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政略結婚なんて冗談じゃない
しおりを挟む家に帰れば、いつもの光景が広がっていた。
食堂の長いテーブルの上座に座っているのは、私の父──伯爵家当主。そしてその隣に、笑顔で談笑しているのは、いとこの男子たちだった。
「領地経営の基礎はな、こうやって数字で見ることが大事なんだ」
「はっ、勉強になります!」
父が楽しそうに語り、いとこたちは熱心に頷いている。
……私は? 下座の端っこに座り、冷めかけたスープをすくっている。
話しかけられることもなければ、頼られることもない。
私は一人娘だというのに。
“女”であるただそれだけで、跡継ぎの権利は最初から剥奪されていた。
「……くだらない」
小さく呟き、スープを飲み干す。胸の奥がぐらぐらと煮えたぎる。
学院では男子を打ち負かしてみせた。でも、家に帰れば私は透明人間同然。
その晩、父に呼び出されたのはちょうど夜も更けた頃だった。
執務室の扉を開けると、父は机に肘をつき、難しい顔をしている。
「……お呼びですか、父上」
「ああ。座れ」
促されて腰掛けると、父はしばし言葉を選ぶように沈黙した。
やがて、重い口調で言い放つ。
「お前に縁談が決まった」
「……縁談?」
「そうだ。相手は──学院の魔術教師、サフィール殿だ」
「はぁあああっ!?」
思わず椅子から飛び上がった。
よりによって……よりによって、あのオネエ教師!?
「ふざけてるんですか!? なぜ、私があんな──!」
「うるさい!」
父の怒号が執務室を揺らす。
「女であるお前には、家を継ぐことはできぬ。ならば政略の駒となるしかないのだ!」
悔しさで拳を握りしめる。
女だから、女だから……そればっかり。
「……絶対に嫌です。あんな人と結婚するなんて!」
「決まったことだ。逆らうな」
そう言い放たれ、私は部屋を飛び出した。
頭の中はぐちゃぐちゃだ。よりによって、サフィール先生……!
学院でいつも私をからかって、調子のいいことばかり言って……それなのに、なぜ。
息を切らして廊下を駆け抜けると、そこでばったりと──本人と出くわした。
まさか、なぜ、こんな時間に我が家に。
「まぁ♡ 奇遇ねぇ、こんな時間に廊下で鉢合わせだなんて」
ひらりとローブを揺らし、サフィール先生が微笑んだ。
「何しに来たんですか?!!」
「お嬢様、ちょうどお話があって来たところなの」
「……っ!?」
知っている。
先生は知っているんだ。
父と婚姻の話をしたのだろう。
私は一歩下がり、思わず叫ぶ。
「絶対に結婚なんてしませんから!」
サフィール先生の長い睫毛がぱちぱちと瞬く。
そして──
「んまぁ♡ これからが楽しみだわぁ」
とびきり楽しそうに、唇を吊り上げたのだった。
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