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ー第1部ー 出会いと崩壊

ー第6話ー 関係の終焉

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もうどの位、彼女との関係に溺れ続けたのか。
親が滅多にかえって来ない。その事を悪用して彼女との性の快楽を堪能し続けている。
だからこそ気付く事もなかった。全ての行動には責任が伴う。
その事実がすでに僕の、彼女の周りで動き始めてた。
僕達がしている事は本来なら責任が伴うもので、僕達が負わなければならないもの。
けど、その現実から逃げ、目を背け、ただ快楽を求め続けるだけ。
何時の間にか僕と彼女の関係はそうなっていたと思う。彼女も本来の目的を忘れて・・・・。
けど、現実というものは常にすぐそばに存在しているもの。たとえ当人がその事を忘れていたとしても。
そしてその事実にやはり僕は気付きもしなかった。
時期はそろそろ冬休みという頃だった。最初はあれっ?位にしか思ってなかった。
いつもの放課後、今では居場所ではなく彼女との集合場所となった屋上。
けどその日、彼女は来なかった。そしてそれが翌日、翌々日と続く。
それが続く事で僕の中で何でという思いから違和感が沸き上がっていた。
もしかしたら彼女に何かあったのでは?。あまりにも遅い気付きに焦り、
彼女に教えて貰っていた連絡先に電話を掛ける。けど彼女は出なかった、ただの一度も。
なんで?。どうして?。気持ちだけが焦り、苛々に変わっていく。
徐々に冷静さを失い、考える事を放棄していった僕。
だから事実が僕の目の前に来るまで状況を理解すら出来ずにいた。
ある日、唐突に職員室に呼び出される。その理由は全く分からなかった。
「!」
その光景はまさに驚きだった。職員室出入り口ドアを囲む様に大人達が立ち並んでいた。
その中心に立つ事となった僕。本当に何事と思える光景であり、僕が混乱に陥るには十分な状況だった。
「君が何をしたのか。何故呼ばれたのか。判るかな?。」
何処からか聞こえて来た年齢を感じさせる男の声。訳も判らず、ただ僕は思わず首を横に振るだけで答えていた。
「なんだと。」
その声も何処からか突然に聞こえて来ていた。けどそれからすぐだった。
何時の間にか僕の目の前に立つ壮年の男。その人がさっき声の主だった。
「分からないだとっ!。巫山戯けるなっ!。」
急に目の前の男に首根っこを掴まれ、顔が近付いたと思ったら怒鳴り叫ばれた。
その男の表情には怒りの感情が確かに有る様に見えた。そして突然体に鈍い痛みを感じる。
目の前の男に殴られた。その事に気付いた時にはもう一発の痛みが来ていた。
周りの大人達もそれに気付いたのか、慌てて止めに入っているのが目に入った。
だけど男はそんな大人達の制止を振り切り、その後何発か僕を殴っていた。
それからどの位の時間が経過したのか。僕は周りの大人によって僕を殴っていた男から引き離されていた。
意識はまだある。けど体にまとわり付く焼け付く様な痛みのせいで感覚がおかしい。
結局視界には何か写っていると分かっていても、それが何かまでは記憶出来ていなかった。
そんな状態がどの位か続き、ようやく何かを認識出来るようになると場所が変わっている事に気付く。
「ここは?。」
まだ混乱している事もあってつい声に出てしまう。ただすぐにここが何処なのかを思い出していた。
職員室の隣。来客用の部屋。数回程入った事がある。進路関係の説教の時とか。
そして部屋を見回していた事もあって気付いた。
僕が寝かされているソファーの対になる位置。
長方形のテーブルを挟んだ向こうのソファーに一人の男性が座っていた。
年齢は僕を殴った男と近い感じがある。ただ一見雰囲気は穏やかそうに見えた。そして、もう一つ確認。
「うぐぅっ!。」
少し体を動かしてみるけど、まだ強い痛みが走り、体の自由があまり利かない事を理解する。
「あっ、まだ無理は良くないですよ。結構痛め付けられてましたから。」
そう言ったのはソファーに座っていた男。見た目通り穏やかな感じの話し方だった。
その後は男の自己紹介。彼はこの学校の教頭だと名乗った。
「君は本当に自分が何をしたのか、悪い事をしたと理解していない。そうですね?。」
「・・・・はい。」
教頭の言葉に一応そう答える。事実思い当たる事も無い、そのつもりで。
「では”彼女”の事は知っていますね?。そして親しくもある。」
「はい。」
どうしてここで彼女の名前が?。と思うが、当然答えは無い。そして、
やけに回りくどい質問の仕方をしてくると思いながら答えた。そして同時に僕の中で嫌な予感が膨らんでいた。
