【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。

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本編

第十九話 覚悟②

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 屋敷の人間が動いている間は下手な動きが出来ないので、真夜中になるまで出来るだけいつも通りの生活を意識した。
 そして久しぶりに食堂で父と夕食を共にしたけれど、やはりいつも通りの光景だった。

「アリア、今日アイザックが屋敷に来そうじゃないか。何も変わりはなかったのか」
「……はい、私の体調を心配してわざわざいらして下さったようでした。体調が回復したら一緒に出掛ける約束もしました」
「……そうか。ならいい」

 そう言って微笑む父は、あの日婚約解消をしたいと言った私が諦めずアイザック様に直談判しなかったか確認したかったのだろう。

 (心配しなくても、そんな事しないのに)

 父に、私という人間は見えているのだろうか。たった一度でも駒としてではなく、娘として見てくれた事があったのだろうか。
 また暗い思考に引きづられそうになる心を、無理矢理持ち上げ出来るだけいつもと同じように食事を摂る。

 (どのみち成功しても失敗しても、こうして顔を合わせるのはこれが最後になるのよね)

「あ、あの、お父様!」
 
 そんな風に思ったからか食事を終え退出する父に、気付けば私は声をかけていた。
 
「!どうしたんだアリア。大きな声を出すなんて、いつものお前らしくないじゃないか」
 
 そう言った父は普段は無表情なのに、この時ばかりは僅かに目を見開き私という存在をはっきりと目に写してくれた様に感じた。

 (何だか今日は生まれて初めてお父様の人間らしい表情を見た気がするわ)

「……」
「本当にどうしたんだ」
 
 無鉄砲に呼び止めたから、言いたい事が纏まらず言葉が出てこない。それでも父に、今この瞬間に伝えたいと思った言葉があった。
 
「……ありがとうございます」
「アリア?」
「お父様、私幸せです」
 
 精一杯の笑顔で父にそう伝えた。愛情は貰えなかったけれど、何不自由のない恵まれた生活をさせてくれた。
 私は確かに幸せだった。そんな思いを乗せた言葉が父にも伝わったようで、父の表情が更に柔らかいものに変わった。
 
「ああ、お前は幸せになれると信じてる。何も問題はない、大丈夫だ」
「はい、お父様」
 
 思わず涙が溢れそうになる。でも私は今まで培ってきた令嬢としてのプライドで流れそうになる涙を必死に押しとどめた。
 父が……いつも無表情なあの父が、ほんの少し柔らかく微笑んでくれた。
 その笑顔が見れただけで、もう十分だった。



 お父様、親不孝な娘でごめんなさい。
 私は自分勝手な女なのです。だって自分の幸せの為に、侯爵家を。お父様を。私の全てを捨てるのですから。



 どうか、どうか、私を許さないで——。
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