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ー最終部ー 本当の繋がりと想いを共に

ー第14話ー 初めての友達

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”友達をつくってみたら”それは叔母からの提案でもあったけど。
以前の事もあって、僕自身も誰かと関わりを持ちたいと思っていた。
けどその思いは早々に頓挫しかけていた。
原因は休み時間になるとなると流れて来る無数の音楽。
同じものが重なって聞こえる事もあれば、違うものが交じり聞こえる事ものもある。
元々両親のせいで音楽とは関われず、流れ聞こえてくるものが何であるかも知らないものばかり。
せめて好感を抱ければ少しは良かったと思うけど、僕の中で沸き上がったのは”気持ち悪い”だった。
当然そう簡単に受け入れられるものじゃない。何故気持ち悪いと感じるのか、訳の解らないままには出来なかった。
けど、いくら考えても答えは出なかった。じゃあ慣れればとも思ったけど、
どれだけ時間を掛けても違和感に似た気持ち悪さは消えなかった。
そして結局堪らず、教室を出て音楽が聞こえなくなるまで廊下を歩いていた。
「あれ?。」
廊下がL字になっている角の隅に一人男子生徒がいた。見覚えはあった、確かクラスメイトだったと思う。
「よっ、お前も逃げて来たクチか?。」
廊下に響く足音で気付いたんだと思う。彼は僕に話し掛けていた。実際今ここには僕達二人しかいない。
「逃げて来た、何から?。」
「教室の音楽からだよ。あれっ、違ったか?。」
「あっ、うん。そうだね。」
自分でも今緊張していると解る。叔母と彼女以外まともに話した事なんてなかったから当然だけど。
「ちょと勘弁だよな、休み時間音楽を自由に聞いて良いまでは良かったけど、
 ついでにイヤホンもOKにしてほしかったよ。」
「いやほんって何?。」
「えっ、マジ?。説明、そこから必要なのか?。」
彼の疑問に素直に頷く。彼の方は最初は驚いた表情をみせていた。けど・・・・。
「お前さん転入生だったよな?。」
「うん。」
「一応言っておくけどよ、イヤホン知らないって、珍しいじゃなくてあり得ないってのが普通なんだけどな。」
「えっと・・・そうなの?。」
「マジ・・・かよ。お前さん、浮いてるなぁて見えてたけど、マジで浮いてる奴だったとわな。」
最後の辺りで呆れた様に言う彼。そしてその後にイヤホンについて教えてくれた。
イヤホンとは耳に付ける物で、誰にも邪魔されずに音楽を楽しむ事が出来る物だと。
「そのイヤホン、使っちゃ駄目なの?。」
「ああ、教師達曰く授業の妨げになるからだと。音楽垂れ流しも十分妨げになると思うけどな。」
「え?、どういう事?。」
「今のところ内のクラスには居ないけど。去年はいたんだよ、授業中構わず音楽流してた奴。」
「そうなんだ。」
「なかなか迷惑だったぜあれは、聞きたくないのを集中したいのに聞かされるってのわよ。」
そこで僕は気付いた彼は”お前も逃げて来たクチか?”と言った、つまり彼も教室に流れる音楽を嫌っていると。
「なんでみんなあんな気持ち悪い音楽を聞くのかな?。」
「そりゃまぁ、それが流行歌だから。だろうな。」
「りゅうぅこうぉか?。」
「はぁ、それも説明が必要か。まぁ予想はついたけどな、」
「ごめん。」
「謝る事じゃねぇよ。何でかは知らねぇけど、そういう事を知らないできたって事だろ?。」
「うん、そうだね。」
そこで僕は思った。彼に僕の”今まで”を話してみてはと。
けど同時に怖くもあったそれで彼の反応、対応が変わるかもと。
誰かと関わってみたいとも思っているけど、今だにその事に怖さもまた残っていた。
でも、あえて話してみようと、そう思った。
「げぇ、それマジかよ・・・・。聞くんじゃなかったってレベルでヘビィな話しだな。」
「うん、そうかもね。」
「あははは、そんな軽いもんじゃねぇだろうによ。たいした奴だよお前は、気に入ったぜ。」
「えっと・・・・うん?。」
「なぁ、俺の音楽聞いてみるか?。」
彼の質問は唐突だった。だから当然戸惑った。けど・・・・。
「うん。聞いてみたい。」
一応僕は答えた。けど正直僕には彼とみんなとの音楽は何が違うのか、それすら分からない状態だった。
そして彼は音楽プレイヤーという物を操作し音楽が流れて来る。
クラスのみんなの音楽と違うのは歌という部分が無い事。そしてどこか不思議な感じの音楽。
「なんか、不思議な感じ。でもなんか良いね。」
「おぅ、そいつは良かったよ。これはゲーム音楽って言うだよ。」
「げぇむ?、音楽?。」
「ははっ、やっぱそこから説明が必要なのな。」
話しに夢中になり過ぎたのか、突然の様に鳴ったチャイムに二人して驚く。
「おっと、ヤベェ。教室に戻ろうぜ。」
「うん。」
