【完結】その二人、案外似合いの夫婦かもしれません。

おもち。

文字の大きさ
3 / 3

・その二人、案外似合いの夫婦かもしれません。

しおりを挟む
「ステラ!見てくれ、この書類きちんと精査出来ているだろう!?」
「どれどれ……って、凄いじゃないライアン!前より分かりやすく分けられてる!」
「ス、ステラに褒められたくて頑張ったんだ!なぁ、俺は頑張っただろう!?」
「ええ、凄いわライアン。いつもありがとう」

 そう言ってしゃがみ込み、ステラ様に頭を撫でられている坊ちゃまはどこからどう見ても忠犬そのものでございます。
 ただの忠犬ならば侯爵家の人間は皆、微笑ましく目の前の光景を見ていられるのですが、どこまでいってもあの坊ちゃまですからね。

 夜会にご夫婦で出向き、ステラ様に言い寄る者が現れると途端に忠犬から狂犬へと変貌を遂げ、周囲の人間が引くくらいの忠誠をステラ様に尽くしていらっしゃいます。
 正直ここまでの変化には驚きましたが、私としては納得する部分もあるのです。

 長きにわたって後継者教育を施され、出来ないながらも必死で頑張っていた坊ちゃまの姿に、私は何度も涙が溢れそうになりました。
 侯爵家から一歩外に出てしまえば、口さがない者達が坊っちゃまの能力に対して本人に聞こえるように話に花を咲かせていたのを何度耳にした事でしょう。
 ですが私の立場はあくまで使用人に過ぎません。そんな立場の私には、彼らを止める術すらありませんでした。

 確かに初夜の場でステラ様も坊っちゃまの能力に関して口にしてはいました。ですがステラ様は坊ちゃまの能力を馬鹿にするのではなく、自分の出来る事をしたらいいと仰っていました。
 あのように坊ちゃまに対し、真っ直ぐ言葉をかけてくれた方は私が今まで長く仕えてきて中で初めてお会いしました。
 やはり我らが旦那様の目に狂いはなかったようです。

 まさかあのように犬のようになる事は想定しておりませんでしたが、結果的には良かったのではないでしょうか?
 確かにステラ様に言い寄る殿方に対する坊ちゃまの態度は狂犬のようですが、それ以外は身体に染み込んでいる次期侯爵としての教育の成果がきちんと出ているように思います。
 そしてステラ様の満更でもなさそうな態度を見るからにお二人はとてもお似合いの夫婦だと思うのです。

 そんな今日も今日とて、坊ちゃまはステラ様に褒められたいが為に執務の補佐を務めます。
 ご結婚される前によく目にした、ピリピリとした硬い表情などではなく、心から楽しそうに執務の補佐を務める坊ちゃまを見る事ができ、私は心の底から安堵しております。

 ……可愛い可愛いライアン坊ちゃま。
 乳母として初めて坊ちゃまをこの腕に抱いた日が、まるで昨日の事のように思い出されます。
 例えどんなに影口を叩かれようと、苦しい時を過ごしていようとも、決して侯爵家嫡男としての誇りを見失う事のなかった貴方様は私の誇りでございます。

 これから奥様と共に、お二人でウォートン侯爵家を更なる繁栄へと導かれる事でしょう。
 その姿を侍女という立場で共にいられる事、とても嬉しく思うのです。
 ライアン坊ちゃま……どうか、どうか幸せになって下さい。

「ステラ!」
「まったく……ライアンは本当に犬のようだわ。初夜での傲慢さはどこへいったのよ?」
「あ、あれは……その、本当にすまなかった。君を深く傷つけてしまった」
「……惚れた弱みよねぇ」
「え?何だ、うまく聞こえなかった。ステラ、もう一度言ってくれ!」
「犬のようだって言ったのよ」
「嘘だ!!ステラ、何と言ったんだ。俺に教えてくれ!」
「もー、……愛してるって言ったのよ」
「ステラ」
「愛してるわライアン」
「俺、俺も愛してる!!」
「だからって抱き着かないで!」
「ステラ~!」

 ステラ様に勢い良く抱き着いた坊ちゃまは、嫌がられながらも嬉しそうに頬ずりをしています。

 こんなにも幸せな光景を与えてくださった旦那様に、私はそっと心の中で感謝を申し上げ、遠目に映る若夫婦をもう一度深く目に焼き付けます。
 こうして二人を見る事は、これが最後だと言い聞かせながら。
 そして私は踵を返しその場を後にするのです。

 「可愛い、。どうか幸せになってね」

 そうして次の瞬間には、いつもの侍女としての姿に戻る。
 そう、私の――。







end.
しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

あましょく
2023.03.29 あましょく

坊っちゃまと奥様の(・∀・)ニヤニヤな馴れ初めに懐かしのGS美神の美神さんと横島を思い出して更に( ≖ᴗ≖​)ニヤニヤしてしまいました。
ハイスペックな年上の女性がダメ男だけど腐ってなくてここぞって時はへこたれない年下男に絆されてハピエンは何歳になっても心の潤いです。