「私達は君と彼女が如何わしい行為をしている関係だと把握しています。
 これでも、思い当たる事は無いと言えますか?。」
もう、出る言葉なんて無かった。ただただその後も教頭が続ける言葉を聞く事しかできなかった。
その話しの中で解った事。まず今回の事態をいち早く把握したのは”彼女の父親”だという事。
そして僕を殴ったのもそうだという事。ようやく状況が理解出来、今の事態の謎も解けた。
ようするにバレたという事だ、そしてこうなった。でも全部がバレたとは思えない。
彼女の計画、彼女の思惑。そういう知り様が無い事も有る。
ただ僕達の行動の中に迂闊なものがあったのは間違いない。でなければこうはなっていない。
「後の事の話しは親御さんが来てからにしましょう。」
教頭のその言葉にまずいという思いと共に焦りが走る。
想定すべきだった最悪の事態。完全に頭から抜け落ちていた。失念していた。
いや、それだけ彼女との関係に溺れていた、それだけの事だ。
どちらにしてこの後最悪の時間が始まる。教頭はそう宣告した。そして僕の予想は外れる事はなかった。
職員室の一角。僕達はそこに集められた。職員室の椅子を数個を集め、各自がそれに座る。
その頃には僕の体も少しながらも自由が利くようになっていた。
僕と僕の両親。彼女の父親。教頭と僕の担任教師。そして彼女の姿は無かった。
「なんて馬鹿な事を。」
「この恥知らずがっ!。」
「子供(ガキ)が責任を取れると思っていたのか?。思い上がるなよ。」
実に予想通りの両親の罵詈雑言が止まらない。しかしそれでは話しが進まないと教師と担任教師が止めに入る。
そして今度は彼女の父親が話しを始める。だがその内容には驚く事になる。
一応事実もあったけど、大部分がでっち上げで捏造されたものだった。
あげくその内容は僕一人が悪く、諸悪の根元で、僕一人が責任を負うべきだというもの。
勿論僕も反論をした。けど彼女の父親はその全てが嘘だと主張する。
状況は水掛け論だった。どちらも証拠というものが無い。そして唯一証拠となる彼女もいない。
一応教頭もその事に気付いて指摘するけど。
「巫山戯るなっ!。今回の事で彼女は深く傷付いているのだからなっ!。」
と、彼女の父親に威圧的に押さえ込まれてしまう。
ここでまずい状況だと僕は気付く。この流れは仕組まれたものではないかと。
ただ僕一人を悪者にする為の罠、策略。それらを彼女の父親が用意し今この状況にしている。
今回の事で最もな人物である彼女が居ないのが証拠とも言えた。
しかし彼女の父親の彼女の現状の説明もこの状況では正論になってしまう。
今回の件で事実を知っているのは僕と彼女だけと言っていい。
そしてその彼女を同席させず、僕を一方的に悪者にする事で”僕と彼女の事実”を弱めてしまう。
僕の反論の信憑性を弱める為に。そして状況はその狙い通りになる。
突然僕を殴り付ける僕の父親。彼女の父親の思惑が成った瞬間だった。
一瞬周りもパニックにはなるけど、先の彼女の父親の行動もあって教頭と担任教師の対応は早かった。
でも、それでも親達の罵声は暫くは止まなかった。
僕の両親。彼女の父親。無秩序となった怒鳴り声だけがこの空間を支配している。
教頭と担任教師が止めに入っていたが、あまり効果が無いというのが見て理解出来た。
そして静かになった時には当然と言うべきか、親達の姿は無かった。
そして椅子に座る僕に疲れ切った表情の教頭が近付いて来る。
「さてと・・・・。」
そう言いながら僕と向き合う様に椅子に座る教頭。
「本来ならこの話しは親御さんと一緒に聞いてほしいところですが。
 さっきまでの状況が状況ですので諦めます。それでは君への処分ですが。」
もうどうでも良かった。まだ体の痛みの方が気になっていたのもあったけど。
ここまで悪者にされて、弁解も許されない。だからこその自暴自棄と言っていい諦めの感情もまたあった。
そして僕への処分が伝えられる。
1・一学年残り登校日全日を謹慎とする。
2・但し三学期の試験は受け、合格する事。
3・上記の事情以外の自宅からの外出を原則禁止とする。
4・上記の事を厳守したのであれば二年への進級を認める。
思ったよりは重くない。僕への処分への第一印象がそうだった。
しかし、これで僕の高校一年は終わった。それは確かだ。
そして後に知った事。彼女が転校したと。
それを聞いた時。もう二度と彼女と会えないのかもれない。
そんな愚かな未練が未だに僕の中に残っていると自覚する・・・・・・・。
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