青の時間

高宮 摩如(たかみや まこと)

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ー第2部ー 元には戻れない現実

ー第7話ー 理解出来ない違和感

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放課後の屋上。ここに居ると今までの事が夢だった様に思える。
僕は無事に二年に上がり、今、ここで一人で居る。それは今まで望んでいた事。望んだ結果。
でもどうしてか、胸の所に嫌な感覚が居座り続けている。
訳の分からない不快感。それがここずっと続いている。
一度病院に行ってはと考えた事がある。けど相変わらずそんな余裕はない。
どうしてこんな気持ち悪さと付き合わなければならないのか。
こんな不快感さっさと消えてくれればどれだけ楽か。
けど、今のところそれは叶ってはいない。
そしてこの不快感に慣れてくるともう一つの感覚が出て来る。胸に感じる細い針で何度も刺される様な嫌な痛み。
なんだよ、こうも次から次へと。どうしてこう不快な事が続くのか。
実に嫌になる。不快感と共に苛々が募っていくのだから。
望んだ状況、望んだ事になっているはずなのにどうして不快感がこうも出て来るのか。
一人を楽しめていればそれで良かったはず。けど今は不快感に煩わしく思う日々。
どうすれば良いのか、何をすれば望んだ日常へと戻れるのか。
もうその答えは自分で見付けるしかない。
そこで脳裏に浮かんだ事。ふと思い出す様に彼女の姿が記憶に浮かぶ。
そうだ。そうだった。少し前まで僕に答えを返してくれる存在が居たんだ。
「んぐうっ!。」
そう彼女の事を考えていると急に胸部に強い痛みを感じる。ほんとに、なんなんだよこれ。
二年になっても僕は自分の状況、環境を変えようとはしなかった。
彼女とう存在がいなくなった事でよりそれが確実になったと言ったところだ。
そもそもそれが最初から望んだ事でもある。
ただ一つ問題があった。二年になって屋上が少し遠くなっていた。
考え様によってはどうでも良い問題だったが、少しばかり面倒臭いというのが正直なところだ。
そしてここに来てもう一つ面倒な事が起きていた。
「やってしまった・・・・。」
高校二年始まって早々の中間試験で僕はトップランクの成績をとっていた。
まさにしまった、だった。彼女と一緒に勉強するようになってから試験の調子が上がっていた。
だから試験で手を抜くという事により神経を使っていたはずだったけど。
彼女が居なくなった今でもその実力はまだ残っていて、そして今回は手を抜く事を忘れていた。
「面倒な事になるよなぁ。」
誰も聞いていない愚痴をつい口にしていた。
だけどそれは予感ではなく現実になると理解している事。
「聞かせてくれ、大学は何処を狙っているんだ?。」
「進路は決めているのか?。勿論○○大学だよな?。」
「進路は?。ちゃんとした大学を考えているよな。
 うちの学校の名誉にも関わる事なんだ。真剣に検討してくれよ。」
高ニとなれば進路問題が本気で絡んで来る。特に成績が良い者なら尚更だ。
実に予想通りの鬱陶しい事が僕の周りで起きていた。
それを無視出来ればどれだけ楽か。けど実際にはそうはいかない。相手も本気で、真剣だからだ。
だったらと考えた。期末試験では手を抜けば?。勿論赤点は避けて。
そうすれば教師逹も諦め、静かになるのではないか。それは名案に思えた。
まだ不快感はある。それでもやるしかない。けど実際にはそうはならなかった。考えが甘かったという訳だ。
「何をやっている。次は頑張れよ。」
「お前、学校の名案に泥を塗るつもりか?。」
「こんなところで燃え尽きたなんて無いよな?。まだ諦めるには早いぞ。」
計算外というのでいいのか。これはこれで五月蝿いままだった。しかも・・・・。
「嘘だろ・・・・・・。」
少し加減を間違えたらしく赤点が一つあった。
これもまた厄介な事になったと思ったが、幸いにも両親が呼び出されるという事は起きず、
またこの事で帰って来るという事もなく、そこは安心出来た。
また追試自体も然程難しくもなくクリア出来ていた。
一応安心出来た事ではあったが、そうでもない事もまだ多く有る。
そして正体不明の不快感。この感覚は思ったより不安定で、時折体の自由を奪われると感じる事がある。
本当に面倒臭い状況が重なり、続いている。
そしてある日の休日。僕にしては珍しく外に出てぶらぶらとしていた。
「あれ?。」
不意の事だった。見覚えのある後ろ姿を見た気がした。
「彼女?。」
無自覚に口にしていた。けどすぐに見間違いだと確認出来た。
「うがぁっ!はがぐっ。」
次の瞬間と言えるものだった。突然強烈な痛みが胸部を襲う。まるで長剣で胸を貫かれたように。
こんな状態で呼吸が出来るのか?。息苦しさを覚え、パニックになりながらも思う。
僕にはその時間が永遠に思えた。けど実際には実に短い時間だったはず。
少しずつ呼吸が落ち着くのを待つ。
「あの、大丈夫ですか?。」
「・・・・は、はい。」
今は街中で人が多い。だから仕方ないと言える声が僕に掛かって来る。
だからこそ落ち着き、楽になったと思えたら僕は早々にその場を去っていた。
その後はいつも通り。必要以外は外には出ない。そう決めていた。
こうも自分をコントロール出来ない。こんな歯痒い事はない。
でも、なんで自分がこうなったのか、未だに原因が解らないまま。それもまた歯痒い。
正体不明の不快感とそれに伴う訳の解らない痛み。そしてだからこその苛々。
そういった物事に思考力を奪われていっている。
なんて事だ。これでは彼女に溺れていた時と変わらないじゃないか。
この状態は自分というものを無防備にしてしまう。
早く、原因を見付けてなんとかしないと。
せっかく望んだ平穏になったのに、これでは無駄にしてしまう。
何より、どうしてか彼女の事を時折思い出す。今更どうでも良いはずなのに・・・・。
僕はこの時、自分をもっと客観的に見れていれば自分に起きている事に対処出来ていたのかもしれない。
ただかつての自分だけを見て。目を背けるべきでない事から目を背け。
自分の都合の良い事だけをただ見ようとしている。
自覚なんて無かった。自分がまた無責任な考えをしている事に。
だからこそ問題は解決せず、事態は何時まで経っても解決しない。その事に気付いてさえいなかった。
そして気付くべき外の悪意にも事が起きるまで気付かなかった。
誰かに気付けられるのは嫌。それは彼女の言った事でもあったけど。
ちゃんと考えみればそれは僕も同じで。いや、もしかしたら多くの人の共通の思いかもしれない。
どちらにしても、全てにおいて遅すぎた。それが僕の招いた結果だった。
一見何か考えているけど、大事な事は何一つ考えてはいなかった。
ただ楽をしたい為に無自覚に現実逃避をし。でもその為に訳も解らないままに苦しんでいた。
だけども、それらから目を背け、気付かないままに惰性に堕ちていた。
その代償で地獄を見るとも知らずに・・・・・・・。
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