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二章 奪われた純潔
(四)
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──最愛の女性の晴れ姿を見たのは、兄の結婚式でだった。
アベルは幼い頃から兄と比べられて育った。
見目麗しく勉学も武術もでき、多少の性格のわがままさを差し引いても皆に愛される優秀な兄。それに比べて身体が弱く、まともに武術の稽古に参加することすらできなかったアベル。とくに人を惹きつけるものを何も持たないアベルは真面目さだけが取り柄だったが、そこを褒めてくれる人は周りに一人もいなかった。
『どうしてお前は男のくせにそんなに弱いんだ!』
父のそんな怒鳴り声をいったい何度聞いただろう。記憶にこびりついて、幼い頃は悪夢にまで見た。
健康体そのものである兄とは反対に病弱だったせいで、父にはあまり気に入られなかった。
母は赤毛は美しくないと思っている貴族的な思想の持ち主で、ただ美しいものが大好きな女性だった。だから金髪碧眼で人を惹きつける美貌を持つ兄ばかり可愛がった。
基本アベルは子供時代のほとんどを自室で一人寂しく過ごし、いつも兄に対する劣等感や親への反発心を募らせていた。
ずっと惨めで悔しくて、なぜ自分は産まれてきたのかと運命を呪ったこともある。
そんなときだった。兄の婚約者となったフィアンが現れたのは。
実の母親にすら蔑む目で見られていたアベルの赤い髪を、彼女は綺麗だと言って慈しむように撫でてくれた。
アベルが風邪で一人寝込んでいると聞けば、風邪が移るかもしれないのにわざわざ看病をしに部屋まで来てくれた。
誰かに頭を撫でられたのも、大切なもののように扱われたのも、アベルにとっては生まれて初めてのことだった。
フィアンの温かい心は冷え切ったアベルの魂を癒やし、アベルは彼女に出会えた運命に感謝した。
フィアンがアベルのことを気にかけてくれるのは、将来の義弟だからだ。それは重々承知していたが、フィアンへの憧れが初恋に変わるまで、そう時間はかからなかった。アベルにとってフィアンは尊敬すべき女性であり、そんな彼女を一人の男として愛することは自然な流れである。
護られるばかりではなく、この人を護れるくらい強くなりたい。可愛い義弟ではなく、彼女にとっての頼れる格好いい男になりたい。そう思った。だからアベルは身体が弱かったにもかかわらず、騎士を志望した。
いつか彼女が自分に振り向いてくれたらどうにかして兄から奪い、彼女の家族ごと護ろうと思っていた。そのために必死で体力をつけ、病弱を克服し努力を続けた。
貴女のことを愛していると暗にほのめかすような言葉を口にしたりもした。
──けれど結局、フィアンがアベルを家族として以上に見てくれることは叶わず、彼女は兄の妻となってしまった。
アベルは幼い頃から兄と比べられて育った。
見目麗しく勉学も武術もでき、多少の性格のわがままさを差し引いても皆に愛される優秀な兄。それに比べて身体が弱く、まともに武術の稽古に参加することすらできなかったアベル。とくに人を惹きつけるものを何も持たないアベルは真面目さだけが取り柄だったが、そこを褒めてくれる人は周りに一人もいなかった。
『どうしてお前は男のくせにそんなに弱いんだ!』
父のそんな怒鳴り声をいったい何度聞いただろう。記憶にこびりついて、幼い頃は悪夢にまで見た。
健康体そのものである兄とは反対に病弱だったせいで、父にはあまり気に入られなかった。
母は赤毛は美しくないと思っている貴族的な思想の持ち主で、ただ美しいものが大好きな女性だった。だから金髪碧眼で人を惹きつける美貌を持つ兄ばかり可愛がった。
基本アベルは子供時代のほとんどを自室で一人寂しく過ごし、いつも兄に対する劣等感や親への反発心を募らせていた。
ずっと惨めで悔しくて、なぜ自分は産まれてきたのかと運命を呪ったこともある。
そんなときだった。兄の婚約者となったフィアンが現れたのは。
実の母親にすら蔑む目で見られていたアベルの赤い髪を、彼女は綺麗だと言って慈しむように撫でてくれた。
アベルが風邪で一人寝込んでいると聞けば、風邪が移るかもしれないのにわざわざ看病をしに部屋まで来てくれた。
誰かに頭を撫でられたのも、大切なもののように扱われたのも、アベルにとっては生まれて初めてのことだった。
フィアンの温かい心は冷え切ったアベルの魂を癒やし、アベルは彼女に出会えた運命に感謝した。
フィアンがアベルのことを気にかけてくれるのは、将来の義弟だからだ。それは重々承知していたが、フィアンへの憧れが初恋に変わるまで、そう時間はかからなかった。アベルにとってフィアンは尊敬すべき女性であり、そんな彼女を一人の男として愛することは自然な流れである。
護られるばかりではなく、この人を護れるくらい強くなりたい。可愛い義弟ではなく、彼女にとっての頼れる格好いい男になりたい。そう思った。だからアベルは身体が弱かったにもかかわらず、騎士を志望した。
いつか彼女が自分に振り向いてくれたらどうにかして兄から奪い、彼女の家族ごと護ろうと思っていた。そのために必死で体力をつけ、病弱を克服し努力を続けた。
貴女のことを愛していると暗にほのめかすような言葉を口にしたりもした。
──けれど結局、フィアンがアベルを家族として以上に見てくれることは叶わず、彼女は兄の妻となってしまった。
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