女だからって舐めないで

佐藤なつ

文字の大きさ
20 / 48

過去と影

しおりを挟む

 人混みの中で、私は先生の隣を歩きながら、落ち着かない気持ちを抱えていた。

「謹慎解除になって良かったわね……」
 ようやく声を絞り出す。

「んまぁ♡ おかげさまで、ね」
 先生は扇子で口元を隠し、余裕たっぷりに笑っている。

「でも……あの人が動いたから、なんでしょ?」
 気づけば、言葉が棘を帯びていた。



 先生はちらりと私を見て、扇子をぱたりと閉じた。

「昔、少しだけね。助けてあげたの。それでお返しをしてもらったの。それだけ」
「……それだけ?」
「ええ♡ でも、今はもう関係ないわ。わたしには“今のお嬢様”がいるもの」

 冗談みたいに軽い口調。
 なのにその瞳は、冗談ではない熱を秘めているように見えて──胸がどきんと跳ねた。

(……なんで。なんで先生の言葉ひとつで、こんなに揺れるのよ……)


動揺する自分の気持ちを悟られたくなくて、ついつい早足になってしまう。
「あら、どこに行くの?久しぶりの再会なのに。

いつも通りの揶揄う態度にとてもとても苛立ってしまう。
先生が言うほど久しぶりでもない。
それは、あの人のおかげで謹慎期間が短くなったおかげだから。

先生を払いたくて、どんどんどんどん奥に進んでいく。
行くてなんてあるわけがない。
とにかく振り払いたくて、急に方向を変えたりしてどんどん進んでいく。

どれほど進んだろう、学園の端まで来てしまった。
今更戻るのもおかしい。
どうしようかと思いつつも足を進めていると、ふと違和感を感じた。
「……魔力の痕跡?」

 壁際に、微かに残る魔力の残滓。
 昨日の暴走の時に感じた、あの不気味な揺らぎと似ている。

「お嬢様も気づいたのね」
 背後から聞こえたのは先生の声。
 彼はもう、視線を鋭くしていた。

「これは偶然じゃないわ。何者かが学院の中にも仕込んでいた……」



 背筋がぞくりと震える。
 先日の暴走は、やはり誰かの意図的なものだったのだ。

「……先生、私も一緒に調べたい」
 恐怖よりも強い気持ちが口から出る。

 先生は一瞬だけ驚いたように私を見つめ──そして柔らかく笑った。

「頼もしいこと♡ じゃあ、お嬢様。ふたりで踊りに行きましょうか、この陰謀の舞台へ」



 先生が差し出した手を、私はぎゅっと握りしめた。
 胸の奥に芽生える不安と、同時に燃え上がる決意。

(今度こそ……守られるだけじゃなく、私が隣に並んで戦うんだ)

 いつもだったら、からかう言葉で返されたかもしれない。
でも今の先生は黙って私の手を握り返してくれた。
強く、それでいて優しく。

伝わるぬくもり。
先生の優しさ。
どんな言葉よりも雄弁に先生の気持ちを私に伝えてくれるような気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...