女神の導き

佐藤なつ

文字の大きさ
7 / 16

7話:

しおりを挟む
控え室へと運ばれた花嫁は、重いドレスのまま寝台に横たえられた。
父が心配そうに花嫁に付き添っている。

使用人たちは慌ただしく動き回り、医師が呼ばれる。
イレーネは少し離れたところで、じっとその様子を見ていた。

「疲労と過呼吸ですな。少し休ませると良いでしょう。」
呼ばれた医師の言葉に、公爵は安堵の息をついた。
「ならばよい。祝いの夜を穢すまい」

父は1人で、客の応対のために部屋を出た。

残ったのはイレーネと侍女数名だけ。
侍女たちが静かに服を緩め、髪飾りを外していく。
締め付けの跡がくっきりと残る肌が現れた。

イレーネはその光景を見て、ほんの少しだけ胸の奥で何かがきしんだような気がした。

その気持ちにとらわれている時間は無い。


イレーネはそっと椅子を寄せ、エルヴァーナの手を取った。
細く、冷たい手だった。
彼女は微笑んで、その手を包み込む。

「本当に……よく頑張りましたね」
優しい声をかけながら、医師に指示して気つけ薬をかがせて貰う。

「お目覚めになりましたか?
招待客の方が待っていらっしゃいますよ。
こんなときのために少し楽なドレスも用意しておいてよかったわ。」
「もしかして、気を失ったのか。」
よほどショックだったのか、男言葉で返答された。
「そうよ。でも宣誓が終わった直後だったから、あなたは、もう父の妻、私の義理の母よ。」
「そう…。」
俯く姿。
か細い肩のライン。
なんてかわいそうで、なんていとおしいのでしょう。
「さぁ、あなたたちもお召しかえを。」
侍女達に命令して他のドレスに着替えさせる。
それほど締め付けないふんわりしたデザインのドレスだ。
フリルがいっぱいの可愛らしさを感じさせるドレス。
ただし、その分重量がある。
重たいドレスを身につけても優雅に見えるように動かねばならない。
青白い顔のまま、ドレスに合わせてアクセサリーも化粧も変えてヴィナは、お披露目と言う名の戦場に突き出された。

父のところまでは私がエスコートした。

「親子仲のよろしいこと」
「元婚約者同士ですもの気が合うのでしょう。」
そんな言葉を耳にしながら客の応対する場所に立つ。

花嫁に挨拶しようと、皆が列をなす。
たくさんの人がたくさんの言葉をかけてきた。
「おめでとうございます。公爵家もこれで安泰ですな」
「慣れないことで大変でしょうが、公爵のご寵愛がありますから大丈夫でしょう。」

「ご婦人がお困りでしたら、妻に相談すると良いですよ。」
などなど。
爵位の上のものから、順に挨拶をしていく。
ヴィナとクラスが同じだった。高位貴族の息子たちも一言二言言葉をかけて言った。
ヴィナはかすかにまつげをふるわせながら
「今日はご参列ありがとうございます。」
などと挨拶を返していた。

最後のほうに、教授やかつての友人たち--低位貴族達が挨拶をしてきた。
彼らは公爵夫人となったヴィナと繋がりたいのだろう一生懸命会話の糸口を見つけようと話しかけてきた。
それを父が止めて、恨めしそうな眼差しをヴィナに向けて---と言うやりとりが何度も繰り返された。

途中で、花嫁の体調が心配なので、これで失礼すると、父が体質を宣言した。

この後は公爵家での宴が数日間にわたり行われる。

その間、新婚夫婦は蜜月を過ごすのだ。
これからがヴィナにとっての本当の地獄であろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

古書館に眠る手記

猫戸針子
歴史・時代
革命前夜、帝室図書館の地下で、一人の官僚は“禁書”を守ろうとしていた。 十九世紀オーストリア、静寂を破ったのは一冊の古手記。 そこに記されたのは、遠い宮廷と一人の王女の物語。 寓話のように綴られたその記録は、やがて現実の思想へとつながってゆく。 “読む者の想像が物語を完成させる”記録文学。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...