女だからって舐めないで

佐藤なつ

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婚約破棄してやる

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 翌朝。
 私は机にかじりついて、真剣に作戦を練っていた。

「婚約なんて……ぜったいに嫌!だけぢどうしたらいいの?
そうだ!自分から破談に持ち込めばいい!」

 名案だ。
 世間では「婚約を破棄された女は惨め」なんて言うけれど、私は構わない。
 むしろ、サフィール先生の方から「こんな勝ち気な娘はごめんだ」と言わせてやれば、こっちのものだ。

「よし、今日から徹底的に嫌われるわ!」

 鼻息荒く拳を握りしめ、学院へと向かった。



 そしてその日、私は朝からサフィール先生の授業を妨害しまくった。

「そこの貴族の坊やぁ♡ 魔力の流れが逆よん、ほら、もっと腰を落として──」
「そんな指導、信用できません!」
 思いきり手を挙げ、私は言い放つ。
「先生の指導は全部気まぐれじゃないですか!」
ここぞとばかりに指摘してやる。
別に言いがかりじゃ無い。
先生の助言はいつも気まぐれなのは本当の事だ。

 教室がざわつく。
 サフィール先生は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにニッコリ笑った。
「あらぁ、疑り深いお嬢様ねぇ。じゃあ、証明して差し上げるわん♡」

 そう言うと、私の腕をひょいと取って、指先で魔力の流れをなぞる。
「ほらここ、詰まってるのよ。呼吸に合わせて──はい、スゥー、ハァー」
「ちょっ、ちょっと触らないで!」
 顔が熱くなる。嫌なのになぜか息が先生と同じリズムになってしまう……!

 次の瞬間、私の掌から魔力がすっと流れ出し、見事に光球が浮かび上がった。
「……っ!」
 こんなに滑らかに魔力を制御できたのは初めてだ。

 教室中がどよめいた。
「お嬢様が成功した……!」
「サフィール先生、やっぱり本物だ……」

「んふふ♡ どう? 私、気まぐれじゃなくってよ」
 サフィール先生がウィンクしてくる。
 悔しい、でも何も言い返せない……!



 放課後、私は廊下で先生を呼び止めた。

「サフィール先生!」
「あらぁ、お呼び?」
「私は、どうしても先生との婚約を破棄したいんです! だから、だから──」
「んまぁ♡ 直球ねぇ」

 先生はくすくす笑いながら、ひらひらと手を振った。
「でもねぇお嬢様。お父上はもう決めちゃったんでしょ? だったら、私たちが逆らえるかしらぁ?」
「くっ……!」

 歯を食いしばる私を見て、先生は少しだけ目を細めた。
「でもねぇ……安心なさい。私は“あなたを否定する”つもりはないわん」
「……え?」
「女でも、男でも。あなたがあなたである限り──私はそれでいいの。だってぇ、強気なお嬢様ほど、可愛いものはないんだから♡」

 さらりと笑みを浮かべ、サフィール先生は去っていく。
 その背中を見つめながら、私は頬がじんわり熱くなるのを止められなかった。

「な、なにあれ……! 余裕ぶって……!」
 悔しいのに、胸の奥がざわざわする。
 これが婚約者だなんて、冗談じゃない……はずなのに。
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