惚れて抱きしめてベッドにダイブしたけれど、ど、どうしよ…となってる旦那様に奥様はキュンとしたのかな?仔犬(∪´・ω・)に懐かれてしょーがないヤツ(キュン)みたいなw
ハイスペックで懐のひろ〜い年上故に受け入れて、後は教育すれば良いかと思ったら出来ないなりに努力し成長し一途に愛してる(*-(  )チュッ♪の日々で他の男からも狂犬の如くガードしてくるほどの溺愛ぶり…
う〜ん、これは惚れる(名推理)

乳母が実は…というのも良かったです。
語られない乳母の背景が、坊っちゃまが何故父親に甘やかされ放題だったのか考察できて良い。
乳母のこれからの人生も幸せだと良いな。

解除
tago
2022.12.26 tago
ネタバレ含む
2022.12.26 おもち。

tago様、感想ありがとうございます。

坊ちゃまは今までの反動+本来の性格も重なり現在は駄犬と化しています(;'∀')笑
そんな坊ちゃまですが、愛されて育ち、“愛”を知っている人でもあるので、この先もステラの忠実な犬であり、妻を愛する優しい夫となっていくのかな?と私は勝手に想像しています(*ノωノ)

この度はお読みいただき本当にありがとうございました☆

解除
おゆう
2022.12.25 おゆう
ネタバレ含む
2022.12.25 おもち。

おゆう様、感想ありがとうございます。

実は……という感じですね。笑
ですが、彼女は生涯に渡ってこの秘密を人に話す事はないので、彼女と侯爵、そして数人の古参の使用人だけの秘密です。
ライアンは気付いていないけれど、実はとっても愛されている存在でした☆

この度はお読みいただきありがとうございましたm(__)m♪

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

私はアナタから消えます。

転生ストーリー大好物
恋愛
振り向いてくれないなら死んだ方がいいのかな ただ辛いだけの話です。

婚約破棄、別れた二人の結末

四季
恋愛
学園一優秀と言われていたエレナ・アイベルン。 その婚約者であったアソンダソン。 婚約していた二人だが、正式に結ばれることはなく、まったく別の道を歩むこととなる……。

伯爵令嬢の婚約解消理由

七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。 婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。 そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。 しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。 一体何があったのかというと、それは…… これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。 *本編は8話+番外編を載せる予定です。 *小説家になろうに同時掲載しております。 *なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。

ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた

玉菜きゃべつ
恋愛
 確かに愛し合っていた筈なのに、彼は学園を卒業してから私に冷たく当たるようになった。  なんでも、学園で私の悪行が噂されているのだという。勿論心当たりなど無い。 噂などを頭から信じ込むような人では無かったのに、何が彼を変えてしまったのだろう。 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。何度そう思っても、彼を愛することを辞められなかった。 ある時、遂に彼に婚約解消を迫られた私は、愛する彼に強く抵抗することも出来ずに言われるがまま書類に署名してしまう。私は貴方を愛することを辞められない。でも、もうこの苦しみには耐えられない。 なら、貴方が私の世界からいなくなればいい。◆全6話

私はあなたの前から消えますので、お似合いのお二人で幸せにどうぞ。

ゆのま𖠚˖°
恋愛
私には10歳の頃から婚約者がいる。お互いの両親が仲が良く、婚約させられた。 いつも一緒に遊んでいたからこそわかる。私はカルロには相応しくない相手だ。いつも勉強ばかりしている彼は色んなことを知っていて、知ろうとする努力が凄まじい。そんな彼とよく一緒に図書館で楽しそうに会話をしている女の人がいる。その人といる時の笑顔は私に向けられたことはない。 そんな時、カルロと仲良くしている女の人の婚約者とばったり会ってしまった…

【完結】騙された侯爵令嬢は、政略結婚でも愛し愛されたかったのです

山葵
恋愛
政略結婚で結ばれた私達だったが、いつか愛し合う事が出来ると信じていた。 それなのに、彼には、ずっと好きな人が居たのだ。 私にはプレゼントさえ下さらなかったのに、その方には自分の瞳の宝石を贈っていたなんて…。

君を幸せにする、そんな言葉を信じた私が馬鹿だった

白羽天使
恋愛
学園生活も残りわずかとなったある日、アリスは婚約者のフロイドに中庭へと呼び出される。そこで彼が告げたのは、「君に愛はないんだ」という残酷な一言だった。幼いころから将来を約束されていた二人。家同士の結びつきの中で育まれたその関係は、アリスにとって大切な生きる希望だった。フロイドもまた、「君を幸せにする」と繰り返し口にしてくれていたはずだったのに――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。