女だからって舐めないで

佐藤なつ

文字の大きさ
2 / 48

政略結婚なんて冗談じゃない

しおりを挟む

 家に帰れば、いつもの光景が広がっていた。
 食堂の長いテーブルの上座に座っているのは、私の父──伯爵家当主。そしてその隣に、笑顔で談笑しているのは、いとこの男子たちだった。

「領地経営の基礎はな、こうやって数字で見ることが大事なんだ」
「はっ、勉強になります!」

 父が楽しそうに語り、いとこたちは熱心に頷いている。
 ……私は? 下座の端っこに座り、冷めかけたスープをすくっている。
 話しかけられることもなければ、頼られることもない。

 私は一人娘だというのに。
 “女”であるただそれだけで、跡継ぎの権利は最初から剥奪されていた。

「……くだらない」
 小さく呟き、スープを飲み干す。胸の奥がぐらぐらと煮えたぎる。
 学院では男子を打ち負かしてみせた。でも、家に帰れば私は透明人間同然。

 その晩、父に呼び出されたのはちょうど夜も更けた頃だった。
 執務室の扉を開けると、父は机に肘をつき、難しい顔をしている。

「……お呼びですか、父上」
「ああ。座れ」

 促されて腰掛けると、父はしばし言葉を選ぶように沈黙した。
 やがて、重い口調で言い放つ。

「お前に縁談が決まった」
「……縁談?」
「そうだ。相手は──学院の魔術教師、サフィール殿だ」

「はぁあああっ!?」

 思わず椅子から飛び上がった。
 よりによって……よりによって、あのオネエ教師!?

「ふざけてるんですか!? なぜ、私があんな──!」
「うるさい!」
 父の怒号が執務室を揺らす。
「女であるお前には、家を継ぐことはできぬ。ならば政略の駒となるしかないのだ!」

 悔しさで拳を握りしめる。
 女だから、女だから……そればっかり。

「……絶対に嫌です。あんな人と結婚するなんて!」
「決まったことだ。逆らうな」

 そう言い放たれ、私は部屋を飛び出した。
 頭の中はぐちゃぐちゃだ。よりによって、サフィール先生……!
 学院でいつも私をからかって、調子のいいことばかり言って……それなのに、なぜ。

 息を切らして廊下を駆け抜けると、そこでばったりと──本人と出くわした。
まさか、なぜ、こんな時間に我が家に。

「まぁ♡ 奇遇ねぇ、こんな時間に廊下で鉢合わせだなんて」
 ひらりとローブを揺らし、サフィール先生が微笑んだ。
「何しに来たんですか?!!」
「お嬢様、ちょうどお話があって来たところなの」
「……っ!?」
知っている。
先生は知っているんだ。
父と婚姻の話をしたのだろう。
 私は一歩下がり、思わず叫ぶ。
「絶対に結婚なんてしませんから!」

 サフィール先生の長い睫毛がぱちぱちと瞬く。
 そして──

「んまぁ♡ これからが楽しみだわぁ」

 とびきり楽しそうに、唇を吊り上げたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

恋と首輪

山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。 絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。 地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。 冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。 「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」 イケメン財閥御曹司 東雲 蓮 × 「私はあなたが嫌いです。」 訳あり平凡女子 月宮 みゆ 愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。 訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

後宮の死体は語りかける

炭田おと
恋愛
 辺境の小部族である嶺依(りょうい)は、偶然参内したときに、元康帝(げんこうてい)の謎かけを解いたことで、元康帝と、皇子俊煕(しゅんき)から目をかけられるようになる。  その後、後宮の宮殿の壁から、死体が発見されたので、嶺依と俊煕は協力して、女性がなぜ殺されたのか、調査をはじめる。  壁に埋められた女性は、何者なのか。  二人はそれを探るため、妃嬪達の闇に踏み込んでいく。  55話で完結します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

処理中です...