聖女が婚約破棄されて処刑されてしまったら王国は滅びる?

鈴原ベル

文字の大きさ
9 / 33

異世界転移⁉ 生き延びたリリアン

しおりを挟む
(ああ、ここはどこかしら?)

 気を失っていたリリアンは、意識を取り戻した。十字架磔にされて火炙り公開処刑という、悲惨極まりない最期を遂げようとしたところで、神に命を助けられたのだ。そして、新たな地で生きるべく、神の転移魔法で異世界転移の最中だった。

(わたし、一度死んだのかしら)

 転移中に覚醒するのは珍しかった。リリアンとしての身体の実体はなく、意識だけが異空間を浮遊しているような状況だった。

(わたしの人生って、何だったのかなあ?)
 
 短かいながら波乱万丈だった。幼い頃に、変身魔法の素質を見いだされ、将来は聖女として人々を守るべく、マールベラ伯爵家に養女として入った。

 それから、聖女として順調に成長し、シュペール王国の守護神として、魔族と戦って、人々を守り続けた。そして、王太子のアステールと婚約、晴れて王太子と結ばれて処女でなくなれば、聖女としての役目も終わり、王国の王妃としての生涯が始まるはずだったのだ。

 だが、わずか数日でその運命は暗転した。王太子妃の座を狙う侯爵令嬢ジリーナの策謀に嵌められてしまい、魔族と内通する悪役令嬢のレッテルを貼られて、婚約は破棄され、あろうことか死刑の宣告を受けてしまったのだ。

 それもただの死刑ではなく、リリアンを辱めて尊厳を奪い取るべく、半裸で十字架に磔にされ火炙りにされるという残酷極まりないものだった。

 彼女にとって、何よりショックだったのは、乳房を丸出しにした十字架上で感じた、観衆たちの下卑た視線であった。聖女として崇拝されていたはずの自分が、どうしてこんないやらしい視線を浴びるのか?

 だが、こうなった遠因を考えるに、リリアンがすべて人任せの人生を送ってきたことかもしれなかった。伯爵家の養女から聖女、さらに次期王妃、全部既定の路線に乗ってきただけだった。聖女として人のために尽くしてはきたが、自主的に決めるということをしてこなかったのだ。

(もし、次に機会があったら、今度こそ自分のために生きるようにしよう)

 とリリアンは決意したが、その次があるのかどうか? はたしてこの後、どこに行くのか見当もつかない。

(いったい、これからどこに行くのかしら?)

 誰かの身体に憑依して転生するのか? それとも自分の姿のまま転移するのか?

 神様は、そこまでは教えてくれなかった。場合によっては、人間以外のものに転生してしまう場合すらある、と聞いていた。なんだかぞっとしない話だ。

(できたら、今のままで転移するのがいいなあ)
 
 とリリアンは強く願った。彼女は今の自分が気に入っていた。今のリリアン・マールベラのまま、どこか知らない新しい世界でやり直したい、聖女の切なる願いだった。

 そうして時が経ち、ふと気がつくと、急に雰囲気が変わった。異空間から突然現実世界に戻ったのだった。

「やったわ! わたしのままだわ。これからもリリアンとして生きられるんだわ!」

 神様が、リリアンの願いをまたもかなえてくれたのか? 転生して、他の誰かに生まれ変わるのではなく、リリアン・マールベラの姿で異世界転移したのだった。

 格好は、転移直前の姿のままだった。つまり、下着一枚の半裸だったが、とにかくこうして生き延びて、違う世界に転移しただけでも喜ばねばならない。

 リリアンは、パンツの右腰のあたりに違和感を感じたので、目を向けた。すると奪われたはずの魔法スティックがパンツに挟まっているではないか。しかも3本もあった。これがあれば、千人力である。神様がリリアンの最後の願いを聞き届けてくれたのだ。

「ありがとう、神様! しかも、3本ももらえるなんて大サービスね」

 だが、その時部屋の中にあったベッドがゴゾゴソと動き出した。人が寝ていたのだ。

「ちょ、ちょっと! 君、誰なの?」

 男性の声がした。心底から仰天したような男性が現れたのだった。おそらく、この部屋の持ち主なのだろう。だがそこで、リリアンは自分が現在パンツ一枚しか穿いていないことを思い出した。知らない男に見せる姿ではない。

「きゃあっ! いやあんっ、見ないで!」

 聖女は慌てて両腕で胸を隠し、恥じらいの悲鳴を上げた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

伯爵令嬢が婚約破棄され、兄の騎士団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

捨てられた元聖女ですが、なぜか蘇生聖術【リザレクション】が使えます ~婚約破棄のち追放のち力を奪われ『愚醜王』に嫁がされましたが幸せです~

鏑木カヅキ
恋愛
 十年ものあいだ人々を癒し続けていた聖女シリカは、ある日、婚約者のユリアン第一王子から婚約破棄を告げられる。さらには信頼していた枢機卿バルトルトに裏切られ、伯爵令嬢ドーリスに聖女の力と王子との婚約さえ奪われてしまう。  元聖女となったシリカは、バルトルトたちの謀略により、貧困国ロンダリアの『愚醜王ヴィルヘルム』のもとへと強制的に嫁ぐことになってしまう。無知蒙昧で不遜、それだけでなく容姿も醜いと噂の王である。  そんな不幸な境遇でありながらも彼女は前向きだった。 「陛下と国家に尽くします!」  シリカの行動により国民も国も、そして王ヴィルヘルムでさえも変わっていく。  そしてある事件を機に、シリカは奪われたはずの聖女の力に再び目覚める。失われたはずの蘇生聖術『リザレクション』を使ったことで、国情は一変。ロンダリアでは新たな聖女体制が敷かれ、国家再興の兆しを見せていた。  一方、聖女ドーリスの力がシリカに遠く及ばないことが判明する中、シリカの噂を聞きつけた枢機卿バルトルトは、シリカに帰還を要請してくる。しかし、すでに何もかもが手遅れだった。

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

処理中です...