【完結】その二人、案外似合いの夫婦かもしれません。

おもち。

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・本日無事に、坊っちゃまが婚姻されました②

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「お前を愛する事はないし、俺からの愛を求めるな、期待するな!!この田舎貴族め!」
「……それは」
「大体どうして次期侯爵である俺の伴侶が下位貴族の人間なんだ!」
「あの、旦那様、一言だけよろしいでしょうか?」
「あぁ?なんだ、俺は今最高に苛立っているんだ、手短に済ませろ」
「では僭越ながら…………別にあんたの愛なんか求めてませんけど?てかそっちこそ勘違いしてんなよ。チッ」
「……は?」
「こっちはさ、最初から愛とか恋とか抜きで、お金の為に嫁いできたんですけど?」
「な、な、な、」
「お義父様から少々不出来って聞いてたけど、少々どころかまるっと不出来じゃん。ねえ、さっきから『な』しか言わないけどそれ以外話せない感じ?」
「ば、ば、「ば?」」
「馬鹿にするなぁぁぁぁ!!」
「あ、喋った」
「何なんだ、さっきから!俺の方がお前よりも爵位が上なんだぞ!もっと敬え!」
「そっちが先に無礼な事してきたんだから、私が何を言おうと問題はないでしょ?」
「っ!?」
「そもそも、何で私があんたの花嫁になったと思ってんの?侯爵……お義父様に泣きつかれたからなんですけど。だってあんた、甘やかされすぎて使い物にならないんでしょう?実際」


 あぁ、坊っちゃまが俯いてしまわれました。
 ウォートン侯爵家の唯一の跡取りである坊っちゃまは、大変周囲から愛され蝶よ花よとお育ちになったので、ステラ様のような勇ましい女性を今まで見た事がありません。

「っ……」

 あぁ、俯いていた坊っちゃまが小刻みに震え始めましたね。
 きっと初めて経験するこの状況に戸惑われ、もしかしたらいつものように泣きじゃくるかもしれません。
 泣き喚く坊っちゃまをステラ様は見た事がございませんから、これは確実に引かれてしまうかもしれません。が!今更ステラ様に婚姻を無効にされるわけにはまいりません。

 そして本日の婚姻に際し、旦那様から拝命している使命。私、アマンダは必ず二人の初夜を見届ける役目も仰せつかっているのです。

「俺は……使い物にならないのか」
「ええ、全く」
「そんなに……」

 あら、いつも見たく泣き喚くと思ったのですが今日はいつもとは違い、きちんと会話が成立しています。
 何とも不思議な事もあるものですね。

「あんたが使い物にならなくて侯爵家の全てを任せられないから、私が嫁いできたってわけ。私はその見返りに実家の子爵家に援助してもらえるし、双方理があるの。分かる?」
「じゃあ……俺の事は、」
「何とも思ってないです。あ、何とも思ってないは嘘ね。重たい荷物だなって思いますね」
「重たい……」

 ……坊っちゃま、普通ここは“お荷物”の方を気にするものですよ。
 ブツブツと重たいとしか言わなくなった坊っちゃまを無視してステラ様は就寝の準備を始めてしまいました。
 いけません、これでは旦那様の言いつけを違えてしまいます!
 新婚夫婦の寝室に乱入するのは本来であれば御法度ですが、今回は致し方ありませんね。

「俺はどうしたらいいんだ」

 あまりの衝撃の展開に、握りしめた隠し扉のドアノブからそっと手を離し私は思わず聞き耳を立ててしまいました。
 この隠し部屋はこちらから寝室の中を覗く事は可能ですが、逆に寝室からこの隠し部屋の中を見る事は出来ないのです。
 ……それにしても今日は何とも不思議な事の連続です。普段の坊っちゃまなら、あんな風に連続で叩きのめされたら泣き喚くどころが地べたに転がって気が済むまで泣き喚くはずなのですが、今日はきちんと会話が成立しております。

「出来ないなら出来ないなりに努力するだとか、他の事するだとかあるでしょ、色々と」
「……他の事」

 顔だけしか取り柄がない坊っちゃまがステラ様を一生懸命見つめております。
 あのように切なそうにしていると顔だけは良い坊っちゃまは、まるで捨てられそうになっている子犬のように庇護欲をそそりますね。

「とりあえず侯爵家の事は私に任せて。だって私はその為にここへ来たんだから」

 そう言って拳でトンっと胸を叩いたステラ様は本当に光輝いております。
 呆然と立ち尽くす坊っちゃまと自信に満ち溢れているステラ様。これでは一体どちらが跡取りなのか分からないですね。

 ですが、肝心の坊っちゃまは今度こそ泣くのではないでしょうか?
 なんだかんだ言って侯爵家次期当主として努力はしていたのです。その努力が実ったかは別として。


「好き」
「……は?」


 ……今何か小さく聞こえたような気がしますね。私もここ数時間ですっかり年を取ったのでしょうか?
 それとも耳が勝手に聞く事を拒否しているのでしょうか?今しがた聞こえてきた呟きの意味を理解するのをまるで全身が拒否しているような感覚に陥っております。


「好きだ」
「……頭沸いてんの?」
「沸いてない。ステラ、貴女が好きだ」
「ちょ、ちょっと待って。何で、何で言いながら私に近づいてくるの!?」
「ステラ、貴女が好きだ。結婚してくれ!!」
「はぁ!?冗談キツイって。てかもう夫婦だし!?」


 何と……ミラクルが起きてしまいました。
 これは大至急旦那様に報告をしないといけません。
 あのヘタレ坊っちゃまが女性に好きだと告白するなんて(まぁ相手は既に奥様なのですけれど)

 ここへ来て何という急成長なのでしょうか。
 このアマンダ、ウォートン侯爵家にお仕えしてもう随分経ちますが、こんなに輝くような表情をされる坊っちゃまを見たのは初めてでございます。

 やはり旦那様の目に狂いはなかったのですね。
 坊っちゃまの奥様になられたステラ様は、子爵令嬢と確かに爵位は下位貴族になりますが、領地で名を知らぬ者はいないと言われるとても有名な方なのです。

 ウェーズリー子爵領では干ばつによる被害で、近年稀に見る財政難に陥られていたと聞きます。
 その財政難で一時は爵位を返上するところまで追い詰められていたそうなのですが、ステラ様の手腕で少しづつですが、領地の干ばつ被害の早期修繕、そして子爵家の財政を立て直されたと伺った時は24歳の、それも女性が先陣を切って対応にあたったとは誰もが驚いたものです。

「愛してるステラ!」
「ちょっ!こっちに近づかないで!!」
「ずっと一緒にいよう!」

 ふぅ。そう言ってステラ様を抱きしめたまま寝台へダイブした坊っちゃまは、この後自分がどうしたらいいのか分からなそうにしてはおります。ですがそこは我らが若奥様であるステラ様。呆れながらもきちんと導いてくださっているようなので、私アマンダは早急にこの事を旦那様へ報告をする為この場をそっと離れました。

 若夫婦の行く末を見守っていた隠し部屋を後にし、一度だけ振り返った私は坊っちゃまへ向けて、祝福の言葉を口にしました。

「坊っちゃま、どうか幸せになって下さいね」


 ……ステラ様。
 どうか、坊っちゃまをよろしくお願い致します。
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