しおりを挟む
神殿の奥、古文書庫の隠された一室。  
重ねられた香草の束と祈祷記録に囲まれ、神官シモンは深く腰を下ろしていた。

「この場所は、教会の“記憶”です。  
記録に残せない“赦し”と“見せかけの奇跡”が、すべてここに葬られている」

その言葉に、向かい合ったエヴァリーナは扇子を閉じたまま、無言で耳を傾けていた。

「令嬢。あなたは“赦される者”の視点でこの国を見てきた。  
では、“赦す者”がどれほどの虚構を必要とするか、考えたことは?」

シモンの声は柔らかいが、鋭い。  
それは信仰者の語りではなく、“演出家”としての告白だった。

「“赦し”とは、聖職者にとっても演技です。  
民にとって聖女が涙を流せば、それは“神の奇跡”になる。  
だが本当は、涙のタイミング、香の配分、祈りの文句に至るまで──全部、教会が“仕組んで”います」

エヴァリーナの唇が、かすかに持ち上がった。

「……それには、覚えがありますわ。  
“演技で救われる人間がいる”と信じている者が、台本のすべてを背負ってしまうのですのね」

「そのとおり。  
そして、その役を真面目に演じすぎた者ほど、最後には壊れていく。  
……聖女アメリアも、そのひとりです」

エヴァリーナの目が、わずかに動いた。

「彼女は、“本物の清らかさ”を証明するために、  
“自分が清らかであるフリ”を何年も続けてきた。  
それを“信仰”と呼ぶか、“欺瞞”と呼ぶかは──あなたの自由ですがね」

「……信仰とは、“信じたい”という願いのことですもの。  
清らかであってほしいと、誰かが願えば、  
その人は清らかで“あることにされる”──まるで、神話のようですわ」

シモンは微笑を浮かべて立ち上がった。

「今、教会も動き始めています。  
“赦しの価値”を再定義しなければ、次に崩れるのは“神”の側になるでしょう」

「それはそれは。  
まさか、神官さまが“神の終わり”を予見なさるとは」

「神は終わりません。  
だが、“信じ方”は、変わるんですよ──“反省する者”ではなく、“それを受け入れた者”の中から」

沈黙。

やがてエヴァリーナは立ち上がり、カーテン越しに差し込む光を一瞥した。

「ならば、その“変わる瞬間”に、わたくしも居合わせて差し上げますわ。  
“嘘でつくった赦し”の舞台に──もうひとつ、新しい台詞を加えるために」

シモンは静かに頷いた。

そして二人の“演者”は、それぞれの舞台へと戻ってゆく。  
信仰と欺瞞が交錯する時代に、“赦す者”と“赦された者”は、共に新たな物語を描こうとしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

処刑された悪役令嬢、二周目は「ぼっち」を卒業して最強チームを作ります!

みかぼう。
恋愛
地方を救おうとして『反逆者』に仕立て上げられ、断頭台で散ったエリアナ・ヴァルドレイン。 彼女の失敗は、有能すぎるがゆえに「独りで背負いすぎたこと」だった。 ループから始まった二周目。 彼女はこれまで周囲との間に引いていた「線」を、踏み越えることを決意した。 「お父様、私に『線を引け』と教えた貴方に、処刑台から見た真実をお話しします」 「殿下、私が貴方の『目』となります。王国に張り巡らされた謀略の糸を、共に断ち切りましょう」 淑女の仮面を脱ぎ捨て、父と王太子を「共闘者」へと変貌させる政争の道。 未来知識という『目』を使い、一歩ずつ確実に、破滅への先手を取っていく。 これは、独りで戦い、独りで死んだ令嬢が、信頼と連帯によって王国の未来を塗り替える――緻密かつ大胆なリベンジ政争劇。 「私を神輿にするのなら、覚悟してくださいませ。……その行き先は、貴方の破滅ですわ」 (※カクヨムにも掲載中です。)

傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい

恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。 しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。 そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。

下級兵士は断罪された追放令嬢を護送する。

やすぴこ
恋愛
「ジョセフィーヌ!! 貴様を断罪する!!」  王立学園で行われたプロムナード開催式の場で、公爵令嬢ジョセフィーヌは婚約者から婚約破棄と共に数々の罪を断罪される。  愛していた者からの慈悲無き宣告、親しかった者からの嫌悪、信じていた者からの侮蔑。  弁解の機会も与えられず、その場で悪名高い国外れの修道院送りが決定した。  このお話はそんな事情で王都を追放された悪役令嬢の素性を知らぬまま、修道院まで護送する下級兵士の恋物語である。 この度なろう、アルファ、カクヨムで同時完結しました。 (なろう版だけ諸事情で18話と19話が一本となっておりますが、内容は同じです)

婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています

みゅー
恋愛
アレクサンドラ・デュカス公爵令嬢は舞踏会で、ある男爵令嬢から突然『悪役令嬢』として断罪されてしまう。 そして身に覚えのない罪を着せられ、婚約者である王太子殿下には婚約の破棄を言い渡された。 それでもアレクサンドラは、いつか無実を証明できる日が来ると信じて屈辱に耐えていた。 だが、無情にもそれを証明するまもなく男爵令嬢の手にかかり最悪の最期を迎えることになった。 ところが目覚めると自室のベッドの上におり、断罪されたはずの舞踏会から1週間前に戻っていた。 アレクサンドラにとって断罪される日まではたったの一週間しか残されていない。   こうして、その一週間でアレクサンドラは自身の身の潔白を証明するため奮闘することになるのだが……。 甘めな話になるのは20話以降です。

せっかく双子で恋愛ゲームの主人公に転生したのに兄は男に妹は女にモテすぎる。

風和ふわ
恋愛
「なんでお前(貴女)が俺(私)に告白してくるんだ(のよ)!?」 二卵生の双子である山田蓮と山田桜がドハマりしている主人公性別選択可能な恋愛ゲーム「ときめき☆ファンタスティック」。 双子は通り魔に刺されて死亡後、そんな恋愛ゲームの主人公に転生し、エボルシオン魔法学園に入学する。 双子の兄、蓮は自分の推しである悪役令嬢リリスと結ばれる為、 対して妹、桜は同じく推しである俺様王子レックスと結ばれる為にそれぞれ奮闘した。 ──が。 何故か肝心のリリス断罪イベントでレックスが蓮に、リリスが桜に告白するというややこしい展開になってしまう!? さらには他の攻略対象男性キャラ達までも蓮に愛を囁き、攻略対象女性キャラ達は皆桜に頬を赤らめるという混沌オブ混沌へと双子は引きずり込まれるのだった──。 要約すると、「深く考えては負け」。 *** ※桜sideは百合注意。蓮sideはBL注意。お好きな方だけ読む方もいらっしゃるかもしれないので、タイトルの横にどちらサイドなのかつけることにしました※ BL、GLなど地雷がある人は回れ右でお願いします。 書き溜めとかしていないので、ゆっくり更新します。 小説家になろう、アルファポリス、エブリスタ、カクヨム、pixivで連載中。 表紙はへる様(@shin69_)に描いて頂きました!自作ではないです!

幽霊じゃありません!足だってありますから‼

かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。 断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど ※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ ※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。

【完結】うちの大公妃は肥満専攻です!

ariya
恋愛
ルドヴィカは一度目の人生を虚しく終える時に神に願った。  神様、私を憐れむならどうか次の生は大事な方を守れるだけの知識と力を与えてください。 そして彼女は二度目の人生を現代日本で過ごす。 内科医として充実な人生を送っていたが、不慮の事故によりあえなく命を落とす。 そして目覚めた時は一度目の生の起点となった婚約破棄の場であった。 ------------------------------------ ※突然イメージ画像が挿絵で出ることがあります。 ※ストーリー内に出しているのはなんちゃって医学です。軽く調べて、脚色を加えているので現実と異なります。調べたい方、気になる方は該当学会HPなどで調べることをおすすめします。 ※※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています

偽りの婚約者だった公爵令嬢、婚約破棄されてから本物の溺愛をされるまで

nacat
恋愛
平民出身ながら伯爵家に養子に入ったリリアーナは、王太子の婚約者“代役”として選ばれた。 王家の都合で結ばれたその関係に、彼女は決して本気にならないはずだった。 だが、王太子が本命の公爵令嬢を選んで婚約破棄を告げた瞬間、リリアーナは静かに微笑んだ――。 「お幸せに。でも、“代役”の私を侮ったこと、きっと後悔させてあげますわ」 婚約破棄後、彼女は外交の任務で隣国へ。 そこで出会った冷徹な将軍との出会いが、すべてを変えていく。 “ざまぁ”と“溺愛”がスパイラルのように絡み合う、痛快で甘くて尊い恋愛劇。 ///////

処理中です...