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女だからって舐めないで
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ぱきん、と乾いた音が響いた。
私の木剣が、相手の剣を叩き折ったのだ。
「はぁ、はぁ……どう? これでも“女のくせに”って言える?」
肩で息をしながら睨みつけると、相手の男子生徒は顔を真っ赤にして言い返してきた。
「ぐ、偶然だ! 女なんかが俺に勝てるわけ──」
「偶然? あんたが、三回、挑んで、三回とも、負けたのに?」
私は精一杯余裕に見えるように笑って剣を構え直す。
「男女め。」
「伝統ある我が校で男の格好をするとは」
そんな風に言われてもスカートなんて着ていたらこんなに動けやしない。
ざわざわと周りが騒ぎ立つ。ここは貴族学園。次代の領主候補や将軍候補が集う場所だ。
その中で、私はいつも「変わり者」の烙印を押されている。
なにせ、伯爵家の一人娘でありながら男装している。
男装といっても男子制服を着ているだけだけど。
そのことでいちゃもんをつけられることは数知れず。
そんな輩には決闘をふっかけてやって打ち負かしているのだから。
「女のくせに生意気なんだよ!」
相手の男子は歯ぎしりするように言った。
「女だから? ──言っておくけど、私には“女だから”って理由で何もかも奪われたのよ」
胸の奥に熱いものが込み上げる。
家では、いとこの男の子たちが次々と「跡継ぎ候補」として迎え入れられ、伯爵の娘である私よりも優遇されている。
私は一人娘なのに。生まれたときから家を継ぐものと信じて育ったのに。
──けれど、「女」だから。その一言で、すべてを奪われた。
「だから私は証明するの。女でも、男以上に優れているって!」
その時だった。
ぱちぱちと、妙に気の抜ける拍手が聞こえてきた。
「んまぁ~♡ さっすが、我が学院の暴れん坊お嬢様!」
派手な声と共に現れたのは、一人の男……いや、教師。
肩まで伸ばした銀髪をふわりとなびかせ、鮮やかなローブをひらひらさせる。
長い睫毛に、紅を引いたような唇。
そう、この学院で最も異彩を放つ存在──魔術教師サフィールだ。
「また決闘ぉ? 元気ねぇ。そんなにムキになってたら、眉間に皺が寄っちゃうわよん♡」
「……サフィール先生!」
私は思わず声を荒げた。
よりによって、私が一番苦手とする教師に見られてしまった。
サフィールは「オネエ教師」と呼ばれる存在だ。口調も仕草も女のように艶めいているのに、魔術の腕は一流。
男子生徒の間では「気味が悪い」と距離を置かれ、女子生徒からは「話すと意外に楽しい」と人気がある……厄介な人物である。
「ねぇん、もうやめにしたら? これ以上やっても男の子が泣くだけよぉ」
サフィールは折れた剣を持つ男子生徒に目を向け、にこりと笑った。
男子生徒は、顔を赤て顔でそそくさと逃げ出していく。
周囲からくすくすと笑い声が上がった。
「ほらね? あんまり男の子いじめると、婚期が遠のくわよ♡」
「なっ……! い、いじめてなんかない! 正々堂々戦って──」
「はいはい、わかったわかった。ふふっ、可愛い怒り顔ねぇ」
サフィールはわざとらしく目を細め、私の頬をつつこうとした。
思わず私は半歩下がる。
「近寄らないでください!」
「あらぁ? 照れてるの?」
「照れてない!」
そのやり取りを見て、周囲の生徒たちはまた笑い声を漏らす。
私の胸は羞恥と苛立ちでいっぱいだった。
どうしていつも、この人は私の弱点ばかり突いてくるのだろう。
……こんな教師と顔を合わせるなんて、最悪だ。
けれど、私はまだ知らなかった。
その“最悪な教師”こそが、後に私の人生を大きく狂わせる存在になるということを
私の木剣が、相手の剣を叩き折ったのだ。
「はぁ、はぁ……どう? これでも“女のくせに”って言える?」
肩で息をしながら睨みつけると、相手の男子生徒は顔を真っ赤にして言い返してきた。
「ぐ、偶然だ! 女なんかが俺に勝てるわけ──」
「偶然? あんたが、三回、挑んで、三回とも、負けたのに?」
私は精一杯余裕に見えるように笑って剣を構え直す。
「男女め。」
「伝統ある我が校で男の格好をするとは」
そんな風に言われてもスカートなんて着ていたらこんなに動けやしない。
ざわざわと周りが騒ぎ立つ。ここは貴族学園。次代の領主候補や将軍候補が集う場所だ。
その中で、私はいつも「変わり者」の烙印を押されている。
なにせ、伯爵家の一人娘でありながら男装している。
男装といっても男子制服を着ているだけだけど。
そのことでいちゃもんをつけられることは数知れず。
そんな輩には決闘をふっかけてやって打ち負かしているのだから。
「女のくせに生意気なんだよ!」
相手の男子は歯ぎしりするように言った。
「女だから? ──言っておくけど、私には“女だから”って理由で何もかも奪われたのよ」
胸の奥に熱いものが込み上げる。
家では、いとこの男の子たちが次々と「跡継ぎ候補」として迎え入れられ、伯爵の娘である私よりも優遇されている。
私は一人娘なのに。生まれたときから家を継ぐものと信じて育ったのに。
──けれど、「女」だから。その一言で、すべてを奪われた。
「だから私は証明するの。女でも、男以上に優れているって!」
その時だった。
ぱちぱちと、妙に気の抜ける拍手が聞こえてきた。
「んまぁ~♡ さっすが、我が学院の暴れん坊お嬢様!」
派手な声と共に現れたのは、一人の男……いや、教師。
肩まで伸ばした銀髪をふわりとなびかせ、鮮やかなローブをひらひらさせる。
長い睫毛に、紅を引いたような唇。
そう、この学院で最も異彩を放つ存在──魔術教師サフィールだ。
「また決闘ぉ? 元気ねぇ。そんなにムキになってたら、眉間に皺が寄っちゃうわよん♡」
「……サフィール先生!」
私は思わず声を荒げた。
よりによって、私が一番苦手とする教師に見られてしまった。
サフィールは「オネエ教師」と呼ばれる存在だ。口調も仕草も女のように艶めいているのに、魔術の腕は一流。
男子生徒の間では「気味が悪い」と距離を置かれ、女子生徒からは「話すと意外に楽しい」と人気がある……厄介な人物である。
「ねぇん、もうやめにしたら? これ以上やっても男の子が泣くだけよぉ」
サフィールは折れた剣を持つ男子生徒に目を向け、にこりと笑った。
男子生徒は、顔を赤て顔でそそくさと逃げ出していく。
周囲からくすくすと笑い声が上がった。
「ほらね? あんまり男の子いじめると、婚期が遠のくわよ♡」
「なっ……! い、いじめてなんかない! 正々堂々戦って──」
「はいはい、わかったわかった。ふふっ、可愛い怒り顔ねぇ」
サフィールはわざとらしく目を細め、私の頬をつつこうとした。
思わず私は半歩下がる。
「近寄らないでください!」
「あらぁ? 照れてるの?」
「照れてない!」
そのやり取りを見て、周囲の生徒たちはまた笑い声を漏らす。
私の胸は羞恥と苛立ちでいっぱいだった。
どうしていつも、この人は私の弱点ばかり突いてくるのだろう。
……こんな教師と顔を合わせるなんて、最悪だ。
けれど、私はまだ知らなかった。
その“最悪な教師”こそが、後に私の人生を大きく狂わせる存在になるということを
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