執愛の誓い

皇 英利

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一章 愛のない結婚

(一)

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好きになった人は夫の弟だった──





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今日この日、ローレライ伯爵令嬢とグランジェ子爵の結婚式が行われるとあって、当事者二人の家族や友人、知人が多く集まった。

本来なら二人の式はもっと早くに行われる予定であった。しかし、一年前に前グランジェ子爵夫妻が唐突に馬車の事故で亡くなったため、喪が明けるまで延期になったのだ。

待ちに待った結婚式はつつがなく行われ、教会の祝福の鐘が鳴り響いた。

快晴とは言えないが、雲の切れ間からは美しい青空が見えている。

フィアンは凪いだ湖のように澄んだ翠の瞳を、わずかに細めた。

荘厳な鐘の音を聞いていると、この結婚は間違っていないのだと思うことができた。

猫の毛みたいに柔らかく長い金髪を美しく結い上げ、純白の花嫁衣装を身に纏ったフィアンは、同じく正装に身を包んだ金髪碧眼の美青年──夫となったナイジェルとともに、教会の出入り口に立った。

外へと続く階段の下では、今日のために集まってくれた人々が二人を祝ってくれている。

隣に立つナイジェルに視線を向けると、彼は笑顔で皆に手を振っていた。

フィアンも彼にならい、さも幸せそうに微笑む。そうすれば、二人はどこからどう見ても幸福な夫婦に見えるだろう。

たとえこの結婚が、恋愛感情の欠片もない政略結婚だったとしても。

式が始まる前は穏やかだった風が、湿り気を帯び強さを増して、花嫁のヴェールを舞い上がらせていく。

周りを見渡していたフィアンはふと強い視線を感じ、そちらへと目を向けた。

集まった人だかりとは少し離れたところ、そこには目立つ赤髪の青年が一人ぽつんと立っていた。

(アベル……?)

離れていてもフィアンにはわかる。

大きな琥珀色の瞳、まだあどけなさの残る生真面目そうな顔つき、凛と伸ばした背筋。大人びた濃紺の上着を身に纏っているが、あれはナイジェルの弟であるアベルだ。

珍しい赤い髪のせいもあるが、昔から、それこそ彼がまだ幼い少年だった頃から知っているのだ。見間違えるはずがない。

(どうしてあんなに離れたところに一人でいるのかしら……。まさか、体調が悪いとか?)

思いつめたようにじっとこちらへ視線を注いでいるアベルをフィアンは心配する。

このときのフィアンにはアベルが遠くから見つめる理由も、その険しく張り詰めた表情の意味も、わかるはずがなかった。
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