二人して走り、教室に戻る。間違いなく初めての経験だった。それだけに不思議な感覚だったと思う。
それからは廊下の角隅が僕と、そして彼の居場所。そんな感じだった。
その時間はただ音楽を聞くだけじゃなかった。
「そういうのも有るの?。」
「ああ、それとこういうのもあるぜ。」
彼から色々と教わる時間でもあった。
「これは・・・また違う感じの音楽だね。」
「おぅ、今回はクラシック音楽だよ。ゲーム音楽とどこか似てる感じがあってな、一応好きな音楽の一つってとこだよ。」
「くらしっくぅ?。」
「ああ、やっぱそうなるのな。」
当然音楽もまたその一つだった。
そうして彼とは放課後も一緒にいるようになった。
「なぁ、何で図書館なんだ?。」
「静かな所というのもあるけど。」
「でも音楽は聞けねぇぜ。」
「でもこれがある。」
そう言って僕は一冊の本を彼にわたす。
「あっ、成る程な。本には詳しいのか?。」
「少し、だけどね。」
前の学校、屋上に入り浸る前に図書室を居場所にしていた時期があった。
人も少なく、静かで本という時間潰しの手段もある。意外と理想的な場所だった。
ただ図書室に入り浸るという状況が当時の担任教師には面白くはなかったのか散々注意を受け、
それから逃げる様に図書室を去っていた。今思っても良い居場所だったと思う。
「じゃあ今度は俺に本を教えてくれよ。実はだ、本には苦手意識があってな。あんま関わってこなかったんだ。」
「うん、良いよ。」
「おうっ。決まりだ!。頼むぜ相棒。」
「相棒?。」
「ああ、駄目か?。」
「ううん。良いよ。」
「よぉし、今日からお前は俺の相棒だ。宜しくな。」
「うん。宜しく。」
少しばかり彼の勢いに圧倒されていると感じる。けど、悪くない。うん、悪くない。
それから・・・・・・。
「色んな事もだけど、この街の事でも分からない事があれば教えるぜ。なんせ地元民だからな。」
「うん、有り難う。」
「うん?、どうした。」
彼の向けて来るものに僕は戸惑いを覚えていた。どうやらそれに彼は気付いたようだ。
「どうして、こんなに色々としてくれるの?。まだ知り合ったばかりなのに。」
「お前の事、気に入ったからだよ。だから相棒って呼んでる。それじゃ駄目か?。」
「ううん。こういう事全然経験が無くて、だから解らなくて。どうしたら良いか・・・。」
「じゃあ、一緒に覚えていこうぜ。その色々をなっ相棒。」
「うん、有り難う。」
彼との交流が始まってから二週間。時間としては決して長くはないけど。
僕にとっては実に濃密でより長く感じられる。そんな時間だった。
そして・・・・・。
「あのぉ、僕と友達になってくれないかな?。」
まさに勇気を振り絞ってと僕は彼に言っていた。
「おいおい、今更なんだよ。」
僕の言葉に彼は最初きょとんとし、そして呆れた様に言う。
「俺達、もうダチじゃねぇのか?。」
「えっ?。」
彼から返って来た答えに僕は驚き戸惑う。えっとどういう事?。
「お前、やっぱりズレてるぜ相棒。確かに知り合ってそう長くはねぇけどよ。
 あんだけ、つるんで、色々教え合ってよ。んで楽しかった、だろ?。」
「うん、そうだね。」
「だったら間違いねぇよ、俺達はもうダチだ。」
彼の言葉と共に向けてくる満面の笑み。その全てが初めてがだった。
「ごめん、僕にはやっぱり解らない事が多いよ。」
「謝る必要はねぇよ。叔母さんだっけか、これから知っていけば良いって言われたんだろ?。
 だったらそうするだけだろ。これからもな。だから謝るな。」
「うん、有り難う。」
気が付けば僕は泣いていた間違いなく嬉しさで。
「おいおい、泣くなよ。それにここは有り難うじゃなくて宜しくだぜ、相棒。」
「うん、宜しく。」
「おうっ。」
それから、勢いのままにって言って良いと思う。僕は彼と叔母を会わせる事にした。
「驚いたね、正直もっと時間が掛かると思っていたよ。」
「うん、僕もそう思ってた。」
言葉の通り驚き、そして喜んでくれている様にも思える叔母。
「偶然にしても、何にしても。手に入れたものも、大事にしなよ。」
「うん。」
最後に小さな激励で叔母は締めててれていた。そして・・・・・。
「どうも初めまして。聞いていた通り、なかなか男前の方ですね。」
「あっ!!。今なんて言ったテメェ。」
彼の言葉に容赦の無い殺気を向ける叔母。ちょっ、ちょっとおぉ、煽らないでって言ったのに。僕まで睨まれてるよ。
一応その後に叔母に謝っておき、その事もあってかそれからは和気藹々とした時間が流れた。
初めまして出来た友達。勿論戸惑う事も多い。
けど、こんなにも充実とした時間になるなんて思ってもみなかった。
これからもこの関係を大事にしていきたい。それは本気で、そして真剣に思えた事だった。
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