執愛の誓い

皇 英利

文字の大きさ
8 / 15
二章 奪われた純潔

(四)

しおりを挟む
──最愛の女性の晴れ姿を見たのは、兄の結婚式でだった。

アベルは幼い頃から兄と比べられて育った。

見目麗しく勉学も武術もでき、多少の性格のわがままさを差し引いても皆に愛される優秀な兄。それに比べて身体が弱く、まともに武術の稽古に参加することすらできなかったアベル。とくに人を惹きつけるものを何も持たないアベルは真面目さだけが取り柄だったが、そこを褒めてくれる人は周りに一人もいなかった。

『どうしてお前は男のくせにそんなに弱いんだ!』

父のそんな怒鳴り声をいったい何度聞いただろう。記憶にこびりついて、幼い頃は悪夢にまで見た。

健康体そのものである兄とは反対に病弱だったせいで、父にはあまり気に入られなかった。

母は赤毛は美しくないと思っている貴族的な思想の持ち主で、ただ美しいものが大好きな女性だった。だから金髪碧眼で人を惹きつける美貌を持つ兄ばかり可愛がった。

基本アベルは子供時代のほとんどを自室で一人寂しく過ごし、いつも兄に対する劣等感や親への反発心を募らせていた。

ずっと惨めで悔しくて、なぜ自分は産まれてきたのかと運命を呪ったこともある。

そんなときだった。兄の婚約者となったフィアンが現れたのは。

実の母親にすら蔑む目で見られていたアベルの赤い髪を、彼女は綺麗だと言って慈しむように撫でてくれた。

アベルが風邪で一人寝込んでいると聞けば、風邪が移るかもしれないのにわざわざ看病をしに部屋まで来てくれた。

誰かに頭を撫でられたのも、大切なもののように扱われたのも、アベルにとっては生まれて初めてのことだった。

フィアンの温かい心は冷え切ったアベルの魂を癒やし、アベルは彼女に出会えた運命に感謝した。

フィアンがアベルのことを気にかけてくれるのは、将来の義弟だからだ。それは重々承知していたが、フィアンへの憧れが初恋に変わるまで、そう時間はかからなかった。アベルにとってフィアンは尊敬すべき女性であり、そんな彼女を一人の男として愛することは自然な流れである。

護られるばかりではなく、この人を護れるくらい強くなりたい。可愛い義弟ではなく、彼女にとっての頼れる格好いい男になりたい。そう思った。だからアベルは身体が弱かったにもかかわらず、騎士を志望した。

いつか彼女が自分に振り向いてくれたらどうにかして兄から奪い、彼女の家族ごと護ろうと思っていた。そのために必死で体力をつけ、病弱を克服し努力を続けた。

貴女のことを愛していると暗にほのめかすような言葉を口にしたりもした。

──けれど結局、フィアンがアベルを家族として以上に見てくれることは叶わず、彼女は兄の妻となってしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...